72-30 精神触媒の効果
仁たちが行った、『精神触媒』を添加した魔結晶の性質検証は、魔力操作のエキスパートである仁と、『精神触媒』についての基礎知識のある『長老』ターレスがいることで、順調に進んだ。
やはり、『精神触媒』についての基礎知識を持つ者がいてくれると話が早い。
これまで、『700672号』としてのターレスは、あくまでも『始祖』の従者としての立場からでしか助言をしてくれなかったが、マリッカを新たな『主人』と認め、『仁ファミリー』の一員となってくれてからは、そうした壁も垣根も取っ払われたようで、いろいろなことを教えてくれている。
ただし、聞かれたことに何でも答えるのではなく、自分たちで考えるべきところはヒントに留めるなどの配慮はなされていた。
「『精神触媒』は、いわば『アンテナ』のようなものかもしれぬ」
「精神波を自由魔力素に伝えるための、ということですか?」
仁の質問にターレスは頷く。
「そうだ。触媒故に、自らは変質せず、アンテナとしての役目を果たす」
「……」
その言葉を聞いていた仁は、しばし考え込んでいたが、
「『精神触媒』を、100分の1以下でいいから添加した魔結晶で魔導具を作ったら、もしかして効率が上がるのでは?」
という意見を述べた。
これにはハンナもすぐに賛同する。そしてさらに独自の理論も披露した。
「その意見に賛成。……もしかすると『魔結晶』が魔法に反応するのは、その結晶構造が『精神触媒』と似ているからじゃないかな?」
「くふ、なるほど……ありそうだね。……じゃあ、もしかして、普通の結晶に『精神触媒』を添加したら、擬似的な魔結晶ができる?」
「……面白い意見だ。それは『始祖』も試してはいないな……」
ターレスの言葉を聞いた仁たちは、まずはそれも試してみたい項目に挙げた。
それ以降もいくつかの質疑応答をした後、実際の検証試験を行うことになる。
* * *
実験の様子は地味で時間の掛かる検証の繰り返し。
だが、誰もそれを倦むことなく行っていく。
まる1日掛かって検証は終了した。
途中でエルザや礼子に食事だから手を止めろと言われたり、もう寝ろと言われたりなどもあったが、翌11月1日の昼前に『精神触媒』の実証試験は終了した。
「お昼を食べた後、皆に結果を発表しようか」
「おにーちゃんの意見に賛成」
「くふ、それがいいね」
その日のお昼の献立は、秋になったので釜揚げうどんだった。
もちろん手打ちの腰があるつるつるしたやや太めの麺に、各種野菜の天ぷらが添えてある。
つゆは鰹出汁系と昆布出汁系、それぞれ甘口辛口が用意されており、自分でブレンドもできる。
薬味は七味唐辛子、擦り下ろしショウガ、辛味大根の3種が用意されていた。
ちなみに蓬莱島の『七』味は、『唐辛子』『焼唐辛子』『山椒』『麻の実』『黒ごま』『陳皮』『芥子の実』である。
それぞれ、世界中を回って探してきたもので、今では蓬莱島で栽培されている。
「俺は鰹出汁のやや甘口のつゆに七味を入れて食べるのが好きなんだ。天ぷらは桜えびとか大葉だな」
「くふ、ボクは鰹出汁の甘口だね。辛味大根が好きだよ。天ぷらは何でも来いだね」
「昆布出汁の辛口に擦り下ろしショウガは美味いよ」
「ん、七味を程よく入れると風味もでて美味しい」
「昆布出汁も悪くないよ。というかこっちの方が好みかな」
「このうどん、腰があってシコシコして美味しいですわ」
「釜揚げは細麺よりやや太麺がいいねえ」
「うむ……『食べる』という行為もまた、よいものだな」
最後のセリフは『長老』ターレスである。
人造人間なので基本的に食事は必要としないのだが、『仁ファミリー』のメンバーに啓発され、最近は食事の楽しさに目覚めている。
『ネージュ』と『ルージュ』も同様だ。
ターレス、ネージュ、ルージュも一緒に食べることができるようになったため、食事の時間はより一層楽しいものとなっていた。
* * *
「さて、それじゃあ報告するよ」
食後のティータイムを終え、仁が立ち上がった。
食堂がそのまま会議室になる。
「『精神触媒』についての報告をする」
仁が話し始めた。
「『精神触媒』は、魔導士にとって魔力を発するアンテナのような働きをするようだ。この物質を介して魔力を自由魔力素や魔力素に及ぼしている。そういう意味ではインターフェースかもしれないな」
「なるほど、面白い解釈だね。ジンの説明はわかりやすいよ」
「ありがとう。……そして……」
仁は、ターレスから聞いた基本的な内容を説明していった。
「……そして、ここからが我々が検証した内容だ」
ここで、説明はサキにバトンタッチする。
「くふ、それじゃあ、検証した内容をボクから報告するね。……ええと、まずは『魔法無効器』を作るための極となる魔結晶からだね」
これは光属性の魔結晶に、重量比で100分の1の『精神触媒』を添加したものである。
「これを魔導回路に組み込んで魔導装置とすれば、『魔法無効器』が作れるわけだね。その時、この魔結晶は、特殊な魔力波を放つことになる」
その魔力波は、あたかも魔導士の体内で魔力素を魔法に変えるように、魔力波の効果範囲内の魔力素を自由魔力素に戻してしまう効果があるわけだ。
通常、『魔力素』はそれを発生させた術者の精神波にしか従わないが、『魔法無効器』の魔力波は例外である。
「えと、我々はこの性質に着目したわけだね。……次、ハンナちゃん、頼むよ」
サキは、ここで説明をハンナに譲った。
「『精神触媒』を添加した魔結晶から、魔力素を自由魔力素に戻す魔力波が出る以外の特性はないかと考えました」
皆、興味津々といった顔で聞いている。
「まず、『精神触媒』を添加した魔結晶は、『魔法無効器』や『魔力素除去器』が効かなくなるみたい」
「ほう」
「へえ」
少し前にリシアが言っていた素材が完成したわけだ。
「さらに、元となる魔結晶の純度が高ければ、添加する『精神触媒』は重量比100分の1ではなく500分の1程度で済むこともわかったんだよ」
「それは朗報だね」
貴重な『精神触媒』を節約できるなら、それに越したことはないわけだ。
「それだけじゃなかったんだよね、おにーちゃん」
「ああ」
ここで再び仁が説明を行うことになった。
「超高純度の魔結晶に、重量比で10万分の1の『精神触媒』を添加したものは、『制御核』に使うと処理能力が2.5倍になることがわかったんだ」
「へえ、そりゃすごい」
「このあたり、『亜自由魔力素波』が関係している可能性があるんだが、それについてはまだまだよくわかっていない」
そもそも『亜自由魔力素』については研究途上……というよりやっととば口についた程度の情報しかないのだから。
「だが、これを利用し、まずは礼子を、次に老君を。そして各ゴーレム隊のナンバー1を改良するつもりだ」
そして『精神触媒』がそれでも余っていたならまた考える、と仁は言った。
こうして、礼子と老君は、先日パワーアップしたにも関わらず、またしてもさらなる性能アップが約束されたのであった。
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本日9月3日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20200903 修正
(誤)『焼唐辛子』『山椒』『麻の実』『黒ごま』『陳皮』『芥子の実』である。
(正)『唐辛子』『焼唐辛子』『山椒』『麻の実』『黒ごま』『陳皮』『芥子の実』である。
(誤)通常、『魔力素』はそれを発生させた術者の精神派にしか従わないが、
(正)通常、『魔力素』はそれを発生させた術者の精神波にしか従わないが、




