23.どうしようもない
デートの締めに藤宮書店へ行くことにした2人。
作品名を少し変えました。
カフェで休憩しながら、最後は何処に行こうかと考えていると、珍しくアルから提案してきた。
「藤宮書店に行かないか?」
「蘭菜の家?」
「蘭菜や蘭菜の家族には世話になってるからな。 いつ居なくなるかわからんし、出来る内に挨拶をしておきたい」
アルは、中々律義な奴のようだ。
アルがいつヴィエラザードに帰れるかはわからない。
明日かもしれないし、数ヶ月、数年先になるかもしれない。
ラーナさん次第なところがあるのでなんとも言えない。
こうしている間も、ラーナさんはアルをヴィエラザードへ戻す為の魔法を習得しようと頑張っているに違いない。
「アルが行きたいならそうしましょう」
特に反対する理由も無いので、本日最後の目的地は蘭菜の家になった。
そういうことなら、目指すは駅。
私達はカフェを出て、天生駅へと向かうのだった。
電車に乗り、空いた座席に並んで座る。
私の手には、アルがゲームセンターで取ってくれたぬいぐるみ。
アルは、出掛ける前とは違う服を着ている。
私とのデートは楽しかっただろうか?
気になるので聞いてみる。
「今日はどうだった? 楽しかったかしら?」
「ん? あぁ、すげー楽しかったぞ」
「そう、良かった」
やっぱり何か様子が変だわ。
何かを考えてるような、そんな感じだ。
本人が何でもないと言う以上、あまり詮索しない方が良いのかもしれない。
窓から見える西日が、アルの横顔を照らす。
黙っていれば、凄くかっこいい大学生に見える。
私は天井を見上げて、あとどれくらい一緒にいられるのだろうと考える。
私も変わったわね。 最初は面倒なのを拾ってしまって、成り行きで一瞬に暮らす事になったけど、いつの間にか楽しくなっていた。
早く元の世界に帰して、1人に戻りたいと思っていたのに、いつの間にか別れるのが寂しいと思うようになっていた。
◆◇◆◇◆◇
「何でデートの締めが家なのさ」
「いや、蘭菜達には世話になってるから挨拶でもと」
「そういうのは、いざ帰る時にするもんだよ」
蘭菜の言う通りである。
何も、ラーナさんが魔法を習得しても、待ってもらえばそれで済む話だったのだ。
「まあ、良いけどさ。 その気持ちはありがたいよ」
店仕舞いをしながら会話を続ける蘭菜。
「で、今日はデートどうだったのさ?」
「楽しかったぞ」
「いや、そうじゃなくて……何か仲が深まるイベントとか無かったわけ?」
「無かったわね」
蘭菜は「かーっ! 何して来たのかね君達は!」と、プンスカ怒り始める。
何と言われてもねぇ……。
「もう、知らないよ? いつアル兄が帰っちゃうかわからないんだからさ?」
「な、何の話よ」
「はぁ……アル兄、ちょっと有栖借りるね」
「ん、あぁ」
「んー? まあいっか、有栖ちょっと来なさい」
蘭菜に促され、居住エリアにお邪魔する。
途中で、お兄さんに挨拶をしながら蘭菜の部屋に入る。
「有栖。 いつまで自分の気持ちを騙し続ける気なの?」
「な、何の話かしら?」
いつものヘラヘラした蘭菜ではなく、真剣な表情の蘭菜に少したじろいでしまう。
「気付いてるんでしょ、自分の気持ちに」
「……だから何が?」
蘭菜は大きな溜め息をついてから、口を開く。
「あんたは、アル兄が好きなんでしょ?」
「……何で? 何でそうなるのよ?」
「見てればわかるよ。 最近の有栖は、アル兄の事をよく目で追ってるし、一緒にいるのが楽しそうだからね」
「……そんなぐらいで好きかどうかなんて」
「いい加減にしなよ有栖!」
「っ?!」
珍しい蘭菜が本気で怒鳴り声を上げる。
どうしてそんな事で怒るのよ……。
「私だって、最初は面白半分で2人を弄って遊んでたよ。 それは認める。 けどさ、今は違うよ? 有栖がアル兄を好きになったんだろうなってわかったから、応援してきたんだよ」
「応援て……」
「このまま、アル兄を帰したら後悔するよ?」
私は黙ってしまう。
後悔すると言われても……。
「どうしようもないじゃない」
「何がさ?」
「だって、アルは別の世界の人間で、そこには好きな女性がいる。 いつかは私の前からいなくなる人なのよ? 好きになっちゃ……ダメな人なのよ」
「だったら、帰さなきゃ良いじゃないさ!」
「バカな事言わないでよ」
アルには勇者様達と一緒に魔王とかいうのを倒さないといけない。
そう言っていた。
それに、アルの帰りを待っている人がいる。
私の想いだけでは、どうにもならない。
「どうしてさ……ただ一言、アルが好きだって言うだけじゃないの」
「……言ったとこで、私の気持ちなんか届かないわよ。 好きになってしまったら、余計に別れが辛くなるしね」
「わからず屋」
「かもね」
蘭菜は「もう知らない」と言って、先に部屋を出て行ってしまった。
蘭菜が心配してくれているのはわかるし、ありがたいとも思う。
蘭菜の言う通り、私はアルに少なからず恋心を抱き始めている事は自覚している。
それでも、やはり気持ちを伝える事には抵抗がある。
アルの事、アルの帰りを待つアリスさんの事、それらを考えたら、とてもじゃないけど告白なんて出来ない。
帰らないでなんて言えない。
最初から、どうしようもないのだ。
私は、少し遅れて蘭菜な後を追い、店の方へ出た。
「バイトの時間増やしてくれってさー……うちは構わないんだけど、アル兄は平気なの?」
そんな話声が聞こえてきた。
バイトの時間を増やす?
「どうしたのよアル? 別に今のままでも、2人で生活する分には問題無いけど?」
「あ、いや……色々自分で欲しい物があってな? 小遣いぐらいにはしたいと……」
何だか歯切れが悪いわね。 デート中に考えてたのはこの事か。
デート中に何か欲しい物でも見つけたのかしら?
「何よ? 安い物なら買ってあげるけど?」
「いやー、ちょっと高いんだなーこれが」
「いくらぐらい?」
「言えぬ」
そんな高い物、今日見たかし……ら……。
「こんなのを好きな人にプレゼントされたら、どんなに嬉しいのかしらね?」
「……エンゲージリングってやつか。 ヴィエラザードでもそういう物がある」
指輪だ。 あの指輪を買って帰って、アリスさんにプレゼントするつもりなのね?
アルの癖に粋な事を考えるわね。
「蘭菜、アルの言う通りにしてあげてくれる? あまり高い物は、今の生活費から捻り出せないわ」
「わかった。 じゃあ明日から、早朝の棚出しとか掃除をお願い」
「おう」
……アリスさんが羨ましい。
◆◇◆◇◆◇
それからアルは、毎朝早くにバイトへ出掛け、夜遅くに帰って来るようになった。
私とは、バイトでしか顔を合わせなくなってしまって、少し寂しく感じる。
そんなある時、またヴィエラザードの夢を見た。
(ラーナさんの方の進捗はどう?)
「中々苦戦していて、まだ時間が掛かるみたい」
(そっか。 まだ大丈夫なのね)
と、つい口走ってしまう。
「大丈夫……?」
(あ、いえその)
「……有栖さんは、アルが好きなの?」
アリスさんからそう訊かれてしまう。
誤魔化すかどうか悩んでいると、アリスさんが言葉を続ける。
「どこもおかしくないですよ。 私と貴女は、きっと別の世界の同じ人間なんですから。 同じ男性を好きになっても、不思議なことなんて無いと思います」
(アリスさん……はい、好きです。 でも、この気持ちをアルに伝える事は出来ません)
「何故? 後悔しますよ?」
アリスさんも蘭菜みたいな事を言う。
私は蘭菜に語ったように、アリスさんにも話す。
アリスさんは一定の理解を示してくれはしたが、納得はしていないといった感じだ。
アリスさんは、ゆっくりと語り始めた。
「私は、いつまでも時間があると思って、アルに気持ちを伝える事を先延ばしにしてきました。 そんな時に、アルは私の目の前から消えてしまった」
アルが、私の世界に来てしまった事だろう。
「もう二度と会えないかもしれない……そう思って後悔しました。 有栖さん、後悔する事ほど辛いことはありませんよ?」
後悔する事ほど辛い事は無い……。
「アルや私の事は気にしないで、自分の気持ちを大事にして下さい」
(……どうして? アリスさんはアルが好きなのに)
「貴女が、別の世界の私だからですよ」
アリスさんは、優しい声でそう言った。
蘭菜とアリスから背中を押される有栖。




