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26.エンゲージリング

11月のバイト代が入り、目標金額に達したらしいアル。

 更に時間は経って、11月に入った。

 風は日増しに冷たくなり、葉も枯れ落ちて冬も近づく頃。

 給料を受け取ったアルが、週末に久しぶりに出掛けようと誘ってきた。


 どうやら目標金額に到達したようで、買いたい物があるからついてきてほしいとのこと。

 もちろん、断ったりはしない。

 ついでに久しぶりのデートを楽しむ事が出来るからである。

 私も、随分とアルを好きになったものである。

 いつからだろう? アルを男として意識し出したのは?



 ◆◇◆◇◆◇



 週末──


 私とアルは、初めてデートした時にも行った、天生へ向かう。


「アル、お金は落としちゃダメだから、私が預かるわね」


 アルが頑張って働いて貯めたお金だ。

 いくらなんでも、落としたりはしないと思うけど、念には念を入れる。


「頼む!」


 自信が無かったらしく、あっさりと私に渡す。

 本当に良く頑張った。

 ご飯が質素でも文句も言わず、他の物も一切欲しがらず。

 好きな女性に、指輪を買って帰る為だけに頑張ったアル。

 アリスさんが羨ましいと思う。


 目的の指輪はまだあるか、お店に確認をしてもらったところ、同じ指輪は売れてしまったらしいが、同じ値段で違うデザインのダイヤの指輪があるそうだ。

 まずは、それを買ってからデートを楽しむ事にする。


「じゃあ、行きましょうか」

「おう!」


 部屋を出て、駅へ向かう。

 2人でこうやって部屋を出るのも久しぶりね。

 アルは、今後バイトの時間を減らしたりするのだろうか?


「アル?」

「何だ?」

「目的のものを買ったら、お金を貯める必要無くなるわよね?」

「そうだな。 バイトも前と同じに戻してもらうつもりだ」

「そうなんだ」


 という事は、朝食や夕食も一緒に食べられるわけね。


「もしかして、寂しかったのか?」

「べ、別に? 1人は慣れてるから」

「何だ。 寂しくなかったのか」

「当たり前でしょ」


 本当を言うと寂しかったのだが、ここで弱味を見せるわけにはいかない。

 それに、いつかはアルと別れて、また1人での生活に戻る事になるのだ。

 それも、遠くない内に。

 寂しがっているところを見せて、アルが「帰らない」とか言い出しても大変だ。


「まあ、そうだよな」


 納得したように、そう言うアル。

 

「早く戻れるといいわね」

「……そうだな」


 何だか、妙な間があったけどどうしたのかしら?

 気にはなるけど、まあいっか。


 私達は電車に乗り、一路天生へ。

 

「それにしても冷えるな」

「そうね。 まだ11月なのにね」

「いや、11月が寒いとか知らないんだが?」


 そういえば、アルにはこの世界の気候について話した事は無かったわ。

 日本の四季だけでも教えておきましょう。


「良い? 日本には4つの季節があるの。 春夏秋冬ね」

「シュンカシュートー?」

「そう。 今は秋っていう季節で、これから12月になるともっと寒くなる冬が来るの」

「まだ寒くなりやがるのか?!」


 アルは「俺は凍え死んでしまうぞ」と、情けない事を言い出した。

 

「大丈夫だから」

「そ、そうか」


 それにしてもそうか……。

 来月はクリスマスがあるのね。


「あのね、12月にはクリスマスイヴとクリスマスっていう日があるの」

「何だその日は?」

「詳しい事は説明しないけど、基本的には恋人同士で過ごして、デートしたり美味しいご飯を食べたりするのよ」


 もちろん、私はそんな経験は無い。

 天衣町に来てからは、クリスマスもバイトだったし。


「ほう、そんな日があるのか? 恋人同士にとって重要な日なんだな?」

「まあ、人によるけど、特別だって人は多いかもしれないわね」

「ふむ、なるほど……となると、その方が良いのか」


 アルは、顎に手を当てて何かブツブツと言っている。

 本当にさっきからどうしたのかしら。

 まあ、いっか。 本題に入りましょう。


「だから、そのクリスマスイヴにはデートして、クリスマスには蘭菜も入れて何か食べに行きましょう?」

「そうだな! で、それはいつなんだ?」

「12月24日と25日よ」

「了解。 覚えておこうではないか」


 大丈夫かしら? 興味の無い事はすぐ忘れるけど。

 まあ、私が覚えていれば良いだけよね。

 

 天生駅に着いて、一目散に目当ての店に向かう。


「いらっしゃいませ」

「あの、すいません。 今朝電話で指輪の在庫を確認した者ですが」

「少々お待ち下さい」


 店員さんは、頭を下げて店の奥へ引っ込んだ。

 しばらく待っていると、別の店員さんがやってきた。


「こちらです」

「アル、これあなたのお金よ。 行きなさい」


 ここからはアルが1人で行くべきだ。

 アルも理解しているのか「わかった」と言って店員さんについて行った。

 私は手持ち無沙汰になり、その辺のアクセサリーを見て回り、時間を潰す。

 少しすると、小さな包装された箱を持って、アルが戻ってきた。

 ちゃんと買えたみたいで良かったわ。


「待たせたな。 これで俺の用事は終わりだぜ。 後は有栖に付き合うぞ」

「そう? 連れ回してやるから覚悟しなさい。 あ、あとそれ預かってあげるから貸しなさい」


 落としたりしたら元も子もない。

 私はアルから、指輪の入った箱を受け取りバッグに入れる。

 アリスさん、喜ぶわよね?

 そっか、夢の中で会っても、私は黙ってないといけないのか。

 気を付けましょう。


「じゃあ、デートに行くわよ」

「あいよ」


 私達は宝飾店を出て、天生の街に繰り出す。

 前回で結構見て回ってしまったが、まだまだデートスポットはある。

 

 私とアルはその日は目一杯楽しんだ。

 アルは、初めて見る物に一々目を輝かせて、まるで子供のようだった。

 周りの人からは奇異の目で見られたりもしたけど、私は楽しかったし、気にしてはいない。

 途中、アルに腕時計を買ってあげた。

 デジタルで、日付もわかるやつだ。

 腕時計ぐらい持ってないとね。


 遊び疲れた私とアルが、アパートの部屋に戻ってきたのが22時。

 私は、アルに指輪の入った箱を返して、先にお風呂を済ませる。

 

「じゃあ、私は先に布団に入ってるからね」

「おーう」


 布団に入って、眠りにつく。



 ◆◇◆◇◆◇



 夢だ──。

 ということは……。


(アリスさん?)

「はい?」


 急に脳内から私の声が聞こえても、驚かなくなったわね。

 慣れたのかしら?


(お久しぶりです)

「そうですね。 少し待っていて下さい。 ラーナちゃんを呼びます」


 ラーナさんを? もしかして、進捗があったのかしら?

 しばらくすると、ラーナさんが部屋にやってきた。

 呼んだようには見えなかったけど、何かテレパスのようなものかしら?


「来てるの? 向こうの有栖さん」

「ええ」


 来てます来てます。


「例の暗黒魔法、なんとか使えるようになったよ」

(本当ですか?)

「本当ですか? って」


 ふ、不便だ。

 私の声が聞こえているのは、アリスさんだけだから、どうしてもこうなる。


「うん。 こっちはいつでも使えるよ。 ただし、聞いてると思うけど、この魔法は私の命を削って使う魔法なの。 禁忌の魔法だし、使えるのはせいぜい5回。 まあ、死にたくないし、2回ぐらいまでにしたいかな」


 つまり、アルを帰したらもう二度と会えないという事ね。

 まあ、わかってはいた事だし。

 私は理解した事を伝える。


「さて、あとはいつやるかだけど?」


 ラーナさんはいつでもいけると言っている。

 アリスさんは、私の判断に委ねるつもりらしく、黙って待ってくれている。


「だから、そのクリスマスイヴにはデートして、クリスマスには蘭菜も入れて何か食べに行きましょう?」


 クリスマスイヴにデートする約束をした。

 クリスマスには、蘭菜と3人でご飯を食べに行く約束をした。

 

 だけど──。


(2日後の夜……この時間ぐらいにお願いします)

「2日後?! 良いんですか?! もうアルとは会えなくなるんですよ?!」


 アリスさんが声を上げる。

 わかっている。

 だから、いつその日が来ても良いように、覚悟はしていた。

 

(はい。 明日アルに話して、お世話になった人達に挨拶させます)

「有栖さん……」

「わかった。 じゃた2日後のこの時間に、トンネルを開くよ。 有栖さんの今いる場所を知りたいから、頭の中に、今いる場所を思い浮かべてくれますか?」


 私は言われた通り、自分の部屋を思い浮かべる。

 ラーナさんは、アリスさんの頭に手を置いて目を瞑る。


「ありがとう。 大体の位置は掴めました」


 あんなので、行ったことも見たこともない世界の座標とかわかるものなのかしら?

 それにしても後2日……。

 アルとの別れの時は、もうすぐそこに来ていた。


アルとの別れの時が唐突にやってきた。


最終話までもうちょい。

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