7.アシュリー・グレイシス伯爵
ルシウス子爵邸の庭にあるガゼボでは、今まさにお見合いが進行していた。
「こ、この度は、このような席を設けて頂き、と、と、とても光栄に思っています。」
一通り自己紹介が終わった後にそう言うと、グレイシス伯爵は、ハンカチで汗を拭き始める。しばし沈黙がその場を支配する。
どうやら、グレイシス伯爵は、気が利くタイプではなさそうだ。
アマリスが、新種の小麦栽培の話を振ってみると、グレイシス伯爵は、顔を輝かせて、色々と質問を重ねてくる。
結局その後2人は、延々と小麦栽培や自領で栽培している野菜の話で盛り上がったのだ。
(むしろこういう関係の方がいいわ。)
グレイシス伯爵からは、誠実そうな人柄が感じられ、伯爵領ではアマリスの小麦栽培の知識も活かすことが出来る。
そう考えると、アマリスは、この縁談話は悪くないように思えた。
しかも、グレイシス伯爵からは、返事は焦らなくても良いので、ぜひ次の休暇には、伯爵領を訪れて欲しいと提案されたのだ。
冬の休暇が訪れ、アマリスは約束通りグレイシス伯爵領を訪れていた。
しかしながらそれは、若い男女のバカンスというよりも、今のところほぼ農地の視察と化していた。
「若様。貴方は、何をしているんですか?」
執事のロイが胡乱げな目でこちらを見つめてくる。
「貴方、今のところ、領地の視察しかしておりませんよ。そんなんじゃ、何も伝わりませんよ。」
(わかっている。そんな事はわかっているのだ。)
実は、グレイシス伯爵は、一昨年、新種の小麦栽培の視察にルシウス領を訪れていたのだ。そこで、小麦栽培に精を出すアマリスに目が釘付けになる。
その笑顔がどうしても忘れられず、翌年も視察に訪れ、更には今年も訪れようとしていたので、見兼ねたロイが勝手に釣書を送ったのだ。
しかしながら、色良い返事が来る事はなく、
きっと想う相手がいるのだろうと、諦めようとするも、アマリスが婚約したという話も聞かない。そのため、諦め切れずにいつまでもうじうじしていたのだ。
グレイシス伯爵は、若くして伯爵位を継いでからというもの、領地経営を安定させるのに必死で、気づけば婚期を逃していた。
25を過ぎてから、ようやく、初めて結婚したいと思える女性に出会えたのだ。
このままではいけないことは、誰よりも良くわかっていた。




