20.吉報
夏休みが明け、新学期。
少しバイトを減らした有栖?
夏休みは終わり、新学期が始まる。
まぁ、別に何も変わらないんだけど。
いつも通り学校に行って、バイト行って……。
ただ、少しバイト日数を減らした。
その代り、体力も時間も有り余ってるアルがバイトの時間を増やした。
私が以前みたいに、倒れないようにということのようだ。
「予習ー復習ー」
余裕が出来たので、勉強の時間を増やした。
これぐらいなら、体には負担も掛かったりしない。
「俺はもう寝るぞぉ……」
「あ、おやすみ。 電気消していいよ? こっちはスタンドでやるから」
「いや、気にするな。 明るくても寝れる」
「そ、そう?」
私は気にせずに勉強を始めた。
1時間程集中して勉強をした後、飲み物を飲んで床に就く。
「おやすみ、アルー」
すでに眠っているアルにそう言って電気を消す。
◆◇◆◇◆◇
(お、おお? この感じは! アリスさんと繋がったね!)
ちゃぽーん
んん? アリスさん入浴中かな? さすがに今話しかけるのはどうだろうか?
なんて思っていると、隣から声が聞こえてきた。
「ねぇ、アリスさん」
「なーにラーナちゃん」
どうやら隣に居るのはラーナさんのようだ。
仲良く入浴中なのであろう。
「勇者様の事どうするの?」
「ウェイン様の事?」
む、気になる話だ。
これはもう少し黙って聞いていよう。
「かなり猛烈にアタックされてるじゃーん?」
「……ウェイン様の事は尊敬しているしお慕いもしているけど、恋情を抱いてはいないのよ」
「そっかー。 うん、安心した。 アリスさんはやっぱりアル兄だけだね」
「そうね。 アルどうしてるかしら?」
「最近、向こうの世界の有栖さんとは?」
「無いのよ」
おっと……そろそろ、声を掛けよう。
(はいはい、いますよー)
「ひぃっ?!」
「ん?! どうしたの急に?!」
「あ、うん。 有栖さんが」
「タイムリーだね」
(びっくりさせてごめんなさい)
「いえ、むしろ待っていました」
(そ、そうですか。 あ、夢の内容を向こうに持ち越すことに成功しました。 アルにもちゃんと伝えましたよ)
まずはその報告を済ませる。
アリスさんは「それは良かった」と、喜んだ。
「こちらの方も色々わかりましたよ」
(おお?)
「ラーナちゃん、調べてわかった事を聞かせてあげて」
「はーい。 まず、アル兄をそっちへ飛ばしたのは、予想通り暗黒司祭の魔法だったよ。 色んな文献を読み漁ってやっと見つけた」
なるほど、予想通りだったか。
「そいでね、その魔法で飛ばせるのは、転移元から最も近しい世界らしいのよ」
(最も近しい世界? 地球とヴィエラザードは近しい世界なの?)
私の声を逐一通訳してくれるアリスさん。
手間だと思うけど、ありがとう。
「それは良くわかんないけど、私やアリスさんのそっくりさんがいるんだし、割とそうなのかも?」
あー、たしかに。
「話戻すね? つまるところ、そっちで同じ魔法をアル兄に使えば、アル兄はこっちに戻って来れるってわけなのさ!」
(道理ね。 近しい世界同士で往復する事になるわけか……問題は、誰がそんな魔法を使えるのかって話よね)
「そちらの世界には魔法は無いんですよね?」
(アル以外に使える人はいないと思う)
さて、どうしたものかしら。
と、悩んでいると、ラーナさんが「ふっふっふ……」と笑う。
「その文献にはね、もう1つ凄い魔法の事が記されていたのさ。 その魔法は、こちら側の世界と近しい世界を繋ぐトンネルを作り出す魔法。 作れるのは本の数秒ぐらいみたいだけどねー」
「……つまり、こちらからトンネルを開けあげればアルは帰ってこれるの?」
「その通り!」
(ご都合展開ね! でも、それなら何とかなりそう?)
「ただ、私もアリスさんも、暗黒魔法は専門外なの。 その魔法を習得するまでは少し時間がかかるかなー」
(いえいえ! 大収穫です! アルに吉報が伝えられますよ!)
良かった。 少し時間はかかるみたいだけど、アルは帰れるんだ。
アルは……。
「出来るだけ早く習得できるように頑張るよ」
(お願いします。 あ、アリスさん、ナイフで指切ってもらえませんか?)
前回はこれで上手くいったのだ。
今回も上手くいく保障は無いけど、やれる事はやっておく。
何ってたって、アルを帰す目処が立ったのだから!
アリスさんは、私の話を聞いて納得したのか、ナイフで指に切り傷を付けた。
この傷が、何故私に反映されるのかは良くわからない。
思い返せば、昔から身に覚えの無い痣や切り傷を負っていた事があった。
私はずっと、アリスさんと繋がっていたのかもしれない。
◆◇◆◇◆◇
翌朝、目を覚まして、いつも通りに顔を洗う。
指先に鋭い痛みを感じて見てみると……。
「アリス」
器用な切り傷が出来ていた。
それを見た瞬間、頭の中に知らない映像がフラッシュバックする。
「そっか……夢見たんだ……」
夢の内容を思い出す。
そうだ、アルが戻れる方法が見つかったのだ。
「アルは……まだ寝てるわね」
私は先に朝食を準備した。 話は朝食しながらで良いわよね。
そうこうしていると、アルが起きてきた。
顔を洗って、食卓の前に座るアルに朝食を運ぶ。
「いただきます」
「いただきます」
2人で手を合わせて朝食を食べる。
そして、私は昨夜見た夢の話をアルに伝えた。
「つまり、ラーナが魔法でトンネルを開けると?」
「ええ。 そのトンネルを潜れば帰れるらしいわよ」
「そうか。 じゃあ、この世界で過ごせるのはあと少しか」
と、少し名残惜しそうな表情を見せるアル。
何だかんだ言って、地球の暮らしを楽しんでるみたいだしね。
かく言う私も、アルが居なくなるのは寂しい。
出会ってまだそんなに経ってないのに、もうアルといるのが当たり前に感じている自分がいる。
「……帰らないでって言ったらどうする?」
無意識に、そんな言葉が口を突いて出た。
「ん? そうだなー。 残っても良いが、アリスが居ない世界はなぁ……」
胸が痛んだ。 やっぱり私とアリスさんは、アルにとって違う人なんだ。
どんなに見た目が同じでも、私はアリスさんにはなれないのね。
「ごめん。 今のは気にしないで」
「帰ってほしくないのか? 邪魔だろ俺なんて」
「邪魔なんかじゃないわよ。 その……」
「今度2人でどっか行くかー? こっちで思い出作っときたいしな」
「それってデートの誘いかしら?」
冗談のつもりでそう言った。
でもアルは──。
「そうだな。 デートしようぜ」
笑顔でそう言った。




