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男女比1:100の貞操逆転大学で、護衛係の美少女たちが僕を"管理"してくる 〜みんなお仕事だから優しいんだと思ってました〜  作者: 大家阿半
第1巻 第2章 白鷺寮のルール

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第7話 第三十八ハウス

午前八時四十分。


湊は四人に囲まれて白鷺寮を出た。



先頭は玲奈。


右隣の半歩うしろにはつつましく付き従うひなた。


左隣には周囲をぎろりと睨みつける芽衣。


三歩うしろにはファイルを抱えた紗雪。



森を抜けて並木道に出ると女子学生の群れがざあっと左右に割れた。



「来ましたわ第三十八ハウスの……」


「本当に護衛係を四人ともお連れになってる……」



ふと右の袖が小さく引かれた。


ひなたの白い指先が湊のジャケットの袖口をほんの少しだけつまんでいる。



「七瀬ひなた。身体接触は危険回避時のみ」


「袖でございます先輩。お身体には触れておりません」



ひなたは背伸びをして湊の耳もとで囁いた。



「みーくん、ガチガチだよ。……大丈夫。わたしがついてるから」



湊は少しだけ身をかがめて同じくらいの声で返した。



「……ありがとうひなたちゃん」



耳のすぐそばで鳴った低い声。



ひなたの足がその場で止まりかけた。



(……っ)



十年前に知っていたのはもっと高い男の子の声だった。



囁くのは得意なのに囁き返されると何ひとつ返せなくなる。



「七瀬ひなた。歩幅が乱れています」


「……失礼、いたしました」



ひなたは袖をつまむ指に力をこめてなんとか歩き出した。



囁くたびにつまんだ袖をきゅっきゅっと二回引く。


小さいころ「こっちだよ」と湊を呼ぶときのひなただけの合図だった。



それを見た芽衣がむっと口をとがらせる。


少し迷ってから湊の左の袖を指先でちょんとつまんだ。



「……べ、べつに張り合ってるとかじゃないし。はぐれたら危ないし」



    *



第三十八ハウスの教室は講義棟の三階にあった。



そこは教室というより小さな講堂だった。



ハウスの女子学生は一年生から四年生まで全部で百四人。


講義は学年ごとに受けるけれど、朝のホームルームと行事と清掃はハウス全員で行う。



前の三列には一段高い長机が並んでいた。


そこに座っているのは十九人だけ。



上席――ハウス会議の議決権を持つ評議席の面々だった。



湊が扉を開けた瞬間、百四人の視線が一斉に突き刺さった。



そして。



「結城様ぁぁぁ!」



「今月のお世話係、ぜひわたくしを!」


「わたくし家事全般、完璧でございます!」


「うちの家、補助金が出れば兄の留学が……!」


「あたくしを指名しないなんてあり得ませんことよ!」



押し寄せてきたのは前列の上席の面々だった。



うしろの一般ハウス生たちは席を立たなかった。


立てなかったというほうが近いのかもしれない。



遠くからじっとこちらを見ているだけだった。



「ひゃっ……!」



湊が思わず後ずさったその瞬間。



「――はい、ストップ」



湊の前に金色のポニーテールが割りこんだ。



芽衣が両腕を広げて仁王立ちになっている。



「一人ずつ並べって。結城が困ってんでしょ」


「護衛係の方はお黙りになって! お世話係の指名はハウス生の権利ですわ!」


「権利はいいけど押すなって言ってんの。コイツ、ぽやぽやだから押されたら普通に転ぶから」



芽衣の反対側にはひなたがすっと立った。



「皆さま、お気持ちはよく分かります。わたくしもこの第三十八ハウスの一員でございますから」



ひなたはにこやかに微笑む。



「ですからどうか順番に。……湊さんに怪我などさせたくありませんので」



穏やかな声なのに押し寄せていた女子学生たちの足がなぜかぴたりと止まった。



うしろでは玲奈がノートを開いて淡々と読み上げていた。



「保護規定第二十一条。お世話係の立候補は書面にて自治会経由で提出。口頭での直接要求は立候補資格の一時停止対象です」



教室がしんと静まる。



紗雪はファイルに何かを書きこみながらはんなりと微笑んだ。



「まあ、ずいぶんな人気ですね。……ではうちもあとで書面を出しておこうかしら」


「九条先輩は第二十二ハウスでございますよね?」


「お世話係はどのハウスからでも指名していただけますよ。七瀬さん」



ひなたの笑顔がぴしりと固まった。



湊は四人の背中に守られながらぺこりと頭を下げた。



「あ、あの……皆さん、ありがとうございます。僕なんかのためにこんなに」



それから上席の並ぶ前列ではなく教室のいちばんうしろまで見渡して、もう一度深く頭を下げた。



「それとごめんなさい。まだ誰のこともよく知らないので……ちゃんと皆さんとお話ししてから考えさせてください」



教室がしんと静まった。



「……殿方がわたくしたちに頭を……?」


「お話ししてから……?」



ざわめいたのは前列よりうしろの席のほうだった。



「今、こちらを見ませんでした?」


「上席の方だけでなく……?」



ハウスの女子学生たちはぽかんと湊を見つめていた。



その中で窓際のいちばんうしろの席に座っていた女子学生だけが、手もとのノートに何かを小さく書きとめていた。



    *



昼休み。


四人がけのテーブルでひなたが桜色の包みのお弁当箱を開けた。



小さなハンバーグ。


甘い卵焼き。


たこの形に切ったウインナー。



「わあ……全部、僕の好きなものだ」


「……ご迷惑でなければ召し上がってくださいませ」



ひなたは頬を染めて控えめに差し出した。


テーブルの下で湊の靴のつま先を自分のつま先でちょんとつつく。



その向かいで芽衣がコンビニの袋からおにぎりを三つ取り出した。



「……アタシはこれ」



芽衣はぷいっと顔をそらした。



「朝、あんな焦がしたし。……べつに手作りが悔しいとかじゃないし」



湊は芽衣のおにぎりを一つ受け取った。



「ありがとう。僕、このツナマヨ好きなんだ。……前にお店に来てくれたときもいつもこれ買ってたよね」



芽衣の耳がぼっと赤くなった。



「……っ、覚えてたの」


「うん。いつも稽古の帰りだったよね」



芽衣は何も言えなくなった。


おにぎりの包装を意味もなく何度も握りしめている。



ひなたの笑顔がぴしりと音を立てた。



(……お店?)



紗雪のペンが止まった。



(……稽古の帰り?)



    *



――榊芽衣は「女の子」として扱われたことが一度もなかった。



芽衣の家は代々、名家の殿方を警護する武道家の家系だ。


物心ついたときから拳を握って育った。



高校三年の春、実家の仕事で名家の殿方の警護についた。



彼は礼儀正しい人だった。


そして最初の日に警護の女性たちを集めてこう言った。



――君たちの名前は覚えない。名前を覚えれば情が移る。君たちが俺をかばって怪我をしたとき俺は冷静でいられなくなる。


――だから君たちは盾だ。俺もそう扱う。



それが彼なりの誠実さだと芽衣にも分かった。



それでも半年間、一度も名前を呼ばれなかった。


腕にあざを作ってもそれは盾の傷でしかなかった。



その頃、芽衣は稽古の帰りに駅裏の小さな弁当屋に通っていた。


いつもツナマヨのおにぎりを一つだけ買う無愛想な客だった。



ある雨の日、「みなちゃん」という名札をつけたレジの女の子が芽衣の腕のあざを見て目を丸くした。



――それ痛くないですか?


――女の子なんだから無理しちゃだめですよ。



そう言って頼んでもいない唐揚げを一個袋に入れてくれた。



「女の子なんだから」。


生まれて初めて言われた言葉だった。



同い年くらいのびっくりするほど可愛い女の子だった。


だから女の子同士のただの気づかいだと思っていた。



その「みなちゃん」が本当は男の子だったと知ったのは白鷺寮の玄関先でのことだ。



男の子に女の子扱いされた。


そう気づいた夜、芽衣は一睡もできなかった。



(ほかの男にとってアタシは盾でいい)



芽衣はおにぎりの包装をぎゅっと握りしめた。



(でもアイツだけは……アタシのこと女の子にしてくれたんだから)



だから今度はアタシが守る。


盾としてじゃなくて。


アタシとして。



(……ほかの三人に渡してたまるか)


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