72-31 オエステ基地を探して
さて場所は変わって、ラシール大陸西。
11月2日、『管理魔導頭脳ジョナサン』が派遣した2体のゴーレムは目標地点付近に到着していた。
『2体は現地に着いたようだな。……あとは2体の自主性に任せることにしよう』
そして『ジョナサン』は2体の自律行動を許可したのである。
〈これより私は『1』、そちらは『2』と呼び合うことにしようではないか〉
〈異議なし。では私はこれより2だ。……1よ、これからどうする?〉
〈うむ。事前情報で、目的地である『オエステ基地』では植物の品種改良をしていたことがわかっている。まずは、植生の異常を探してみようではないか〉
〈異議なし〉
〈だが、まずは隠密行動を心掛けるとしよう〉
〈うむ、それは妥当だな〉
〈結界でいいか?〉
〈いいと判断する〉
〈よし〉
2体は漏洩魔力を極限まで抑える結界を張った。
これにより、魔力による探知はできなくなる。
〈これでいい〉
〈では、始めよう〉
こうして、2体は目的地周辺を粗く探索していく。植生の異常は、これまでの歳月を考えると、局所に留まるはずがないからである。
そしてそれは図に当たる。
〈1、これはどうだ?〉
2が地を這う蔓草を指差した。
それは、現代日本に生える『葛』によく似た植物。
マメ科で、根に根粒菌を持ち痩せた土地にも適応する。宿根草のため、冬期は地上部は枯れ、地下の塊根で越冬する。
低温・高温に強く、乾燥・多湿にも強い。
この植物も日本の葛と同じく、巨大な塊根に含まれるデンプンは食用になる。
〈うむ、おそらくそうだ。この植物はローレン大陸にはあるが、ここラシール大陸にはないはずだからな〉
〈そうすると、この植物の分布を調べ、その中心部付近に目指す『オエステ基地』があると考えていいのではないだろうか?〉
〈賛成する〉
そういうことになり、2体は葛の分布を調べるため、付近の探索を開始した。
しかし葛の繁殖力は強く、彼ら2体が調べた土地は合計で200平方キロメートルにも及んだのだ。
が、その甲斐あって、その中心を見つけることができたのである。
〈このあたりが中心だな。誤差は20メートルほどだろう〉
〈それなら十分だ。何か手がかりがないか調べていこう、2〉
〈わかった、1〉
2体は手分けして付近の探索を始める。
ツーマンセルが行動の基本とはいえ、半径20メートルの円の中である。全く問題はなかった。
果たして30分後、1が地表の不自然な盛り上がりを見つけた。直径1メートル、高さも1メートルほどの円柱状の盛り上がりである。
それは土と石と植物の根で覆われてはいたが、その中心部はどうやら金属のようだった。
〈通気口や換気口にしては細すぎるから、これはアンテナの一部だったのだろう〉
〈つまり、この地下に目指すものがあると?〉
〈いや、それは早計だ。このように発見されやすい地上施設を、基地の真上に設けるとは思えない〉
〈確かに〉
そこで2体は、もう1つ、できれば2つ、こうした地上施設……残骸でもいい……を見つけようということになった。
そうすれば、基地の位置をより正確に特定できるからだ。
〈今度は、先程よりも広い範囲を捜索する必要がありそうだ。とりあえずは半径50メートルに広げよう〉
〈別行動するか、1?〉
〈いや。今度は互いの距離が離れすぎる。効率は落ちても、互いの距離は近くしておくべきだろう〉
そういうことになり、2体は10メートルの距離を空けて捜索することにしたのである。
そして……。
〈あったぞ、1。アンテナの痕跡だ〉
〈2、こちらにもあった〉
〈3箇所見つかれば、その中心を特定できるだろう〉
〈やってみよう〉
3箇所のアンテナの痕跡、それを頂点にする三角形を仮想し、その中心……この場合は重心……を重点的に捜索してみることにした。
〈1、どうだ?〉
〈見つからないな〉
〈探す場所を誤ったか……?〉
3箇所のアンテナの痕跡を基準にしたが、それだけで基地の位置を100パーセント特定できるものではない。
〈……『オエステ基地』の管理魔導頭脳は、特殊な考えをする可能性もあるしな〉
〈それは?〉
〈『ジョナサン』に言われたことだ。オエステ基地には、新世代の『主人たち』がいたため、その思想は旧世代とは異なる可能性があるということだった〉
だが、どう異なるかまではわからないようだ、と1は締めくくる。
〈その情報は私にはない。なぜだろう?〉
〈その理由は、『対比』にある〉
〈対比?〉
〈そうだ。同じものをたくさん揃えても発展性は乏しいが、違うもの、対立するもの、を集めたほうが発展性が望める、ということだ〉
『弁証法』と似た考え方である。
Aに対する非Aを出し、この2つの間でのやりとりを通して更に高み超Aに至る、というような考え方が『弁証法』である。
が、個人主義である『始祖』は、理論にとどまり、自身でそれを実践することはほとんどなかったようだ。
そんな会話も、音声を使っていないため、1秒足らずで済んでしまうのがゴーレムの利点である。
〈なんとしても『オエステ基地』の手がかりを見つけなければ〉
〈……考え方を変えたらどうか?〉
〈何? 2よ、それはどういう意味だ?〉
〈こちらから探すのではなく、向こうからコンタクトしてくるように仕向けるのだ〉
〈一理ある。が、過激な行動は避けるように厳命されているぞ〉
〈いや、単にここら一帯を堂々と行き来するだけだ〉
〈ふむ……〉
『ジョナサン』は、マリッカDから、この付近をうろついていた敵対勢力のゴーレムが行動不能にされていた、という事実を聞いていたのである。
それを行ったのは『オエステ基地』のゴーレムである可能性は非常に高い。
そして、その矛先が自分たちに向く可能性は低いことも承知している。
〈いくらこれまで音信不通だったとしても、同胞の子孫あるいは被造物同士であるから、問答無用で攻撃は仕掛けてくるまい〉
〈それは、確かに〉
そうした予想を元に、2体はこれまで魔力の漏洩を抑えてきたわけだが、その結界を解くことにした。
これにより、2体はこれまでよりも探知しやすくなったことになる。
〈よし、この状態で付近を探索だ〉
〈わかった〉
ただ無闇に歩き回るのも無駄なので、一応地表部の捜索も行いながら、2体はゆっくりと歩き回るのだった。
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