25.謝罪
期限付きの恋人同士となってから日にちが過ぎて……。
あれから数週間が過ぎて10月に入った。
この間、ヴィエラザードのアリスさんとは夢の中で会えていない。
もしかして、魔王との戦いで何かあったのかもしれない。
そうは思っても、私は口には出さないようにしていた。
戦いの最中には、私は干渉出来ない様になっているのかもしれないし、あまりアルを不安にさせたくもない。
そんな私とアルは、期限付きの恋人になったものの、あれからデートを1回しただけで、特に何か恋人らしい事をしたわけではない。
アルは相変わらず、毎日毎日狂ったようにバイトに明け暮れている。
一時期の私より凄い事になっている。
ちょっとぐらいなら、お金を貸すと提案したのだけど「それじゃあ、意味が無いんだよ」と、拒否されてしまった。
言わなきゃ絶対バレないってのに、頑固な奴である。
今日は平日。
「おはよう有栖」
「おはよ」
小さいのが、ちょこちょことやって来て挨拶をしてくる。
「その後はどうなの?」
「いつも通りよ。 あっちとも交信出来ないし」
「そっかー。 アル兄にはもっと休んで良いから、有栖と一緒にいてやりなって言ってんのに」
「どうしても欲しい物があるのよ」
アリスさんに渡す、この世界の指輪。
それを持って帰って、プロポーズするつもりなんだろう。
「でも、やっぱり有栖との時間大事にしてあげて欲しいねぇ」
「まあ、少し寂しいのは寂しいかしらね」
本当に、付き合ってると言えるのかどうか怪しい。
相変わらず、バイト以外では顔も合わせないし。
「もしかしたら、練習台にされてるのかしら?」
「練習台?」
「向こうに帰った時、アリスさんと付き合う為の」
「もしそうだったら、アル兄見損なうなぁ」
有り得ないとは言い切れない。
私はアリスさんの代替にしか思われていないのかもしれない。
「ま、それでも良いけどね」
「えー……」
◆◇◆◇◆◇
放課後──
藤宮書店でバイトである。
「アル兄、有栖ー。 父さんから給料預かったよ。 アル兄は頑張ってくれてるからイロ付けてくれたよ」
「イロ? 茶色だな! でも、有栖のも茶色付いてるぞ?」
「イロってのはおまけしてちょっと増やしてくれたって事」
「マジか!」
「それで欲しい物買えるのかい?」
蘭菜がそう訊くと、アルは首を横に振る。
「この中から、有栖に渡す分を引くとまだまだ足りない」
アルの給料は私が預かって、生活費に当てている。
ただ、切り詰めればそこまでアルの給料に頼らなくても何とかなる。
それに、アルもお金の使い方を覚えてきた。
何より、欲しい物がある現状、お金を任せても無駄使いしないだろう。
「今月はこれだけ貰えれば十分よ。 ちょっとご飯が質素になるかもしれないけど」
アルの袋からほんの少しだけ抜き取り、後は全額アルに渡す。
「いいのか?」
「えぇ、アルは頑張ってるもの」
アルは「すまない」と、頭を下げるのだった。
指輪、間に合うと良いわね。
◆◇◆◇◆◇
その夜──
数週間ぶりにアリスさんと夢の中で交信出来た。
何より無事で良かった。
(あの、魔王とやらとの戦いは?)
「はい、大変な戦いでしたが、何とか無事に終わりました。 これでヴィエラザードにも平和が戻るはずです」
おお、良かった!
アルに良い報告が出来そうね。
「ラーナちゃんは、また例の魔法習得に取り掛かり始めました」
(そうですか)
これも良い報告だ。
「ただ、問題があるそうです」
(問題?)
「その魔法なんですが、術者の寿命を削るという副作用があるらしくて……」
(まさか、死んじゃうんですか?!)
「いえ……1回や2回程度ならそこまでにはならないらしいですけど、何度も使う事は出来ないみたいで……」
何度も使う必要がそもそもあるのかしら?
「その、だから、そちらとこちらを、何度も行き来するという事が出来ないそうです」
(……え? 別に何度も行き来しなくて良くないですか? アルをそっちに帰して終わりじゃないですか?)
「え? アルに二度と会えなくなるんですよ?」
逆に驚かれてしまう。
(それは勿論寂しいですけど、元々私とアルは、出会うはずも無かったわけだし、出会う前の日常に戻るだけですから)
「アルの事、好きなんですよね?」
確認する様に聞いてくる。
(はい、好きです)
頃合いだろう。
そろそろ、私とアルが今だけ付き合っているという事を打ち明けよう。
(すいません、実は今、アルと恋人になっているんです。 アルがそちらに帰る日まで)
「え!? 本当ですか?!」
謝罪を述べてから、アリスさんに打ち明けると、さらに驚かれてしまった。
でも、あまりショックを受けているというわけでは無さそう。
「それは良かったですね。 尚更、別れたくないのでは?」
(まあ、そうなんですが……アルが戻りたがっているので私が止めるわけには)
「うーん……」
(良いんですよ。 アルがそちらに戻って、アリスさんと結ばれても。 だって貴女は、別世界の私なんですから)
アリスさんに言われた言葉を、そのままアリスさんに返す。
「くすくす……やっぱり私達は、同じなんですね」
(みたいですね。 あ、でもラーナさんには出来るだけゆっくりとお伝え下さい)
「ふふふ、わかりましたよ)
これで、何とか時間は稼げるわね。
アル、頑張ってお金貯めるのよ。
◆◇◆◇◆◇
翌朝、やはりとアルは先に出て行っていない。
せっかく良い報告が出来るのに、夕方までお預けね。
学校で、先に蘭菜に話をする。
蘭菜も「良かったね、無事に終わったんだね」と、自分の事の様に喜ぶ。
バイト中、アルにも報告した。
「そうか。 俺がいなくても何とかなったか。 あれ? 俺って勇者パーティーにいらなかったんじゃ?」
「そんな事は無いでしょ? アルがいれば、もっと早くもっと楽に終わってたかもしれないわよ?」
と、一応フォローを入れると、調子に乗ったアルは「ふははは! まあそうだろうな!」と、偉そうにする。
単純バカねー。
「それで、ラーナさんがまた例の魔法の習得に取り掛かってるみたい」
「そうか。 あまり時間が無いな」
「大丈夫よ。 ゆっくりしてって言ってあるから」
ラーナさんが、聞き入れてくれたかどうかは定かではないけど。
「有栖よくやったぞ!」
「ふふん、ありがたく思う事ね」
「ははー」
「何やってんのさ2人とも……」
私達のやりとりを見ていた蘭菜が、変な人でも見るような目になっていた。
「実際、どれくらいこの世界にいられるだろうな?」
「わからないわね」
「どんどんデートでも何でもすると良いよ? 多少休んでも良いからさ」
蘭菜がそう言っても、アルが中々首を縦に振らない。
私としても、もう少し一緒の時間を増やしたいと思っているんだけど。
「すまない有栖。 あまり一緒に居られなくてよ」
「別に良いわよ。 ちょっと前の1人だった頃に戻ったみたいなものだし」
アルの前では強がって見せる。
弱いところを見せるわけにはいかない。
アルの目的が達成出来るまでは、私も我慢しましょう。
有栖はアルの為に、自分が寂しいのは我慢する事に。




