↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男女比1:100の貞操逆転大学で、護衛係の美少女たちが僕を"管理"してくる 〜みんなお仕事だから優しいんだと思ってました〜  作者: 大家阿半
第1巻 第3章 ベンチの端

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/18

第11話 十二分間の空白

通用口からロビーに戻った瞬間、湊は正面から何かにぶつかった。



「っ……!」



金色のポニーテールが湊の胸に顔をうずめていた。



「……芽衣さん?」



芽衣は湊のジャケットを両手で握りしめて肩で息をしていた。



「……動くなって言ったじゃん」



顔を上げないままかすれた声がした。



「アタシ三分って言ったじゃん。なんでいなくなんの」



「ご、ごめんなさい。ロビーで人が集まってきちゃって」



「そんなのアタシに電話すればいいじゃん! 一秒で戻るって言ったじゃん!」



「三分って言ってました」



「今それ言う!?」



芽衣がばっと顔を上げた。



猫みたいなつり目の縁が赤くなっていた。



「……アンタに何かあったらアタシどうすればいいの」



湊は何も言えなくなった。



ほんの十二分。



湊にとっては一息ついただけの時間。



でもこの子にとってはきっとものすごく長い十二分だった。



「ごめんね芽衣さん。心配かけて」



湊はそっと芽衣の頭に手を乗せた。



「探しに来てくれてありがとう」



芽衣の動きがぴたりと止まった。



数秒。



それから芽衣の顔が耳の先から首まで一気に真っ赤になった。



「…………な、なでんなし」



「あ、ごめん」



「……やめろとは言ってない」



「え」



「言ってないけど、なでんなし」



「どっちですか」



「知らない!」



芽衣は湊の手を振り払わなかった。



むしろほんの少しだけ頭を手のひらのほうへ押しつけていた。



ロビーの柱の陰でさっきの女子学生たちが息をのむ気配がした。



「……あと、さっき芽衣さんって呼んだ」



「え、あ、はい。榊さん、のほうがよかったですか」



「……べつに。どっちでも」



「じゃあ芽衣さんで」



「……っ、次やったらマジで手錠つけるから」



「手錠はちょっと」



「つけるから!」



    *



その日の夕方。



白鷺寮のリビングには重たい空気が流れていた。



「午後二時四十一分から二時五十三分まで。十二分間」



玲奈が端末を長机の上に置いた。



湊の位置情報の履歴。



北棟ロビーから裏手へ。



そして十二分間ほとんど同じ場所から動いていない。



「この十二分間どこで何をしていましたか」



「北棟の裏で少し休んでました」



「北棟裏庭。監視カメラ未設置区域です」



「……はい」



「誰かと会いましたか」



湊は、ポケットの中の水色のキャンディを思い出した。



――誰にも言わない。



「……ベンチで少しぼーっとしてただけです」



玲奈はしばらく湊の顔を見つめていた。



「ぼーっと」



「ぼーっと」



「十二分間」



「十二分間」



「……記録します。北棟裏庭。休憩。十二分」



「会長」



ソファからひなたが静かに口を開いた。



「わたくしの基礎演習の教室から、北棟の裏手が少しだけ見えるのですけれど。……ベンチに灰色がかった髪の方がいらしたような気がいたします」



湊の肩が跳ねた。



ひなたは湊のほうを見ずに、にこやかに微笑んでいた。



「気のせいかもしれませんけれど」



「ひなたちゃん、それ気のせいって言う気ないよね」



「まあ。みーく……湊さんったら」



呼び方が途中でぶつかって、ひなたの笑顔が一瞬だけ固まった。



それを見ていた芽衣が小さく鼻を鳴らした。



紗雪がファイルをめくった。



「アッシュグレーのウルフカット。院生の久遠千景さんでしょうか。第三十八ハウスのゼミのTAの方です」



「九条さん、なんで知ってるんですか」



「湊さんに関わる可能性のある方は、全員調べてありますので」



「全員……」



「久遠さんは研究熱心でもなく社交的でもなく、どなたとも深く関わらない方です。湊さんに近づく理由が見当たりません」



「近づいてきたわけじゃなくて。僕が勝手に行っただけです。久遠さんはずっと寝てました」



「寝ていた」



「寝てました」



「十二分間」



「……十二分間」



玲奈と紗雪が同時にペンを動かした。



芽衣がソファの上で膝を抱えたままぼそっと言った。



「……アタシがちゃんと見てたら、そんなとこ行かなかったのに」



「芽衣さんのせいじゃないよ」



「アタシのせいだし」



「違うって」



「違わないし」



玲奈がぱたんとノートを閉じた。



「今回の件は榊芽衣の単独護衛体制の不備として処理します。明日以降三限は私が法学部の必修を――」



「会長。それはあきまへん」



紗雪の口からぽろりと京都弁がこぼれた。



紗雪はすぐに口もとを押さえた。



「……失礼しました。会長が必修をお休みになったら、自治会長のお立場に関わります。三限はうちがゼミを調整します」



「わたくしも基礎演習の曜日を変更できるか確認いたします」



「アタシはもうぜったい離れないし」



「皆さん、あの僕の三限の話ですよね……?」



「湊さんは黙っていてくださいませ」



「結城は黙ってて」



「対象は発言を控えてください」



「湊さんはお茶を飲んでいてください」



四人の声が重なった。



湊はおとなしく紗雪が淹れてくれたお茶を飲んだ。



おいしかった。



それが余計に居心地を悪くした。



    *



その夜。



湊が部屋に戻ったあとリビングに四人が残った。



「……さっきの『みーく』はなんですか」



最初に口を開いたのは玲奈だった。



「何のことでございましょう」



「湊さん、を言い直す前の三文字です」



「会長の聞き間違いかと存じます」



「私は聞き間違えません。記録もしました」



「まあ。記録を見せていただけますか」



「規約上開示できません」



「それではなかったのと同じでございますね」



ひなたは笑顔のまま首をかしげた。



玲奈は眼鏡を押し上げて何も言い返さなかった。



芽衣がソファの肘掛けを指でとんとん叩いた。



「……ていうかさ。今日のアレ、アタシが悪いのは分かってるけど」



「悪いとは申しておりません」



「言ってる顔してた」



「わたくしはいつもこの顔でございます」



「それが怖いんだって」



紗雪がファイルの陰で小さく息をついた。



「皆さん。湊さんが聞いたら困らはりますよ」



「……九条さんも今困らはりますって言った」



「言うてません」



「言った!」



四人が一斉に黙った。



二階から湊が部屋の中を歩く足音がした。



四人は同時に天井を見上げて、同時に声を小さくした。



そこだけは息がぴったり合っていた。



    *



少ししてひなたが自分の端末を長机に置いた。



「……皆さま。こちらをご覧いただけますか」



画面には学内の非公式掲示板が表示されていた。



『【白鷺を見守る会】第三十八ハウス・結城湊様の本日の目撃情報』



『三限後北棟ロビーにてお一人でベンチに腰かける姿を確認。尊い』



『護衛係の榊芽衣さんに頭を撫でられて(※撫でていた)いらっしゃいました』



『会員番号0027より:明日の一限の座席情報を共有します』



会員数、三百十二人。



「……は?」



芽衣が端末をひったくった。



「なにこれキモ。ってかアタシが撫でたんじゃなくて撫でられたんだし! 訂正しろし!」



「榊さん。論点はそこではございません」



「そこも論点だし!」



ひなたが指先で画面をスクロールした。



もうひとつのリンク。



学内配信サイトのアーカイブ動画。



『【検証】第三十八ハウスの噂の奨学生くん、ほんとに女子にしゃがむの?【天城ここね】』



再生数、四万。



サムネイルには入学式の朝に並木道で本を拾う湊の横顔が、遠くから切り取られていた。



「白鷺を見守る会。会長は匿名です。発足は入学式の翌日。……たった二日で三百人」



「天城ここねさん。四年生の配信者ですね。登録者数、八十万人」



玲奈は黙って画面を見つめていた。



「……会長?」



「護衛体制を見直します」



静かな声だった。



「今日の十二分間は始まりにすぎません」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。