72-28 老君と礼子、改良
礼子と老君の性能アップについて仁は検討を始めた。
「老君は……今以上に『制御核』を増やして処理能力を上げるかな。……今、核はどうなっているんだっけ?」
『はい、御主人様。……『前の』御主人様に行っていただきました改造で、今現在64コアになっています』
「64コアか……凄いな、400年前の俺。……よし、128コアにしてやろう」
過去の自分に対抗して、老君を改造していく仁。
単純に制御核を増やすだけでは占有面積・容積が増え、信号伝達経路も長くなって高速化の足を引っ張るが、仁は核数を増やすと同時に小型化した。
「あとは何かないかな……」
考え込む仁に、サキがヒントをくれた。
「くふ、ジン、『始祖』の技術仕様を見ていると、極低温になると『自由魔力素』のノイズが減るので魔力圧を落とせると思うよ?」
「へえ?」
魔力圧(電圧に相当)を落とせれば、立ち上がり時間が短くなり、結果高速化に繋がる。
仁はサキの提案を受け、老君の筐体内を摂氏マイナス100度に下げるよう冷却器を追加した。
これらの改造により、老君の処理能力は2倍となる。
「まだ何かできそうだな……」
そこへ、今度はハンナが助言を行う。
「おにーちゃん、情報バンクとのやり取りって、意外と時間が掛かると思うよ?」
「お、なるほどな。ありがとう、ハンナ」
パソコンでも、内部メモリや外部記憶装置であるハードディスクの読み書き速度を向上させることは、処理速度に大きく貢献する。
そこで仁は、記憶用の『魔結晶』を、劣化したものはより高品質のものと取り替え、また、全体的に『純化』と『結晶化』を使って、抵抗となる不純物や結晶構造の欠陥を取り除いたのである。
最終的に老君の性能は2.2倍まで向上した。
『ありがとうございます、御主人様。これでより一層お役に立つことができます』
「頼むぞ」
* * *
次は礼子である。
「礼子の場合は魔力による強化がポイントなんだよな」
あの体格であれだけのパワーを発揮するには、素材の強度だけでは保たないのである。
魔力で強化しているから何十トンもの力を出せるのだ。
「ポイントは2つ」
「ジン兄、それは?」
「ジンしゃま、教えてください」
エルザとマリッカが見学している。
「うーんと、まず1つめ。魔力って、詰め込めば詰め込むほど強度が上がるよな?」
「ん」
「はい」
「つまり、どうすれば魔力をよりたくさん詰め込めるか、がポイントになる」
仁の説明に、エルザとマリッカは頷いた。
「で、これまでのようなやり方だと、限界がある。それでも十分すぎる強化だけど、まだ限界には程遠い」
仁はわかりやすいたとえ話をする。
「定形の容器に、トポポと麦を詰めるとしたら、どっちがたくさん入ると思う?」
トポポの代わりにピンポン玉、麦の代わりにBB弾でもいい。
比重が同じだとしたら、麦やBB弾の方がたくさん入るだろう。
「あ、つまり、自由魔力素を搬送する波長を短くする?」
「正解だ」
「でもそうすると、制御の難易度が跳ね上がっちゃいます。……それを克服する何かがあるんでしゅね?」
「そのとおり」
仁はそれについて説明を始めた。
「波長が短い魔力波は、基本的に高エネルギーだから、互いに干渉しやすいんだ。というか、密度が高まるから必然的に干渉しあうんだよな」
波高が同じで、波長が短い=周波数が高い波形。
周波数にばらつきがある場合は特に、互いに波が重なり合いやすくなる。
「これを避けるためには位相を揃えるんだ」
同じタイミングで上下する波ならぶつかり合わないというわけである。
『コヒーレント光』であるレーザー光線も同じような考えをしている。
「ああ、そういうことですね!」
「ん、わかる」
科学技術的知識も十分に持つ2人なので、仁の説明をすぐに飲み込むことができた。
「では、ジン様、周波数のばらつきを抑えるにはどうするのでしゅ……すか?」
「うん、そこが技術の見せ所だ」
仁は『魔結晶』を作業台の上に出した。
「これはかなり高品質のものだけど、それでも不純物が数PPMくらい混じっている」
「そうですね」
「そして、結晶構造にもところどころ欠陥がある」
「ん、確かに」
自然に成長した魔結晶なので、不純物の存在や結晶構造の欠陥はあって当然のものであった。
とはいえ、蓬莱島が保有する魔結晶の品質は、純度でいえばアルス標準のものより2桁は上である。
しかし。
「この前調べた『ジョナサン』と、礼子と手合わせしたゴーレムに使われていたものはそれよりも3桁は上だった」
と仁は述べた。
「だから、こっちもそれを上回る品質のものを使う」
「どうやって……あ、さっきもやりましたね」
「そのとおり」
仁はマリッカの言葉にうなずいた。
「これにも『純化』と『結晶化』を使う」
仁は作業台の上の魔結晶に、5回ほど『純化』と『結晶化』を繰り返してみせる。
「これで、だいたい『始祖』が使っているものと同等だ」
「でも、ジン兄はそれ以上のものにする」
「そのとおり。……『純化』『結晶化』『純化』『結晶化』……」
さらに5回、計10回の『純化』と『結晶化』を行った。
「これで『始祖』が使っているものより4桁くらいは純度が上のはずだ」
もはや99.9999と99.99999999の違いを問題視しているような世界である。
普通なら……いや、余程の物好きであっても、ここまで拘りはしないだろう。
コストや手間を考えても引き合わないだろうからだ。
だが仁は『魔法工学師』。
コストはほぼゼロ。己の技術のみで技術に革命を起こせる技術者である。
「……こ、ここまで純度を上げたものは、おそらく過去には存在していないのではないでひゅか?」
マリッカでさえ引き気味の純度であった。
「この方法を使って、礼子の『制御核』や各種制御装置、それに『魔力反応炉』を置き換える。俺の予想では2割弱くらいの性能アップが望めるはずだ。……いいな、礼子?」
「はい、お父さま。お願いいたします」
そういうわけで、礼子の改造が行われた。
同時に細かい調整も行う。
最後の入念なチェックを終えて、礼子を再起動する。
「礼子、『起動』」
「……はい、お父さま」
「調子はどうだ、礼子?」
起き上がった礼子は、セルフチェックを行い、返答する。
「動作、制御、出力共に問題なし、です。……概算で、これまでの2倍くらいの性能を出せそうです」
「そんなに!?」
エルザが珍しく声を上げた。
マリッカは絶句している。
今回の改良は、積極的なものではなく、いわば素材の品質を上げただけだったからだ。
もっとも、超高品質を超々々々高品質に上げたわけだが。
それだけ……というには高度な改良だが、それでも、仁が自ら予想したように2割弱くらいであろうと思っていたのである。
「まだレーコちゃんが強くなるなんて、驚き」
エルザの言葉は、『仁ファミリー』全員の心情を代弁するものだったろう。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20200901 修正
(誤)『純化』『結晶化『純化』『結晶化』……」
(正)『純化』『結晶化』『純化』『結晶化』……」
(旧)内部メモリや外部記憶装置であるハードディスクの読み書き速度は、処理速度に大きく貢献する。
(新)内部メモリや外部記憶装置であるハードディスクの読み書き速度を向上させることは、処理速度に大きく貢献する。
20200902 修正
(旧)マイナス100度C
(新)摂氏マイナス100度




