2.デュークの留学
「え!留学?!」
アマリスは、素っ頓狂な声を上げる。
この国では、16歳から貴族は貴族学園に通うことになっている。
そのため、アマリスも来年になればデュークと同じ学園に通えるのだと楽しみにしていたのだ。
デュークの話はこうだ。
この秋から、王太子が隣国に留学することになっており、それに伴って側近の侯爵令息や護衛騎士などの高位貴族達も一緒に留学するそうだ。
そこで、リドリー男爵が、お前も同様に隣国に留学しろと言ってきたのだ。
リドリー男爵は、悪い人ではないのだが、その貪欲な性格を隠そうとする気はないようだった。
彼は、自分の息子に、子爵家よりも高位貴族との繋がりを求めていた。
もちろん、デュークがそんな父親に逆らえるわけもなく、秋になるとデュークは隣国へと留学せねばならなくなってしまった。
(そんな、隣国なんて…)
デュークと離れ離れになるなんて、誰か嘘だと言って欲しい。正直、寂しくてたまらないが、デュークを困らせたくはない。
「手紙を書くわ。ずっと、デュークの帰りを待ってるから!」
アマリスはあくまでも、気丈に振る舞う。
「ああ。きっとだよ。」
デュークが、アマリスをそっと抱き締める。
(大丈夫。私達はきっと大丈夫。)
そうしてデュークは、秋になると隣国へと旅立っていった。
* * * * * *
(えーと、今年の小麦の収穫量は…)
ルシアス子爵領では、農業が主産業であり、主に小麦を栽培している。アマリスも学園に通いながらではあるが、子爵領の農作に携わっており、今年は、アマリスが中心となって、害虫被害の少ない新しい品種の小麦の栽培を試していた。
しかし、収穫量などをノートにまとめていた手が止まる。
デュークが隣国に留学して、早1年が過ぎようとしていたが、これまで、何度も手紙を出したが、1度も返事が返って来ないのだ。
(どうして…?)
最初は、何かの手違いか?それとも忙し過ぎるのかしら?と思っていたが、この1年、何度も何度も手紙を出している。
手紙だけではなく、冬には一緒に手袋を送ったり、こちらでしか手に入らないお菓子を送ったりもした。少しでも、こちらの事を思い出して欲しくて。
でも返事は来ないのだ。
アマリスの心は折れかけていた。
(ううん。わからないけれど、何か理由があるのかもしれないわ。私が、デュークを信じないと!)
それに、手紙だけでも送り続けないと、2人の関係がまるで何もなかったことになってしまいそうで、アマリスは怖かったのだ。
それから季節は変わり、更に2年近くが過ぎようとしていたが、アマリスは、今でもデュークの事を待ち続けていた。
そんな薄情な男のことなんて、待ち続けることないわ!
他にもっと良い人がいるわよ!
そんなセリフを耳にタコが出来るほど聞かされる位にはなっていたが、アマリスは、アマリスだけは、デュークの事を変わらず信じていたのだ。
そんな中、やっと来月には王太子達が留学から戻って来る、という知らせが王国を駆け巡ったのだ。
辛抱強く待ち続けていたアマリスの瞳から、嬉し涙が頬を伝う。
(やっと、やっとデュークに会える。)
待ちきれなくて、日々そわそわと過ごしていたアマリスであったが、最近なんだか両親の様子がおかしいような気がする。
(気のせいかしら?)
そんなある日、馬車に乗る直前に忘れ物に気づいたアマリスは、急いで屋敷に戻った所で、偶然両親の会話を聞いてしまったのだ。
「ああっ。アマリスに何て言ったらいいんだ。」
「貴方、アマリスにはまだ黙っていましょう。
デュークが婚約だなんて、そんな事、とても伝えられないわ。」
(デュークが婚約?!)
アマリスの頭の中は、瞬時にして真っ白になった。




