72-27 ブレーンストーミング
『ジョナサン』が派遣した2体のゴーレムは平均時速40キロほどで地を駆けていた。
『ジョナール基地』からラシール大陸西までの距離は1300キロ余りだが、直線で向かえるわけではないため、道のりは1.5倍ほど、つまり2000キロ以上になる。
時速40キロなら50時間。
2体はゴーレムなので昼夜兼行で進むことができる。つまり2日とちょっと掛かる計算だ。
『ジョナサン』は2体が現地に着くまで、待機するのであった。
* * *
蓬莱島時間では10月30日。10月最後の日である。
仁は、ラシール大陸西の基地もしくは施設について、楽観視はしていない。
「『ジョナサン』だって、温厚そうに見えて『手合わせ』が『相手を破壊するまで』だったしな」
さらに過激な相手であってもおかしくないと仁は考えていたのだ。
これには、『仁ファミリー』の全員が賛同した。
相手を甘く見積もっていいことは何一つないのである。
準備をしすぎても、『ここまでしなくてもよかった』となるだけなのだから。
財政への負担を考えなくてもいい蓬莱島は、こういう点で非常に恵まれていた。
「よし、まずは蓬莱島の弱点を洗い出してみよう。ブレーンストーミングだ」
『ブレーンストーミング』。
ある問題について解決策などの案を出したい場合、また問題点を洗い出したい場合などに、複数の人間で自由に意見を述べあう方法のことだ。
この時、4つの原則がある。
1.『批判をするな』。批判があると良いアイデアが出にくくなるからである。
2.『自由奔放』。こんなことを言ったら笑われはしないか、などと考えず、思いついた考えをどんどん言う。
3.『質より量』。できるだけ多くのアイデアを出すこと。
4.『連想と結合』。他人の意見を聞いて連想を働かせ、また他人の意見に自分のアイデアを加えて新しい意見として述べる。
この4つを踏まえて意見を述べ合うのである。
「弱点ねえ……。くふ、ジンがいないとどうにもならなくなることかな?」
「うーん、不本意だがそれはいえるな。他には?」
「基本的に守りであることかな」
「圧倒的な物量に対しては遅れを取らないかな?」
「アルス全土を狙われたらどうしようもないかも」
「……アルスを壊されたら負けだねえ」
「それは蓬莱島の弱点なのかな?」
「あ、駄目だよ、意見を批判したら」
「ああ、そうだったな」
こんな調子で意見を出し合ったが、どうやら『蓬莱島の最大の弱点』は仁のようだ。
逆に言えば、仁が無事である限り蓬莱島に負けはない……らしい。今のところは。
「じゃあ、俺の弱点は……と聞きたいところだが、聞いていたら心が折れそうだから、30分くらい席を外させてもらうよ」
「それではわたくしがお供します」
「いってらっしゃい」
そんなわけで仁と礼子は食堂を離れ、前庭に出てきた。
「ああ、もう秋になったんだな」
北回帰線上にある蓬莱島は、冬でも氷が張るようなことはないが、住んでいれば四季の移ろいは確かに感じられる。
太陽高度は低くなり、吹く風もどことなく秋を感じさせる。
「肌を刺す冷たさがないのはいいよなあ」
うだるように蒸し暑いのも、凍えるように寒いのも、仁は好きではない。
昔、施設ではエアコンも設置できず、暑い夏には窓を開け放しても服を脱いでも暑かった思い出がある。
そして冬には、あるだけの服を着込んで布団にくるまった思い出が……。
もっとも、そんな時期はごく短く、有志からの寄付や国からの補助で最低限の冷房と暖房は確保できたのだが、辛かった思い出は残っていた。
仁は今の境遇に感謝しつつ、芝生の上に寝転んだ。
すかさず礼子が駆け寄って膝枕をしてくれる。
秋の青空を見上げながら、仁がのんびりと、とりとめもないことを考えていると、食堂の窓が開いて声が掛けられた。
「おにーちゃーん! もういいよー!」
「お、おう」
身体を起こして返事をすると、仁は立ち上がって研究所へと向かった。
礼子もついていく。
そして会議室として使っている食堂では、苦笑した『仁ファミリー』が仁を迎えた。
「ええとね、個人的な弱点は別にして、技術的な弱点だけを書き出してみたの」
代表としてハンナがそう言って、A4ほどの紙を見せてくれた。字を見ると、ラインハルトの筆跡である。
1.仁は一人しかいない。
2.生身の弱点を持つ。食事や睡眠、呼吸が必要。肉体強度は人並み。
の2つが書かれていた。
「なるほどなあ」
「僕らは人造人間だから、生身の人間よりは強いんだがね」
毒は効かないし、腕や脚がもげても継ぐことができる。
呼吸や食事も必要としない。
記憶を新たな身体に移し替えることができる。
などの利点を持つ。
「これに関しては『分身人形』を使い、老君に頑張ってもらうしかないなあ」
『はい、御主人様。お任せください』
「……俺に今できることは……老君の高性能化だな」
仁がやる気を見せた。
「ええとジン、それもいいけど、ブレーンストーミングが終わってからな?」
「わかってるよ、ラインハルト」
ラインハルトに釘を差されつつ、仁はもう1つ行っておきたい議題を口にする。
「あともう1つ、『礼子の弱点』について考えてほしい。……というか、『礼子を倒す』あるいは『礼子を無力化する』方法だな」
仁としては、礼子という愛娘が望むままに強化してきたつもりである。
その甲斐あって、礼子は世界最強と自他ともに認める『自動人形』になった。
しかし『最強』ではあるが『無敵』ではない。
直接、正面からの戦いなら、まず礼子に敵はいない。
だが、『仁ファミリー』の視点から礼子に対抗するにはどうするか、という意見を仁は聞いておきたかったのである。
そしてもちろん、できるものならその対抗手段も編みだすつもりであった。
「レーコちゃんの弱点……といったらジンだよな」
「あとは、やっぱり数……かな。同時に別々の場所には対処できないだろう」
「自由魔力素で動いている以上、自由魔力素を断てば、いつかは停止するだろうね」
「あとは軽さ……かな」
「小さい、ってことは弱点にはならないかね?」
などなどの意見が出た。
思ったより少ないことに、仁は少し驚くとともに、嬉しくもあった。
最高傑作である礼子に対しては、『仁ファミリー』といえどもそうやすやすとは対処できないことがわかったのだ。
「なるほど。礼子の強化には、保有魔力を増やすことや、『魔力素除去器』みたいな兵器に対抗する方法だな」
早速、対抗策を考え始める仁であった。
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本日8月31日(月)13:00、『蓬莱島の工作箱』を更新します。
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