72-23 会話からの情報
『統括管理魔導頭脳ジョナサン』との会話はまだ続いている。
正常なまま時を越えてきた、この魔導頭脳は情報の宝庫であった。
この機会に、疑問に思っていたことも併せて聞いてみる仁たち。
具体的には蓬莱島にいるマリッカに頼むのだ。これが一番丁寧に答えてもらえる。
「そもそもどうして、ここラシール大陸に地下都市を作ったんですか?」
『はい、マリッカ様。1つには、ローレン大陸は『融合派』と『共存派」が、ゴンドア大陸は『独立派』が住んでいるからです』
今のアルス人類の大半は『融合派』の子孫であるし、ミツホやフソーの住民は『共存派』、そしてマリッカやシオンたち『北方民族』は『独立派』の子孫であった。
「住み分けた、ということですか」
『はい、そうなります。……そして地下にしたのは、こちらの大陸は『自由魔力素濃度』が低いのはご存知かと思いますが、その対策として地下という狭い空間のみ濃度を上げるためです』
「大陸全体の『自由魔力素濃度』を上げるのは大変ですからね」
『はい。それに対し、地下都市だけでしたら対策は容易です』
「そういうことでしたか。わかりました」
ここで今度は仁が質問を口にした。
「750年くらい前に起きた、『魔素暴走』は知っているか?」
「どうなんです、ジョナサン?」
『はい、マリッカ様。そういう事件が起きたことは把握しています。ですがここは元々、『自由魔力素』に対してのシールド空間ですので、影響はありませんでした』
「そうでしたか」
『魔素暴走』。空間に存在する自由魔力素を無理矢理エネルギーに変えてしまうものだ。
これには特殊な波長と波形を持った魔力線を用いる。
この時、魔力素も分解されて自由魔力素に戻るので、依存性の高い生命体にとっては致命的である。
ただし、エネルギーへの変換は比較的緩やかなので、爆発のような現象は起こらない。
時間をかけて光となって拡散してしまう。
『独立派』によって作り出された『サーバント』である『700672号』(現『長老』ターレス)が作った不完全なホムンクルスである『デキソコナイ』もその技術を持っていた。
ゆえに『始祖』全員と、その被造物の全てが『魔素暴走』について知っていてもおかしくはない。
『『魔素暴走』は、連鎖反応の速度が比較的遅いから、防御するのも難しくはないのです。しかし逆に、いきなり発動させられるので、防御が間に合わない場合が多いのです』
「それは初耳でした。もう少し詳しく聞かせてください」
『はい、マリッカ様。……『魔素暴走』は0.1秒で起動できるのですが、その伝播速度は最初期は10メートル毎秒で、距離に反比例して遅くなっていきます。そして到達距離は最初の起動魔力量に比例します』
「そうなのですか」
『はい。トリガーとして使った魔力量が大きければ、より広範囲に『魔素暴走』を起こせます。このアルス全域を覆うなら、100万魔力は必要でしょう』
「魔力ですか?」
『はい。魔力とは、魔法を起動する際にトリガーとなる魔力の単位です。標準的な魔道士が保有する魔力が1魔力と言われています』
「魔力と魔力ですか……ややこしいですね」
『それはそうかもしれません。ですが『魔力』の方は普段使う単位ではありませんので』
それは確かに、と横で聞いていた仁Dも思った。
ややこしいのは確かだが、いちいち『魔力』を意識して魔法を発動させたりはしないのだ。
これは『始祖』ならではの単位だろう、と割り切ることにする仁であった。
『魔素暴走』について、『統括管理魔導頭脳ジョナサン』は詳しかった。
そこで以後のことも考え、蓬莱島にいる仁たちは、マリッカにいろいろ尋ねてくれるように頼んだのである。
『自由魔力素を連鎖反応させる魔法ですから、魔力防壁で防ぐことができます』
「魔力防壁?」
『はい』
ジョナサンの説明を聞くと、『魔力防壁』は、仁たちが使う『魔法障壁』と同質のものらしかった。
『もう1つ、『対抗魔力波』をぶつけることで、強制停止させることができます』
これは、『魔素暴走』の伝播速度があまり速くないことを利用した対抗策である。
伝播速度以上の速さで周辺の自由魔力素を消費してしまうことで強制的に『魔素暴走』を終わらせるものだ。
「ああ、そうか。防火帯みたいなものだな」
要は、伝播路に自由魔力素の空白地帯を作ってしまおうというわけである。
「やっぱり、『魔素暴走』を開発した『始祖』だけのことはあるな。解決策、対抗策もちゃんと考えられているみたいだ」
その点においてはいろいろ学ぶことがある、と仁も感心したのであった。
* * *
再びターレスDが質問を行った。
「脅威に対する備えはどうしていたのだ? 外敵に対する備えがないように思えるのだが」
「ジョナサン、どうなのですか?」
『はい、マリッカ様。外敵につきましては、あまり気にしておりませんでした』
「なぜです?」
『はい。外の情報を得るために何かを行うことは、逆に外敵に気付かれることもあるからです』
これを聞いて、蓬莱島の仁は『藪蛇』という言葉を思い出していた。
『その分隠蔽工作に全力を上げたわけです。……もっとも、ジン殿に発見されてしまったわけですが』
「そういう考えでしたか」
どちらがいいのか、よかったのか、蓬莱島にいる仁たちにもこの件は判断できなかった。
* * *
「そういえば、『ジョナサン』は、『始祖』がアルスを改造した頃のことは知っているのか?」
仁Dが尋ねた。すかさずマリッカが後押しする。
「どうなんですか、ジョナサン?」
『はい、マリッカ様。その当時のことは私の情報バンクには何も記録されておりません』
「そうですか……」
『申し訳ございません』
「いえ、あなたの責任ではありませんから」
かなりの情報を蓄えているので、アルスの中心に超重物質を据えた時のことがわかれば、その技術も紐解けるのではないかと期待したのだが、それは叶わなかった。
* * *
「それでも、かなりいろいろなことがわかったよな」
蓬莱島では『仁ファミリー』のメンバーが話し合っていた。
「これでまた1つ、『始祖』の施設がマリッカの傘下に入ったわけだ」
「恐縮でしゅ」
『分身人形』3体は、老君が操縦しており、仁、マリッカ、ターレスらも他のファミリーメンバーと一緒に話をしている。
「あとは『転移門』を設置しておけば、いつでも行けるな」
「うむ。通信装置も必要だろう」
「検疫を済ませたら自分で行きたいものだな」
「ボクらも行ってみたいねえ」
そんな会話の中、ラインハルトが話題を変えた。
「あと1つ……かどうかはわからないが、ラシール大陸の西にあるはずの施設。それもケリを付けないとな」
「確かに、ラインハルトの言うとおりだ。ある意味、一番好戦的かもしれないしな」
出会ったゴーレムの脚を切り飛ばすような相手である。用心に越したことはない。
「それについて、『ジョナサン』からもう少し情報を得なくてはな」
そういうことになったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日8月27日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20200827 修正
(誤)正常なまま時を超えてきた、この魔導頭脳は情報の宝庫であった。
(正)正常なまま時を越えてきた、この魔導頭脳は情報の宝庫であった。
(誤)『はいマリッカ様。1つには
(正)『はい、マリッカ様。1つには




