8.湖畔のプロポーズ
「森の奥に湖があり、とても綺麗なのですよ。
今日は、ぜひ、そちらに行ってみませんか?」
アマリスも、確かに毎日農地にしか行っていないことに気づく。
「そうですね。ぜひ、行ってみたいです。」
2人は、馬に乗り、共に森へと駆けて行く。
(とっても、気持ちがいいわ。)
グレイシス伯爵が、アマリスに合わせて馬を走らせてくれていることがわかる。
2人は湖に着くと、湖畔で馬を休ませ、ベンチに腰を下ろす。
「お昼にしましょう。」
グレイシス伯爵が、持って来たバスケットからサンドイッチを取り出し、かいがいしく昼食の準備を始める。
(優しい人だわ。)
アマリスの心が自然と温かくなる。
サンドイッチも美味しくて、お腹がいっぱいだわ、なんて考えていると、
「アマリス嬢!!」
バサッ、バサバサーッ
グレイシス伯爵が、突然大きな声を出したので、鳥達が驚き、一斉に飛び立っていく。
慌てる伯爵が可愛いらしくて、アマリスは思わず笑ってしまう。
「実は、私は、昨年、一昨年とルシウス領を小麦栽培の視察に訪れていたのです。」
これには、アマリスも驚きを隠せなかった。
「まぁ。ごめんなさい。それは、知りませんでした。」
アマリスは、全く気づいていなかったのだ。
「そこで、貴方を初めて拝見して、小麦栽培に精を出す貴方の笑顔が眩しくて、もう一度貴方に会いたくて、翌年もルシウス領に…。
ははっ。25歳にもなって、呆れますよね。」
グレイシス伯爵が、真剣な顔で真っ直ぐにアマリスを見つめて、続ける。
「アマリス嬢。
ゆっくりで構いません。まずは、婚約から。
私と婚約してくれませんか?」
恋や愛などそんな不確かなもの、もう必要ないと思っていた。利害関係が一致しさえすれば良い。
そう思ってグレイシス領に来たのに、いつの間にかアマリスは、心から笑えている自分に気づいていた。
グレイシス伯爵の真っ直ぐな熱い瞳に、アマリスの頬が赤くなる。赤くなった顔を隠すように、俯きながら、
「はい。よろしくお願いします。」
アマリスは、それだけ答えるのが精一杯だった。




