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第4話:正直すぎますわよ、殿下

 国王陛下の威厳に満ちた問いかけが、大広間の天井にまで届くかのように重く響き渡った。大階段の麓に立つジュリアン殿下は、蒼白な顔を歪めながら必死に首を振った。


 彼は自分の口を硬く結び、絶対に言葉を漏らすまいと両手で必死に覆った。しかし、広間全体を包み込む審問呪の淡い光が、容赦なく彼の全身を縛り上げる。

 ジュリアン殿下の喉が激しく震え、押し殺した悲鳴のような声がその隙間から漏れ出した。


「い、いいえ! 私は……私はそのような……!」


 否定しようとした瞬間、彼の表情が苦痛に歪んだ。

 魂を内側から灼かれるような痛みに耐えかねたジュリアン殿下は、ついに自らの手を弾くように退けた。


「4日前の夜! 青の小広間で相談いたしました! リディアを目立つ階段で転ばせ、ヴィオレッタを犯人として仕立て上げようと申し合わせたのです!」


 あまりにも明確な自白が、息を呑む大広間に容赦なく響いた。貴族たちから驚愕の悲鳴が上がり、王宮の重臣たちがざわめき始める。


 だが、王の問いに対する答えはそれだけでは終わらなかった。審問呪は問いの真実を完全に吐き出させるまで、術者を逃がさない。


 青の小広間は、王族が親しい客と人目を避けて話すために使う部屋だった。私が足を踏み入れたことは一度もない。4日前、ジュリアン殿下は急な政務が入ったとして私との夕食を取りやめていた。その時間に話し合われていたのが、私を階段から追い落とす方法だったのである。


 祝宴の直前に私の侍女が呼び出されたことも、受け止める従僕が配置されていたことも、偶然では済まされなくなった。ジュリアン殿下の口から日付と場所が出たことで、ばらばらだった違和感が同じ企てへ繋がっていく。


 聞き違える余地はなかった。


「なぜそのような企てをしたのだ!」


 国王陛下が怒りを押し殺した声で追及を重ねた。


「傷害罪という明確な非をヴィオレッタへ着せれば、王家側からの婚約解消であっても違約金を支払わずに済むからです! それどころか、ロシュフォール家が持ち込んだ膨大な持参金の一部を、損害賠償の名目で王家へ残留させることができると考えました!」


 ジュリアン殿下は叫ぶように答えた。

 彼自身の意思とは裏腹に、極めて論理的で卑劣な計算がそのまま公にされていく。

 彼は必死に己の口を叩き、言葉を止めようとしたが、喉の熱は収まらない。


 国王陛下の眉間の皺が一段と深くなった。

 国の頂点に立つ者は、息子の醜悪な企みに怒りを通り越して冷徹な眼差しを向けた。


「……では、バリエ男爵令嬢との不貞関係についても問う。いつから、どのような関係にあったのだ」


「4か月前からです! 毎週火曜日の午後に青の小広間で、木曜日の夜には旧礼拝堂の物置で密会を重ねておりました! 先月には北の離れを使い、先々週には王家の葡萄園を視察すると称して離宮へ2泊いたしました!」


 ジュリアン殿下の口から、詳細すぎる密会の日時と場所が次々と暴露されていく。

 周りにいる貴族たちの中には、あまりの生々しさに扇子で顔を覆う婦人たちや、呆れ果てて額を押さえる高官たちの姿があった。


「さらに……さらに、先月のヴィオレッタの誕生日に贈るため用意していた真珠の首飾りも、リディアにおねだりされて渡してしまいました!」


 その言葉を聞いた瞬間、私の胸の中で長年の小さな疑問が綺麗に解けた。

 先月の私の誕生日の際、王家からは形式的な花束一つしか届かず、婚約者からの個人的な贈り物は何もなかったのだ。


 ジュリアン殿下からは後日「手配が遅れている」と言い訳されていたが、実際には他の女性の胸元を飾っていたらしい。


 国王陛下の視線が、さらに険しさを増した。


「待て。葡萄園視察の離宮滞在、そして真珠の首飾り……それらの費用や物品は、一体どのように処理したのだ」


「葡萄園視察の際の酒食費は外国使節の接遇費から! 離宮の豪華な宿泊費用は北西河川の治水視察費の名目で処理いたしました! 真珠の首飾りは、将来の王子妃用装身具費として公費で購入した伝票を回しました!」


 その瞬間、大広間の前列に控えていた王宮会計官が「ひっ」と短い悲鳴を上げ、膝から床へ崩れ落ちた。


 私も王子妃教育の中で、接遇費や視察費の扱いを学んできた。使途を証明する書類が一枚欠けただけでも、担当者と理由を確かめるよう厳しく教えられている。婚約者である私はその規律を守るために何度も書類を整え、ジュリアン殿下は裏で同じ規律を自分の楽しみのために曲げていた。


 列席していた者たちの顔から、浮気話を聞く時の好奇心が消えていた。接遇費も治水視察費も、王子が恋人へ気前よく振る舞うための財布ではない。領地を預かる者ほど、その告白が誰の負担へ繋がるか理解しているのだろう。


 広間を包む空気が一変した。


 これはもはや、若い男女の情けない浮気劇や恋愛上の裏切りというレベルを超えていた。

 王家の公金を私的に流用し、国家の予算を偽造書類で誤魔化していたという、重大な財政犯罪の発覚だった。


 ジュリアン殿下は両手で自らの口を強く押さえ、涙目になりながら首を激しく横に振っていた。

 これ以上一言も喋りたくないという必死の抵抗だったが、審問呪の光は容赦なく彼を苛み、真実をすべて吐き出させるまで許さない。


 私は大階段の上から、その無残な姿を静かに見下ろしていた。

 私を冤罪で陥れようとした婚約者の自滅劇に対し、悲しみや怒りよりも先に、深い呆れが胸を満たしていく。


 ――正直すぎますわよ、殿下。


 心の中でそう呟かざるを得なかった。

 隠しておきたかったであろう最悪の秘密を、自らの口でこれでもかと暴露していく姿は、哀れを通り越して失笑すら誘う代物だった。


 その時、大階段の途中で腰を押さえてうずくまっていたリディアが、顔を真っ赤にして叫び声を上げた。


「殿下が余計なことまでお話しになるから、私まで恥をかいております!」

お読みいただきありがとうございます!

面白かった、続きが気になる、と思っていただけましたら、評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。

次回も楽しんでいただけるよう頑張ります!

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