72-21 手合わせ
仁D、マリッカD、ターレスD、そして礼子は『地下都市』を訪問している。
今、仁DとマリッカDは『統括管理魔導頭脳ジョナサン』の整備を終えたところ。
時を同じくして、ターレスDとジョナサンも対話を終えたところだ。
『……ジン殿、1つ聞きたい。その、一緒に来ているその少女は何者だ?』
「……これは失礼いたしました。わたくしは礼子と申します。お父さまに作っていただきました自動人形です」
『これはご丁寧に。自動人形……『意志を持つ操り人形』ということか。で、私のことはご存知だな』
「はい」
『で、何のために付いてきたのだ?』
「護衛です」
『……護衛?』
「はい。お三方に万が一のことがないように、と」
『それはつまり、貴殿にはそれだけの力があると?』
「はい」
『俄には信じられぬが……』
などと言う『統括管理魔導頭脳ジョナサン』に、礼子は淡々と告げる。
「試してみますか?」
『試す?』
「はい。貴方のところにも警備用などの戦闘用ゴーレムくらいあるでしょう。それとわたくしが戦ってみれば、百聞は一見に如かず。すぐにわかると思いますよ」
『私は構わないが』
「ではやりましょう」
仁Dは礼子の判断に任せ、何も言わなかった。なんとなく、『ジョナサン』がまだ仁のことを認めていないような気がしていたからだ。
こういう相手の時は、有無を言わせない実力を見せるのがいいと経験で知っているのである。
『それでは、こちらは警備用ゴーレムを1体出そう。それと手合わせをしてもらえば、そちらのレーコとかいう自動人形の実力もわかろうというものだ』
まだ信じていない様子の『ジョナサン』は、それでも試しに手合わせをしてみる気になったようだ。
* * *
そんなわけで、仁Dと礼子は塔の外へと移動した。
マリッカDとターレスDも一緒に外へ。町外れにある多目的広場で手合わせを行うことになる。
ジョナサンが用意したのは4本腕のゴーレムだった。身長は2.5メートルほど。
どうやらこれは『侵略派』の使うスタンダードなゴーレムらしい。
礼子と比べたらまさに大人と子供、いやそれ以上の体格差がある。
(ジンしゃま、大丈夫でしょうか?)
(どっちの心配だ?)
仁とマリッカは蓬莱島にいる本人同士で会話している。
(もちろんジョナサン側のです。レーコさんがやりすぎて、ジョナサンが反発……といいましゅ……すか、危機感を持たれはしないかと)
(失礼、マリッカ様、ジン殿)
そこに『長老』ターレスも会話に加わった。
(『始祖』の『統括管理魔導頭脳』に関しましては、大丈夫だと判断します。と申しますのも、今現在『ジョナサン』はマリッカ様に忠誠を誓っておりますので、そのマリッカ様が尊敬しているジン殿の実力がどこまで高かろうと、そんなジン殿と同じ側に立つマリッカ様に心酔こそすれ、危機感を抱くことはありません。むしろ、この機会に有無を言わせぬ実力を見せつけておくことは望ましいと思います)
(ほっとしました)
(……ありがとう、ターレスさん)
ターレスの言葉に、マリッカも仁も安心したのであった。
そして、『地下都市』の多目的広場。
『準備はいいかな?』
設置された広報用の『拡声の魔導具』からジョナサンの声が響いた。
「わたくしは、いつでも結構です」
平然と礼子が答える。
『そうか。それでは始めよう。破壊されても文句はないな?』
「え? 破壊してもよろしいのですか?」
ジョナサンが漏らしたセリフに、礼子が突っ込んだ。『手合わせ』だというから、てっきり手加減した試合だと思っていたのだ。
『うん? 作り物同士の手合わせとはそういうものだろう?』
ああ、これは『始祖』のメンタリティを受け継いでいるのだな、と仁たちに思わせるセリフ。
(そういった思想が、あの『潜水艦バトル』にも表れているのだろうな……)
仁はそう推測したのである。
『では3、2、1、行くぞ!』
4本腕のゴーレムはその見かけによらない瞬発力で飛び出し、礼子を捕まえた。
身長2.5メートルに対し礼子は1.3メートル、およそ半分。
4本の腕にそれぞれ礼子の両手両足を掴んだため、空中で磔になったような形である。
『口ほどにもない』
「……どっちが?」
勝ち誇る4本腕ゴーレムとジョナサンだったが、礼子は平然としたまま。
「先手を譲りましたが、それで終わりですか?」
『……両腕両足をもぎ取ってやろう』
「できるものなら」
『何!?』
4本腕ゴーレムは勝ち誇って腕に力を込める……が、その意に反して、礼子はびくともしなかった。
『こ、こんな馬鹿な!』
「……それで全力ですか? わたくしはまだ2割くらいしか力を出していませんが」
『なん……だと……?』
「では、そろそろわたくしの番でいいですね?」
四肢を磔にされているかのように見えた礼子だったが、少し力を入れると、ゴーレムの4本腕のうち2本……右腕と左脚を掴んでいた腕がもげた。
右腕と左脚を振って、絡みついていた腕を振り落とした礼子は、自由になった右腕で左腕を掴んでいる腕を殴りつけ、そして左脚で右足を掴んでいる腕を蹴りつけた。
それだけで、ゴーレムの残った腕は肘から先が破壊される。
自由になった礼子は危なげなく地面に降り立った。
「恨まないでくださいね」
一言告げると、礼子はゴーレムに向けて右の正拳突きを放った。
身長差があるためやや上に向けて放たれたそれはゴーレムの腹部に命中。
慣性もあって、ゴーレムが吹き飛ぶことはなかったが、その代わりに礼子の拳は外装を突き破り、内装の装甲も突き破って、ゴーレムの背骨に相当するフレームも破壊した。
このフレームには『制御核』から下半身へ伸びる『魔導神経線』や『魔力伝達線』が通っており、それを破壊されたゴーレムは立っていることさえできなくなってその場にひっくり返ったのである。
「終わりでいいですか?」
『う、うむ。レーコと言ったか。貴殿の力のほどはよーくわかった。そして貴殿を作ったジン殿の実力も』
「そうですか。それはよかったです」
その『よかった』にはいろいろな意味が込められていたのだが、おそらく『ジョナサン』には伝わってはいないだろう。
* * *
「さて、それじゃあこいつを直すか」
「お手伝いします」
「頼む」
『……何を? ジン殿、レーコ殿』
「いや、直そうと思って」
『は?』
感情表現が豊かなのだな、と思わせるような、間の抜けた反応をする『ジョナサン』。
「いや、せっかくだからこいつを直そうと。……腕を寄越してくれ」
「はい」
『いや、それは『主人たち』が遺したゴーレムで、補助種族には直せるはずもなく、貴殿とて難しいかと……』
そこにマリッカから声が掛かる。
「ジョナサン、黙って見ていてごらんなさい」
『は、はい、マリッカ様』
「『変形』『融合』『強靱化』……よし、と」
「できましたね」
『…………』
ものの5分で、仁Dと礼子は、破壊された4本腕ゴーレムを修理してしまったのである。
これには『ジョナサン』も絶句。
もしも顔があれば、『開いた口が塞がらない』という表情をしていたことだろう。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20200825 修正
(旧)「では、そろそろ本気を出します」
(新)「では、そろそろわたくしの番でいいですね?」
(誤)
『これはご丁寧に。私のことはご存知だな』
(正)
『これはご丁寧に。自動人形……『意志を持つ操り人形』ということか。で、私のことはご存知だな』
始祖は『意志を持つ操り人形』と呼んでいました(33-34)




