72-35 強制停止
少し寄り道もしたが、魔導具の解析は終わった。
仁は食堂へ行って報告を行う。
「ジンにしては遅かったな?」
開口一番、ラインハルトにそう言われてしまったので、仁は事情を説明する。
魔結晶の属性が何で決まるか、についてだ。
「実は、こんなことをやっていたんだ…………」
「…………なるほど……」
「ジン殿、それはなかなかよい研究だな」
『長老』ターレスは着眼点を褒めた。
「ジン殿が使う『工学魔法』だが、そういった魔法技術は、『始祖』は持っていなかった。ゆえに特定の分野ではジン殿の方が進んでいる」
「そうなんですか」
少し照れる仁。
「補足させてもらおう。魔結晶の属性は、不純物にも左右される。それは事実だ。特に、低品質のものは不純物に左右され、高品質のものはジン殿の言うように結晶構造や構成する原子によって決まる」
周波数特性なので、要因は1つではない、とターレスは言った。
「不純物による場合、周波数特性を示す帯域が広くなるのが特徴だ」
誤差範囲が広くなる、あるいは変動幅が大きくなるというようなことかな、とその場にいる面々は想像した。
「結晶格子に起因するものは周波数帯域が狭く、高出力だが、温度変化による変動があることと、魔結晶ごとのばらつきがある」
「確かにそうですね……」
「そして、構成原子によるものは安定していて高出力だが、希少性が高い」
「そうなりますね」
「ゆえに、ジン殿が結晶構造まで改善できるというなら、これは素晴らしいことだ。『始祖』はそこまでは至らなかったため、経験則を交えた推測が多いのは否めない」
『長老』ターレスの言葉に、『仁ファミリー』の面々は、工学魔法の可能性をまた1つ感じたのであった。
* * *
「ええと、続いて魔導具の解析結果について説明する」
「お、待ってました」
合いの手を入れたのはラインハルトだった。
彼もまた、礼子を狙っていたゴーレムがどのようにしてやられたのか、気になっていたらしい。
「危険なので真っ二つにしてから回収し、解析した。まず、ベースは闇属性の魔結晶だ」
「なるほど。……そのあたりから、魔結晶の属性云々になったんだな?」
「ラインハルト、正解だ」
さすがラインハルト、仁とサキの性格を正確に見抜いていた。
「……ええと、それでこいつに与えられた機能は4つ」
「4つ?」
エルザが怪訝そうな顔をした。その隣ではハンナも同じような顔をしている。
「3つかと思った」
「あたしもー」
「3つ、っていうのは『魔法無効器』と『魔力素除去器』、それに何を想像していた?」
仁は2人に尋ねた。
まずエルザが答える。
「タイマー、というか、一定時間その2つを発生し続ける機能、かと」
「あたしも」
「うん、確かにその機能はあった。それが3つめだ。だけど、もう1つあったんだよ」
「そうなの?」
「うん。……そもそも、礼子を狙っていて、両脚を斬られていたゴーレムがあったろう?」
「あったね」
「あれがなぜ動かないか、ちょっと気になってはいたんだ」
仁としては、短期間でゴーレムの機能が駄目になるということは信じられなかったのだ。
かといって、解析してみても停止した理由がわからなかった。
「『強制停止』命令が発せられているんだよ」
「え?」
「そうなんだ……」
エルザとハンナも、仁の言葉を聞いて納得がいったようだ。
「この『強制停止』は意外と厄介そうだ。『重ね書き』以上のパワーで強引に命令している」
「あ、『書き込んで』はいないんだね?」
「うん。だからあのゴーレムを解析してもわからなかったんだ」
単に『命令』して停止させただけなので、制御核には何も書き込まれていなかったわけだ。
「あ、『命令』のログを見れば、最後の命令が『強制停止』だってわかるかもな。あとで調べてみよう」
余談だが、この調査により、間違いなく『強制停止』を受けていたことが判明するのである。
「だけどジン、『魔法無効器』と『魔力素除去器』を掛けておいて、その上『強制停止』だって? どうやって実現するんだ?」
ラインハルトが疑問を口にした。
『魔法無効器』と『魔力素除去器』の波動を浴びたゴーレムはエネルギー切れで停止する。
その停止したゴーレムにどうやって『命令』するのか、ということである。
「これが『書き込み』に類する処理ならいいんだ。停止しても書き込めるからね。だが、エネルギーが無くなって停止したゴーレムに、どうやって命令を聞かせるんだい?」
「ああ、ラインハルトも勘違いしているのか」
「えっ?」
仁は苦笑し、詫びを言った。
「俺の説明の順番が悪いんだな、済まない」
「え? 順番?」
「そうさ。……『魔法無効器』と『魔力素除去器』の後に『強制停止』の説明をしたからな」
「どういう意味……あ、ああ、そうか! ……最初に『強制停止』、その後に『魔法無効器』と『魔力素除去器』か!」
「そういうことさ。そして『魔法無効器』と『魔力素除去器』の効果はタイマー的な機能により、5日程度続くわけだ」
ラインハルトは大きく頷いた。
「それならわかる。……『強制停止』で止まらない相手に対し『魔法無効器』と『魔力素除去器』を浴びせるわけだ」
「そういうことさ」
これで魔導具の機能が明らかになった。
そうした魔導具である『弾丸』を発射できる『巡回しているゴーレム』はなかなかの強敵と言えよう。
「ジン兄、この魔導具が正常に動作したとして、レーコちゃんは大丈夫なの?」
心配そうにエルザが尋ねた。
「『魔法無効器』と『魔力素除去器』は対策したけど、『強制停止』はシールドケースで防げるの?」
「うん、エルザの心配はもっともだ」
仁は頷いてみせた。
「だけど、こういう武器の投入順序は、弱い方から順に、がセオリーだからな。『魔法無効器』と『魔力素除去器』を防げるなら問題ないはずだ。……違いますか、ターレスさん?」
「うむ、ジン殿の認識のとおりだ」
『長老』ターレスも仁の判断を認めたのである。
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20200908 修正
(誤)その隣ではハンナも同じような顔をしえいる。
(正)その隣ではハンナも同じような顔をしている。




