24.ここにいる間は
バイトで顔を合わせた際、アリスさんからの新しい情報を、アルに伝える。
アリスさん達一行は、魔王の居城を突き止めたらしい。
決戦が近いため、ラーナさんの魔法の習得作業は一旦中断。
アリスさんとラーナさんは、アルが戻るまで待てないか提案したようだが、悠長な事はしていられないと、聞き入れてはくれなかったらしい。
「そうか……魔王との戦いには間に合わないか」
「アル……」
悔しいはずだ。 仲間達が戦っているのに、自分は平和な世界でアルバイトなんてしているのだから。
好きな人を側で守れないのだから。
「暗い顔しても仕方ないじゃないか! 明るく行こう明るく! ほらお客さんだよ! いらっしゃいませー」
蘭菜は明るく笑い飛ばしながら、場の空気を変えてくれた。
小学生みたいな見た目して、誰よりも大人だ。
夕飯時になり、私は先にバイトを上がる。
アルは今日も遅くに帰ってくるのだろう。
明日は学校も休みだし、帰ってくるまで起きていよう。
久しぶりに「おかえり」と言ってあげたい。
◆◇◆◇◆◇
夕飯を食べて、入浴を済ませた後は、勉強しながらアルの帰りを待った。
時刻は0時前、ようやくアルが帰ってきた。
「おかえりアルー」
「ん? 起きてたのか」
「明日は休みだから」
アルは「そうか」と、言って洗面所へ向かう。
手洗いうがいは大事だと教えた事が、ちゃんと身についている。
戻ってきたアルは、夕食を食べ始める。
疲れてお腹も空いているのだろう。 凄い食べっぷりだ。
「うめー」
「そう? ありがとう」
本当に美味しそうに食べてくれる。 作り甲斐があるってものね。
「どうした、ニコニコしてんな?」
「ん? いや、自分が作った物を『美味しい』って言ってもらえるのは嬉しいのよ?」
「そうか」
その後も「美味い」と言いながら、食事を済ませるのだった。
アルも入浴を済ませて、布団に入る。
明日も早くにバイトがあるのだろう。
毎日こんな感じなのかしら?
体は大丈夫かしら?
「……アル、カーテン開けて良い?」
「何でだ?」
「アルの顔を見て話したいのよ」
すると、向こうからカーテンを開けてきた。
「どうした急に? 何かあったのか?」
「別に……」
後悔する事ほど辛い事は無い……。
自分の気持ちを大事に……。
後悔は……したくない。
「……私、アルが好きよ」
言ってしまった。 もう後には退けない。
この想いは届かないかもしれない。
けど、アリスさんと話して、後悔したくないと強く思った。
「そうか。 俺も好きだぜ?」
「……へ?」
「何処の馬の骨かもわからん、見ず知らずの男を拾って世話までしてくれる。 良い奴だぜ、有栖はよ」
あ、そういう「好き」なのね。
恋愛的な何かは無いのね。 ドキッとして損したじゃない。
「そ、そう」
「本当に感謝してるぞ。 この世界で初めて会ったのが有栖で良かったぜ」
そう言ってもらえるのは嬉しい。
けど……。
私はもう一歩を踏み出す事にした。
「好きなの。 アルを1人の男として見ているわ」
「何?! そうなのか?! いや、モテるって罪だな」
何なのこの反応……。
真剣に告白してるのになんか腹立つわね。
「ちょっと、私は真剣なんだけど?」
「そうだよな。 悪い」
アルは体を起こして、私の方に向き直る。
「それで? 有栖はどうしたいんだ?」
「わ、私と恋人に……」
言っちゃった! 返事が怖い!
「俺は、別世界の人間だぞ? それにいつかは元の世界へ帰るんだ。 わかってるだろ?」
「わかってても、好きになったものはしょうがないのよ!」
「そ、そんな怒るなよ」
「もういいわよっ……アルにはアリスさんがいるんだもの。 フラれるなんて最初からわかってたし」
私は布団を頭から被り、不貞寝を決め込む。
アルはしばらく黙り込んでいるようだったが、急に「わかった」と、言い──。
「ここにいる間なら、良いぞ? 有栖がそれで良いって言うならだが」
……?
私は布団から飛び出して、アルの顔を見る。
アルは「どうだ?」と、訊いてくる。
「アルがヴィエラザードへ帰るまで?」
「おう、それまでなら恋人にでも何にでもなってやる」
「……それは私が可哀想だから?」
「あのな? 俺は好きでもない女は恋人にはしないぞ? 例え少しの間でもな」
「……じゃあ、お願いしても良い?」
「おう。 どれくらいの間かはわからないがな」
意外な結果になってしまった。
フラれて終わりだと思っていたのに、期限付きの恋人になってしまった。
「そ、その! よろしくお願いします」
私はよくわからずに、取り敢えず手を付いて頭を下げる。
「何やってんだ? いつも通りで良いだろ」
「だって! 恋人とか初めてだし」
「俺もだぞ」
いざこうなると、どうしていいのかわからない。
わからないので、とりあえず明日蘭菜に相談しましょう。
「お、おやすみなさいっ」
「お、おい……」
私はアルの呼びかけを無視して、布団を再度被り直す。
どうしよー!!
「ったく……おやすみ」
カーテンが閉まる音がしたので、アルも自分の布団に入ったのだろう。
せっかくアルが、期間限定とはいえ恋人になってくれるというのだ。
一杯思い出を作らなければ勿体ない。
わかってるけどぉ。
あまりの急展開に思考がついていかず、気が付けば眠りに落ちていた。
◆◇◆◇◆◇
翌朝目が覚めると、既にアルはバイトに行っていなかった。
起こしてくれれば、朝ご飯を作るのに。
人には無理するなと言っておいて、自分は良いのかしら?
アリスさんに指輪を買って帰る為とはいえ、倒れたら元も子もない。
「私も準備して、バイト行こ」
私は、朝ご飯を食べて着替えを済ませ、家を出る。
今日は蘭菜に恋愛相談しなければならない。
そんな日が来るとは予想だにしていなかった。
藤宮書店に着き、蘭菜やお兄さんに挨拶をした後で、エプロンを着けて店に出る。
「あれ、アルは?」
「ん? 裏の書庫整理してるよ」
あー、大変なやつね。 男手が増えて助かるわ。
そして丁度良いタイミングである。
「蘭菜、ちょっと相談が」
「何さ?」
「実はかくかくしかじかアルアル」
「うぇぇ? 本当それ?」
通じるんだこれ。
「気持ちは伝えないんじゃ?」
「や、やっぱり後悔したくないって思って、伝えるだけ伝えようと思ったら、意外な結果に……」
「んまぁ、良かったじゃないか! いつまでかはわからないけどさ」
「そ、そうなんだけど……」
「で? 何の相談なの?」
腕を組んで、そう訊いてくる蘭菜。
「こ、恋人同士って、何すれば良かとですか?」
「知るかー! こちとら恋人なんか出来た事なんて、一度も無いわ!」
めちゃくちゃに怒鳴られてしまった。
何となく予想してたけど、やっぱりそうなのね。
頼みの蘭菜がこれでは、困ってしまった。
「良いじゃないさ、今まで通りで」
「今まで通りじゃ、ただの同居人じゃない?」
「むしろ恋人より進んでるじゃないか!」
言われてみれば確かに。
同棲してるって事だもんね?
何だ、今まで通りで良いのね。 悩んで損した。
「まあでも、デートとかして思い出作っておく事に越したことはないかな? 後、これはあまり言いたくないし、有栖もわかってたから尻込みしてたことだけど」
真剣な表情を見せる蘭菜。
私もわかっていた事、それは──
「好きになればなるほど、いつか来る別れが、 とても辛くなるよ」
「……わかってる」
「頑張んなよ、有栖」
私は小さく頷いた。
想いを告げたら意外な展開になってしまった有栖とアル。
期間限定での恋人に。




