72-36 防御力強化
『強制停止』は心配するほどのものではないと、エルザをはじめとする心配性なファミリーメンバーに、仁は説明を開始した。
「まず言っておくと、『強制停止』の『命令』自体はそれほど魔力を使っていないからな」
最初期のシールドケースで十分防げる強度だ、と仁は言った。それを聞いて、心配していたメンバーもほっとする。
「それに、『強制停止』の『命令』は、『始祖』製のゴーレムには大きな効果を発揮するが、アドリアナ式のものには効果が薄い」
『命令』の書式が違うので当然である。
「加えて、今の礼子は制御核の安定性を強化しているから、さらに安心だ」
「確かにな。でもジン、油断は禁物だ。何か対策は立てておくべきだよ」
「ラインハルトの言うとおりだな。……こいつは『弾丸』のように、『巡回するゴーレム』から発射されたわけだ」
「……あ、おにーちゃん、発射させないようにする、とか?」
ハンナからの提案。それもまた1つの方向性ではある。
「うん、それもいいな」
「物理防御の『物理障壁』を張っていれば跳ね返せるだろう」
「ジン兄、それより『力場発生器』で弾き返したほうがよくない?」
「あ、その手もあるな」
いずれにせよ、対峙してから発射されたのなら、今の礼子の反応速度なら十分対処できるだろう、と仁は言った。
「問題は不意打ちの場合か」
『物理障壁』を張っていると、狭い隙間が通れなかったり、障害物の多い場所では邪魔になったりする。
なので常時展開するのは得策ではないのだ。
「ねえジン、どのくらいの勢いで発射されるのかしら? それによっては、弱めの『力場発生器』で反発させられるんじゃない?」
シオンが意見を述べてくれた。
「あ、それで思い出したんだけど、レーコちゃんの弱点というか……」
今度はビーナの発言だ。仁は耳を傾けた。
「向こうのゴーレムは頭部がなく、センサー類を複数持っているわけでしょう? 対するレーコちゃんは人型だから、頭部にセンサーが集中している」
「うん」
「だから、どうにかしてレーコちゃんの頭部を封じてしまえば、かなり弱体化させられると思うのよ」
「なるほど……」
具体的には、袋を被せる、壺のようなものを被せるなどを想像すればいい、ということだった。
もちろん、礼子が黙ってされるがままになっているはずはないが、万が一ということもある。
「あ、泥とか粘土のようなものを浴びせられる可能性もあるわね」
「あるいは壊した相手の中からそうした粘性物体が噴き出すとか」
ビーナもまた、アイデアを披露してくれた。
「なるほど。つまり、頭部以外に緊急用の補助センサーを設けることと、そうした攻撃を防ぐ方法だな」
仁は考え始める。その様子を見た他のメンバーは、参考になればとアイデアを口にした。
「センサーの方は……魔力センサーはもうあるから、超音波探知機と……外部センサーっていうのもいいな」
「なんだい、外部センサーってのは?」
「ラインハルトもわからないか。例えば、『忍部隊』と視覚を共用するんだよ」
ゲームで言うプレーヤー視点と三人称視点、というやつである。
「ポケットにそういうセンサーを入れておいて、頭部の視界を塞がれたらすかさず使う、とかな」
「はあ……なんというかすごい発想ですね」
「さすがジンしゃまです」
リシアやマリッカが感心してくれるが、現代日本にいたときの知識応用なので仁としては少々くすぐったかった。
「あとは、弱めの『反発結界』か……」
どのくらいの勢いで発射されたのかが問題となるが、ピストルの弾丸ほどではないだろうと仁は見当をつけた。
あとは、距離の自乗、いや五乗くらいに反比例させて反発力が強まるようにすればいいか、とも。
「反応速度が問題だな」
だが、仁にとってはそのくらいは問題なく解決できる。
「マッハ2の弾丸だと、常温でおよそ秒速680メートル。ということは10センチ進むのに0.000015秒くらいか。……『純化』と『構造変形』でレア化した魔結晶を使えば対処可能だな」
その1000分の1の時間でも反応する魔導具を作ることができる仁である。
「体表面から50センチくらいの距離に検知用の弱い結界を張っておいて、そこに物質が触れたらメインの結界が作動するようにすればいいな」
「……」
「……はあ、さすがね。この程度だとすぐに魔法制御の流れができあがっているわけね」
ビーナがため息をつきながら仁に賛辞を贈った。
「常時展開していると邪魔になるからオンオフできるようにするのは必須だよな。……ああ、メインの結界もいろいろ切り替えられるようにしよう」
『反発結界』だけでなく『物理障壁』や『魔法障壁』も展開できるといい、と仁は考えた。
「……俺も1つ、身に着けておけば、安全度合いが増すよなあ……全員の分を作るか……よし!」
こうして仁は、礼子用のみならず、『仁ファミリー』全員分を作り、蓬莱島のゴーレム・自動人形にも装備させることになる。
ちなみに『仁ファミリー』用は『仲間の腕輪』に機能を追加し、ゴーレム・自動人形には内蔵とした。
職人500体に手伝ってもらったので、ほぼ1日で全ての作業が終わることになる。
* * *
「さて」
礼子用の『受動的結界』は内蔵型にした。
それとともに『ファミリー』用の腕輪の改造も、仁は計30分で終える。
「これで、ジンの弱点も少し減ったんじゃないかな?」
「少なくとも防御力は上がったよな」
以前話し合った弱点を幾分かでもカバーできる魔導具である。
そして、機能をリニューアルされた腕輪を見ながら、ビーナが尋ねた。
「ねえ、反応速度を上げるために純度を上げるのいいけれど、その分脆くなったりはしないのかしら?」
「ああ、その点は大丈夫さ」
答えたのはサキだった。
「追加で物理的性質も調べてみたけど、日常生活で考えられるような負荷で壊れることはなかったよ」
「あ、それなら安心ね」
だが『日常生活』という単語に引っかかったのか、珍しくベルチェが質問を行ってきた。
「……でも、どんな時に壊れたんですの?」
「ええと、確かに元の状態よりは脆くなったといえるのかも知れないね。というのも、壊れる時は砕けてしまうんだ」
それまでの腕輪の材質は折れるくらいであった。それが砕けるというのだ。
「でも、それは何百キロという力が加わっての話で、例えば鉄板の上に落としても砕けもしなければ傷もつかないよ」
「うん。その上、俺が『強靱化』を掛けているから、おそらく数十トンの力に耐えると思う」
「それなら安心ですね」
そんな力が加わる場面がちょっと想像できないからだ。
例え建物の崩落や、坑道の落盤、大岩の下敷きになっても数十トンという力はそうそう掛からないだろうと思われた。
そういうわけで、蓬莱島勢の防御力がまた一段と強化されたのである。
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