19.夏休み最後の1日②
遊園地で遊ぶ一向。
次にアトラクションはゴーカートのようだ。
お化け屋敷を出て、ベンチでひと休憩した私達は、次なるアトラクションへやってきていた。
「ゴーカートレーシング?」
「イエス!」
「ちっちゃいジドウシャみたいなのが一杯走ってんな?」
「あれに乗って競争するんだよ。 これなら有栖も大丈夫でしょ?」
「ええ、まあ」
私は問題無いけど、今度はアルが大丈夫かしら?
ゴーカートなんて見た事の無い物を扱えるわけないと思うんだけど。
そんな私の心配を他所に、蘭菜とアルはサーキットへ入ってカートへ乗り込んでしまった。
「しかたないわね……」
諦めて私もカートに乗り込む。
「良い、こっちを踏めば進んで、こっちを踏んだら止まるからね? 後、これ回せば曲がるから」
超簡単に説明だけ済ませると「簡単だな!」と、調子に乗り出した。
スタッフさんがエンジンをかけてくれて──。
「ゴー!」
蘭菜の掛け声で一斉にスタートする。
こういうのはコース取りが重要なのよね。
「アウト・イン・アウトってやつが良いのかしら」
コーナーに入る時はアウトコースからインコースへ……。
「甘いよ有栖っ!」
「げっ?!」
コースを遮る様にインを突いてきた蘭菜。
私は接触を避ける為にブレーキを踏む。
すると──。
「有栖! 止まるな!」
「うぇっ?!」
今度は後ろからアルのカートが突っ込んできた。
慌ててアクセルを踏み、加速する。
「危なかったぁ」
前を見ると、蘭菜とは結構差が開いてしまったようだ。
ならば、私はアルにだけは負けないように走りましょう。
気になって後ろを見てみる。
「くお〜!! ぶつかる〜!! ここでアクセルを全開、インド人を右に!」
「どこで覚えたのよそれ!?」
「蘭菜の家の本屋で見た!」
そんな古い雑誌、置いてても売れないでしょ!
でも、初めてにしては中々やるわね。
ちゃんと乗れてるじゃない。
「負けないわよ」
「どけー!」
私はアルのカートの前を塞ぐように走り、抜けないようにしてやる。
「抜けるもんなら抜いてみなさい」
「ぐぬー」
結局、アルと私の勝負は私の勝ちに終わった。
まあ、蘭菜がぶっちぎりの1位ではあったけど。
「いやー、楽しかったねぇ」
「そうね。 こういうので良いのよ。 それにしてもアル、初めて乗るにしては運転上手かったじゃない?」
「簡単だったからな」
これは、意外だったわね。
将来的には自動車免許取ってもらって、大学の送り迎えやドライブデート──。
「はっ!」
「急にニヤニヤニヤしだして、なーに考えてたのさぁ? んー?」
「何でもないから!」
ニヤニヤしてたの? やばいやばい。
何故か最近妄想ばかりしてるわ!
「素直になりなよー」
「素直も何も……」
「次はどれ行くんだ?」
「有栖が乗りたがってるからメリーゴーラウンドかな」
「何か強そうな名前だな!」
そんなこと考えた事すらなかったわね。
まあ、どうでもいいか。
メリーゴーラウンドならさすがの私も大丈夫である。
「ここがメリーゴーラウンドだよ」
「おお! 馬じゃねーか! ん? でも足が動いてないし、同じとこグルグル回ってるだけじゃないか?」
「作り物よ。 作り物の馬に乗ってグルグル回るアトラクションね」
簡単に説明をしてあげると「何が楽しいんだそれ?」と、素で返してきた。
そう言われても困るわね。
大体、これとコーヒーカップぐらいしか私の乗れるアトラクションなんてないし。
何て言ったら蘭菜に「幼稚だねぇ」とバカにされるでしょうね。
「まあまあ、いいじゃないのさ。 ほれほれ乗ろうよ」
私が作り物の馬に跨る。
すると……。
「アル兄は、有栖の後ろに同乗してね」
「おお、向こうでも良くアリスを前に乗せてたな」
「ちょーっと待ってくださいよぉぉ!」
なんで私が、アルと同乗するの事になるのよ。
「いいじゃないのさ別に」
「あんたはそうでしょうね!」
蘭菜とそんなやり取りをしていると、全く話を聞いていないアルが私の後ろに乗ってきた。
「むん……硬いな」
「……か、勝手に一緒に乗らないでよ」
「乗っちまったしもういいだろ」
何か反論しようと思ったけど、アトラクションが動き始めたので諦めることにする。
背中にアルの体温を感じる。
アリスさんはいつもこんな風に、アルと馬に乗ってたのかしら?
「作り物だと、やっぱつまらないな」
「本物の馬で走るのは、やっぱ気持良いの?」
「そうだな。 風が気持ち良いんだ」
「ふぅん……」
本物の馬に、一度くらいは乗ってみたいわねぇ。
アルとそんな話をしながら、気が付いたらメリーゴーラウンドは止まっていた。
「ふふー、有栖とアル兄いい感じじゃん」
「あんたねぇ……」
相変わらず、私とアルをくっつけようとする蘭菜。
一体どうしてそこまで必死になるのかしらね。
私はアルとそういう風になるつもりは……。
その後も日が暮れるまで遊び倒した私達。
最後はお決まりの観覧車に乗って、帰ることにした。
こんな時間まで遊び呆けて、明日は久し振りの登校日だけど大丈夫かしら。
順番が回ってきてゴンドラに乗り込む。
私とアルが乗り込んだところで、ゴンドラの扉が閉じられた。
「しまった!? やられた!」
「お?」
外では、笑顔で手を振って私達を見送る蘭菜の姿があった。
観覧車なんて要警戒ポイントだったのに油断したわ。
「蘭菜の奴は乗らないのか」
「みたいねぇー」
本当に何を考えているんだか……。
もし仮に、万が一にでも私とアルが、こ、こ、恋人になったとしても、アルはいつか私の前から居なくなるじゃない?
そんなの、辛すぎる。
「ラーナもあんな風に、俺とアリスの節介ばかり焼いてたな」
「……へぇ」
やっぱり、似てるのね。
「って、気付いてたの? 蘭菜が私達を、その、あの……」
「まあ、何となくな」
意外だわ。 こいつ、そういう機微には疎い奴だと思ってたのに、実は人並みには察せるのね。
「無駄なのにね? アルはヴィエラザードのアリスさんが好きで、いつかは帰っちゃうのに」
「そうだなぁ」
肯定されて、少しだけ胸が痛んだ。
な、何でかしら?
「でもよ、この世界も結構好きだぜ?」
「へ?」
「良くわからん物が一杯あるし、面白い奴もいる。 有栖の飯は美味いし、バイトってのもまあ中々面白いしな」
「そうなんだ?」
「あぁ。 だからよ、もし向こうに戻れなくても、構わねーよ。 もちろん、戻れるのが一番だがな!」
「戻れるわよ。 私達がなんとかするわ」
すると、アルは少し真面目な顔をして、私を見つめた。
うわ、やばい。 かっこいい。
「ありがたいけど、無理だけはするなよな? お前には、俺達みたいな魔法の力があるわけじゃないんだ」
「わかってるわよ。 そっちの事は、アリスさんとラーナさんに任せるわ。 私は私の出来る事をやるだけよ」
「そうか」
そういうと、窓の外を向いてしまった。
夕陽に照らされるアルの顔を見て、少し思った事がある。
普段のバカなアルと、今の落ち着いているアルはどちらが素のアルなんだろうか?
今度、アリスさんと繋がった時にでも聞いてみよう。
観覧車から降りると、蘭菜が「キッスぐらいはしたのかね?」等と意味不明な事を聞いて来たけど、2人して無視してやった。
私とアルがそうなるのは、アルが向こうに戻れなかった時で良い。 そう思う事にした。
アルを見る目が、少しずつ変わっていく有栖。
戻してあげたい気持ちもあるのだが?




