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GUN・ACT!(ガン・アクト)‐武装アイドル神岡陽子の活動記録‐  作者: 鳥羽輝人
第十六話

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「廃墟の舞踏会」(3)

「よし。もうすぐ着くぞ」


 運転席の長坂が言った。

 陽子を乗せたレクサスが出発して十五分後、長坂達もその後を追って出発していた。

 ヴァーグナーは幹線道路を選んで単純なルートで車を走らせた為、すぐに行き先は判明した。

 四人は戦闘服とボディーアーマーに予備マガジンや手榴弾、コンバットナイフ等の装備を身に着けていた。


「AKMか。アサルトライフルを使うのは久し振りだな」


 後部座席でライフルケースを抱えながら、近江が言った。

 世界のあらゆる紛争地でその姿を見ることができ、「史上最も多くの人を殺した銃」とも呼ばれる旧ソ連製アサルトライフル、AK‐47。近江達の持つAKMはその改良型であり、軽量化と反動制御のし易さに成功したモデルである。

 プラスティックを多用したアサルトライフルが世界の主流となる中で、AKシリーズは基本設計が古いことからその外見も古めかしい。しかし、その頑丈さと信頼性は最高クラスのものである。


「俺の軍刀も忘れないでくれよ、大ちゃん」


 ハンドルを握りながら長坂が口を尖らせる。

 長坂の軍刀は武井が税関の目をごまかして持ち込んだ内の一振りで、日本陸軍が大陸に残していったものだった。


「言っちゃ悪いが、俺はまだそいつに助けてもらったことはないぜ」


 近江が反論すると、長坂は苦笑を浮かべた。

「一応こんなのも持ってきたけど……弾数も少ないし、使わないに越したことはないわねぇ」


 プチサイズのバタークッキーを右手でひょい、と口に放り込み、ユミが呟く。左手には円筒状の物体を収めた大きな布袋を抱えていた。


「まさか、そんなものがあるなんて俺は知らなかったぞ」


 近江は目を丸くしてユミの顔を覗き込んだ。


「……ヒデちゃんの軍刀と同じよ。これも武井さんのお土産。軽機関銃程度なら警察のお目こぼしがもらえるでしょうけど、さすがにこれは……ねぇ。社長と相談して、地下の武器庫に隠しておいたの」


 小さくため息をついた後で、ユミは少しだけ不愉快そうに言った。

 ユミは眼鏡を外している。彼女が普段かけているのは伊達眼鏡だった。


「そうだな。俺達の任務は常に隠密行動だ。火力戦じゃねえ」


 長坂が同意して頷きかけたその時、ポケットの携帯電話が着信を知らせた。


「ん……電話だ。アンドレ、出てくれ」


 アンドレは無言で頷き、長坂から携帯電話を受け取った。番号は非通知だった。


「もしもし」

「こんばんは。夜分遅く恐れ入ります。私、ペンタメローネのブランカと申します。長坂様でいらっしゃいますか?」


 ブランカの丁寧な口調にアンドレは戸惑いの表情を浮かべた。


「こんばんは。私は長坂の同僚のアンドレと申します。私でよろしければご用件を承りますが、よろしいでしょうか?」


 まるで張り合うように、アンドレも丁寧な口調で応えた。


「それでは単刀直入に申し上げます。果たし合いの邪魔をなさらないでほしいのです。どうかこの場よりお引き取りを」


 アンドレは表情を険しくしながら口を開いた。


「何のことですか?」

「おとぼけにならなくとも結構ですよ。あなた方の車はこちらからも見えています。工場の敷地内にお入りになるなら我々は攻撃を開始します。どうぞご理解ください」


 アンドレがなおも話そうと口を開くのと同時に、近江が手を伸ばして携帯電話を奪い取った。


「生意気な口、利きやがって! 俺達は必ず仲間を連れて帰る。覚悟しとけ!」


 近江は通話を切り、アンドレに携帯電話を手渡した。


「もぉっ。短気なんだからっ」


 そう言ってユミは残りのクッキーが入った細長い袋を上着の内ポケットにしまった。近江はユミの言葉を何ら意に介さず、三人に指示を出した。


「まずはポジションからだ。アンドレはリコン(斥候)、俺はセカンドアタッカーとして前方を進む。ヒデとユミは援護を頼む。今回はコードネームを使わず、普段の呼び名を使うぞ」

「了解!」


 長坂達は声を合わせて返答した。


 長坂達を乗せたBMWは草原に挟まれた一本道を直進していた。


「工場の敷地に入る前に降車、フェンスを乗り越えて内部へ侵入する。アンドレ、地雷やトラップには十分注意しろ。ヒデとユミはその間、周辺の警戒を怠るなよ」

「了解!」


 再び三人の声が揃う。

 次第に工場の入口が近づいて来る。廃工場のはずなのに、明かりがついているのが見えた。


「ヒデ、もういいだろう。車を草原に隠して工場へ入ろう。みんな、準備はいいな」

「りょうか――」


 返事をしようとしたところで、長坂は何かが前方で光るのを見た。


「RPG!」


 アンドレが叫んだ。


「くッッ!」


 長坂は右に急ハンドルを切り、飛来するロケット弾の命中を間一髪で回避した。

 BMWは草原に突っ込み、横に一回転してから再び四本のタイヤで地面を踏んだ。背後ではロケット弾が地面に着弾し、爆発して草原を燃やしていた。

 RPG‐7――旧ソ連製の携行対戦車無反動砲であり、その威力と軽便さからAKと共に世界の紛争地で使用されている兵器だ。まともに命中すれば、防弾仕様であっても乗用車などひとたまりもない。


「武器を持って降車!」


 近江の号令と共に、長坂達は三半規管を必死で制御しながら武器を手に車を降りた。そして次の瞬間、再び前方で光が見えた。


「全員、伏せろ!」


 全員が地面に伏せるのと同じタイミングでロケット弾がBMWに命中、一瞬で大破させた。


「くそっ、俺達の大事な社用車を……!」


 長坂が拳を握り締める。


「散開しながら接近する! 警戒を怠るな!」


 アンドレを先頭に、四人は草の陰に隠れながら前進を開始した。


「うふふふ。まさか、今のでやられたわけがないわよねぇ?」


 ベアトリスは工場入口にある監視所の屋根に寝そべりながら、唇を舐めた。


「ベアトリス、聞こえる? 一旦、退って。お客さんを敷地内に引き込んでから叩こうよ」


 携帯無線機から聞こえてきたのはアズリの声だった。


「分かったわ。陣地戦だなんて久しぶりでドキドキするわね」


 ベアトリスは不敵に笑う。

 そして重量七キロもの発射機を手に、予備の弾薬を背中に装着したまま、音も立てずに屋根から地面へと着地した。




 ロケット弾の炸裂音と自動車の爆発音は当然、建物の中にも聞こえていた。


「…………!」


 陽子が音に反応し、一瞬身体を強張らせる。


「よそ見をしていていいのか?」


 その声と共に、なつきの放った九ミリ弾が身体をかすめる。かわした九ミリ弾が放置された機械に跳ね返り、今度は足元をかすめた。

 陽子は奥歯を噛み締めながら三連射し、円を描くようになつきの周囲を走り始めた。


「今の音は……?」


 足場の上で正通が不安げに呟く。


「君のお仲間だろう。GPS機能くらい、どの携帯電話にもついてる。位置確認機能を使って君と神岡君の居場所を特定されることは想定していたからね。今頃は僕の仲間が皆さんを歓迎しているところだよ」


 香苗は正通の顎にそっと手を触れ、こともなげに言い放った。


「……あなた達も処刑人だろう! なんでこうして、潰し合う必要があるんだ!」


 正通は香苗の手から逃れ、声を荒げた。


「クオーレはいずれ、この国の治安を影の世界から取り締まる存在になる。ここで戦わなくても、遅かれ早かれ戦う運命にあったんだよ」

「そんな……」


 絶句する正通。香苗はふと真剣な表情になった。


「しかし、ボスの命令で君達を殺すよりは、その前に自分の意志で、君達と戦いたいとなつきが言った。だからこれは、僕達にできる精いっぱいのことだったんだ」

「ボス……真鍋公次、社長……」


 正通が呟くと、香苗は静かに頷いた。


「ボスは素晴らしい人だ。元々傭兵部隊を率いていたボスは世界の紛争地を旅して、僕達のような親を亡くした子供を救ってくれた。僕はスーダン、ベアトリスはコロンビア、ブランカはセルビア、アズリはアフガン。なつきの出身は日本だけどね。そして才能があると見れば、僕達のように専門の教育を施してくれた。ボスがいなければ……今の僕達は存在しない。僕は……いや」


 香苗は言葉を濁し、再び階下に目を落とした。


 階下では、陽子の放った弾丸をなつきが華麗な動きでかわしていた。

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