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17.花火

8月も終盤。

有栖とアルは、夏祭りで店を出す藤宮書店の手伝いに駆り出された。

 もうすぐ、夏休みも終わりがやってくる8月末。

 私は夏期講習も終えて、ようやく一息……なんてことはなく、本日は夏祭りの準備中である。


 バイト先である藤宮書店は、毎年たい焼き屋台を出しているらしい。

 本屋とたい焼きに、何か関連性でもあるのかと訊ねたら──。


「ないよー。 何故か家にたい焼き器があるから丁度良いって事で」


 と、いうことらしい。

 私らがやる事は、餡やカスタードなどのタネ作り。

 本格的にお祭りが始まったら、たい焼きを焼きまくる。


「今年はお祭り回れそうにないわね」

「あー、大丈夫だよ。 兄さんや父さんもいるから、適当なとこでアル兄と回ってきなよ」

「ど、どうしてアルとなのよ?!」

「ふふふー、最近あんたがアル兄の事を意識してるの知ってんだからね?」

「は、はぁ?! してないから!」


 とんでもない事を言ってくれるわね。

 私がアルを意識って……。

 そりゃ、かっこいいし、強盗に人質にされて危なかった時も助けてくれたし?

 まあ、少しぐらいは……。


「はっ!」

「おやおや、これはこれは重症ですな」

「~っ」


 にゃはははは、頑張りたまえ、とか言いながら肩をポンッと叩かれた。


 

 ◆◇◆◇◆◇



「いらっしゃい! 藤宮書店特製のたい焼きだよ!」

「たい焼き2つください」

「あいよー」


 夕方になり、駅前はお祭りムード一色に染まっていた。

 蘭菜は、慣れた感じで客を捌いていく。

 結構な勢いで売れる為、生産が間に合わない。


「アル! カスタードのたい焼き焼いて」

「おーう」


 アルに手伝わせるのは怖かったが、中々どうして、しっかりと役割をこなしている。

 こっちの世界へ来て、色々教えてきたのは無駄では無かったようだ。

 この調子なら、将来は家事分担も出来そう……じゃないって!

 何をちょっと「将来は一戸建てに引っ越して」みたいな妄想してんのよ私は!

 頭の中では危うく、アルと私の子供まで登場するところであった。


「集中集中」


 今は、たい焼きを焼く事に集中する事で、乱れた心を落ち着かせる。


「有栖、餡子2つ!」

「はーい!」


 蘭菜からオーダーを聞いて、袋に詰める。


「はい、餡子2つお待ちー」


 本屋の方もこれぐらい繁盛すれば良いのに、と思ったが、敢えては口にしなかった。


 ある程度、客を捌いて落ち着いたところで、蘭菜から「今は落ち着いてるから、少しお祭り回って来なー」と言われたので、持ち場を蘭菜のお兄さん任せてありがたく祭りを楽しむことにした。



 ◆◇◆◇◆◇



「ヴィエラザードには、こういうお祭り事とかあった?」

「あったぞ。 メティル村は小さな村だったが、こういうのやってたぜ」


 なるほど、どこの世界でもあるものなのかしらね?


「なぁ、アリスは元気なんだよな?」

「あー、最近夢を見てないからなんとも言えないけど……見たらちゃんと報告するから」


 とは言え、見ても忘れている可能性がある。

 今度夢を見たら、また指にでも切り傷を付けてもらえば良いのかしら?


「今はラルフェに滞在してるんだったか……」

「アル……」


 そうだ。 アルはヴィエラザードに帰さないといけない。

 何私は「アルとの将来」なんて夢見てるのかしら。


「大丈夫よ。 向こうでも調べてくれてるんだから、すぐに帰れるわよ」

「そうだよな」

「ええ」


 今は、アルをヴィエラザードのアリスさんの所へ帰す事が大事なのだ。

 アルを好きになってはいけない。 きっと後で悲しくなるだけだから。


「おい有栖、下がれ」


 と、急に止められてしまう。

 久し振りにそのフレーズを聞いた。


「獅子の頭に竜の体……合成獣か! この世界にも、こんな危険な生物を作り出す研究をしている奴が!」


 あー、キメラってやつね。

 まあ、研究してる人はいるかもしれないけど、あれは違うわ。


「アル、あれは獅子舞よ」

「……シシマイって魔物か」

「いや、魔物じゃなくて被り物」

「被り……そうか」

「くすっ」

「ど、どうした?」

「別に。 最近このやり取りが無かったなぁと思ってね」

「そういえばそうだな。 少しはこの世界の事がわかってきたって事だな」

「なーにを言ってるのよ? アルが知ってる事なんて、この世界の事のほんの一つまみぐらいよ」

「何だと!?」

「世界は広いのよー? 私だって、この世界の事はほんの少ししか知らないもの」

「……そう言われてみれば、俺もヴィエラザードの事を全て知ってるわけじゃないな」

「でしょ?」


 何というか、誰かとこうやってお祭りを回るのがこんなに楽しいとは思わなかったわね。


「アル、お腹空いたし何か食べましょ」

「おう。 さっきから良い匂いがそこら中からしてるからな! 俺も腹減ってたんだ」


 私達は、その辺にあった焼きそば屋台で焼きそばを買って、隣に置かれた長椅子に並んで座り食べ始めた。


「美味いな!」

「そうねぇ」


 まあ、何処にでもある焼きそばだけどね。

 何故かこういうとこで食べると美味しいのよね。


 ヒュー……バンッ!


「あら」

「敵襲か!」


 あー、信号弾と間違えてるのかしら?


「あれは花火よ花火。 ヴィエラザードには無かったの?」

「ハナビ? あったような気がするな」

「何で覚えてないのよ……」


 そういえば、興味の無い事はすぐに忘れるってアリスさんも言ってたわね。

 なるほど、花火には興味無いのか。 こんなに綺麗なのに。


「綺麗ねー」

「そうか? うるさくてかなわんが」

「うわ、雰囲気ぶち壊しね」


 アルとは甘い雰囲気とかには絶対なれそうにないわね。

 アリスさんも苦労してたんだろうなぁ。

 

「はぁ。 これ食べたら蘭菜の所に戻るわよー」

「ん、おう」


 私は打ち上がる花火を見ながら、少し冷めてしまった焼きそばをゆっくりと食べた。



 ◆◇◆◇◆◇



「おー、おかえりー!」

「ただいま」


 蘭菜のたい焼き屋台はどうやら完売したのか、札が掛かっており、屋台を仕舞い始めていた。

 それを手伝いながら、蘭菜と会話する。


「どうだったよー、アル兄とは?」

「どうも何もないわよー」

「何でさ? 花火だよ花火? 良い雰囲気になれそうじゃないさー?」

「うるさくてかなわないそうよ」

「うわちゃー、アル兄ダメじゃん!」

「何がだ?」


 アルに説教を始める蘭菜を横目に、片付けを進めることにした。

 

「あの、騒がしいから他の所行ってくれないかしら」

「よーし、アル兄行くよ! 女の子の扱い方を教えてやるー」

「いや、別にいいんだがー」


 アルは蘭菜に引っ張られて、何処かへ消えてしまった。

 蘭菜は本当に騒がしい子ねー。

 そう言えば、ラーナさんが、頭の中で騒いでうるさいみたいな事言ってたわね。

 蘭菜も、夢の中の事を思い出せたら良いのに。


 屋台を片付ける頃には、花火も終わっていた。

 もう少し、ゆっくり見たかったけど仕方ないかぁ。

 蘭菜とアルは何処で何してんのかしら?

 まだ帰ってこないあたり、2人で祭りを回ってるのかしら?


「まあ、その内帰ってくるか」


 私は手持ちぶさたになったので、書店のレジに座り、2人が金魚やらヨーヨーを持って帰って来るまでの間、ラノベを読み耽るのだった。


それなりに夏祭りを楽しんだ有栖。

もうすぐ夏休みも終わりだが?

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