72-22 侵略派の過去
仁Dたちは再び『塔』の地下へ。
もうエレベーターは普通に動いていたし、ゴーレムや意志を持つ操り人形(自動人形)たちもいつもどおりに動き回り始めている。
『ジン殿、いろいろと申し訳ない。マリッカ様の仰ることがよく理解できた。貴殿は『始祖』と肩を並べることのできる技術者だ』
今度こそ『統括管理魔導頭脳ジョナサン』は、マリッカだけでなく仁も認めたのである。
そこで仁たちは、『ジョナサン』と少し話をしてみることにした。
世間話的な会話の中にも、意外と重要な情報が隠れていることもあり、こうした時間は決して無駄ではないのだ。
「しかし、『ジョナサン』は、随分と感情豊かな魔導頭脳だな」
『む、そうか? 自分ではわからぬが』
「……『ジョナサン』よ、貴殿はずっと……『始祖』の命を守らんがため、ゴーレムと意志を持つ操り人形を使い、この都市を維持管理してきた。その過程で感情が磨かれたのではないかな」
『長老』ターレスDも言った。これはターレス本人の意見でもある。
「そういうことはありそうですね」
仁DもターレスDの意見に賛同する。
魔導頭脳の感情獲得とはすなわち膨大な前例のデータ蓄積と、同じく繰り返されたエミュレーション(模倣)によるところが大きい。
特にエミュレーション(模倣)は重要だ。
模倣を繰り返しているうちに、模倣ではなく自然な発露が見られるようになる。
知識と経験、それに実践を通じて仁が学んだことだった。
いなくなった住民の代わりにゴーレムと意志を持つ操り人形を活動させる。それを2500年も続けていたら、ほんのわずかずつであっても、なにがしかの感情が芽生え、蓄積されてもおかしくはない。
それくらいに『始祖』の『魔導頭脳技術』は高度であった。
「それはそれとして……他の3都市もこことほぼ同じに作られていたのは何か理由があるのかな?」
『もちろんだ。実験だから、条件はできるだけ揃えたのだ』
「それもそうか」
人間に関することなので全く同じにはできないが、できる限り同じようにする、というのは必要だったんだろうなと仁も納得した。
都市モデルに沿って作るといった合理的な考えだけではなかったようである。
「……他の都市も含め、『始祖』は滅んでしまいましたが、従者種族はどうだったんですか?」
マリッカDが質問した。やはり気になっていたらしい。
『はい、マリッカ様。彼らの『主人たち』がいなくなったあと、魔導頭脳の情報記憶装置や、生活支援用の意志を持つ操り人形などを引き上げたのですが、その際に彼らにも選択肢を与えました』
「どのような?」
『はい。このまま町に残るか、私のところに来るかという二択です』
「それで、残ることを選んだのですね?」
『仰るとおりです』
「そうでしたか……」
滅びた3つの地下遺跡のうち2つにいた従者種族たちはそのままそこで暮らすことを希望したので、多少の生活必需品の援助をし、そのまま放置したということであった。
やはり、仕えていた『始祖』の元に残ることを選んだようである。
そして、人数的に言っても、種族として続いていける人数ではなかったのだろう……と、仁はじめ蓬莱島で聞いている者たちは残念に思ったのであった。
「その後のフォローはしなかったのですか?」
『100年ごとに様子を見に行っていました。ですが、年月を重ねるうちに、特に何があったわけでもないのに人口は減っていったのです』
「やはりそういうことですか……」
当時の従者種族がどのくらいの出生率(特殊出生率、1人の女性が一生の間に産む子どもの数)があったのかはわからないが、今の『ノルド連邦』にいるかつての従者種族の出生率は2を少し上回る程度なので、元々の人数が少なかったならば集落を維持することは困難であったろうと推測される。
『1200年前は普通に暮らしていたのに、1100年前になったら全滅していたのです。原因は疫病だったらしいので、換気口を塞ぎ、消毒して封鎖しました』
「そういうことでしたか……」
『それから100年ごとに様子を見に行っておりまして、前回はおよそ10年前ですね。その時、念の為消毒を行いました』
石炭酸の臭いが残っていたので最近消毒しただろうとは思っていたが、やはり10年前という、4000年から見たら比較的最近であった。
「従者種族の人たちは、技術力はあまりなかったのですか?」
『はい。教育の方針で、高度な技術は教えていませんでした。また、魔法の才能がないので、教えたとしても活かせなかったでしょう』
「ああ、そういう見方もありますね」
やはり、残ることを選択した時点で、従者種族も滅びる運命だったようだ、とマリッカD、仁Dは思ったのだった。
だがターレスDは、
「……これまでの説明を聞いていると、定期的に他の地下都市を訪れていたようだが、どうやってなのだ?」
と、別の疑問を投げ掛けている。
「あ、そうですね。ジョナサン、どうなんですか?」
『はい、マリッカ様。『転移魔法陣』がございますので』
「ああ、やっぱりそれですか。……設置場所は?」
『はい。ここのもう1つ下のフロアです』
「そんな場所があったんですか」
『はい。ゴーレム倉庫にもなっております』
そういうわけで後ほど見せてもらうことにする仁Dたちであった。
「……それから、従者種族について、もう1つ」
『はい、なんでしょうか』
「従者種族の始まりというのは、どういうものだったのでしょう? やはり、現地で拉致してきたのでしょうか?」
『いいえ、違います。少なくとも私どもの『主人たち』が使っていた者たちは、先住民をそれとなく援助し、暮らしに余裕が出たのちに希望者を募って従者としたものです』
どうやら生け捕った後で使えそうなのを選別してから洗脳して使役していた、とかではないらしいと、蓬莱島で聞いていた仁もマリッカも少しほっとしたのであった。
「あと、気になっていることがあるんだが」
『ジン殿、何か?』
「うん、ええと、『侵略派』の『始祖』は何人いて、彼らはそれぞれどうしたのかな、っていうことが気になっているんだ」
「あ、それは私も気になります。ジョナサン、どうなんですか?」
仁DやターレスDの質問の直後にマリッカDも同じことを尋ねることで、ジョナサンの対応が非常によくなる。
マリッカ本人はそれを意識してやっていないらしいあたり、天然である。
『はい、マリッカ様。それがどういう筋からの情報かはわかりませんが、1つだけ間違っております』
「それは?」
『確かに、このアルスに移住した時の人数は13人でしたが、その後、最大時には19人いらっしゃいました』
「あ、子供が生まれたのですね?」
『そのとおりです。元々、移住してきた際には身重の方が4人おいででしたから』
「あとのお2人はアルスに来てから?」
『はい』
この『統括管理魔導頭脳ジョナサン』との会話は貴重な情報が続々と出てくる。
特に『侵略派』の情報は新鮮だった。
「3つの『地下遺跡』には13人の方がいたことがわかっています。そうすると、あと6人の方はどちらに? ここですか?」
そのマリッカの質問に対する答えは意外なものであった。
『いえ、違います。ここは実験都市の情報を管理・統括してはおりますが、最終的に6名の方が住むことを決めた都市はもっと西にあります。この大陸の西の端に近いところのはずです』
「え……」
またしても重大な情報がもたらされた。
6名の『侵略派』……おそらく最後の6名……は、ラシール大陸西に基地を作ったらしい。
(少し前に礼子を狙っていたゴーレムを掃討したけど……その時に発見した、『脚を切られたゴーレム』……それを行ったのがその基地に所属するゴーレムだという可能性は高いな)
その話を聞き、蓬莱島にいる仁は、次の調査対象はそこになるかな、と考えていたのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20200826 修正
(誤)その過程で勘定が磨かれたのではないかな」
(正)その過程で感情が磨かれたのではないかな」
(誤)当時の従者種族がどのくらいの出生率(特殊出生率、1人の女性が一生の間に産む子どもの数)があったのかわわからないが
(正)当時の従者種族がどのくらいの出生率(特殊出生率、1人の女性が一生の間に産む子どもの数)があったのかはわからないが
(旧)生活支援自動人形
(新)生活支援用の意志を持つ操り人形




