お義母様襲来④
「……はい」
「この子はね、繊細であまり人に懐かないの。触らせてもらえるとなると、私たち家族と、世話をする専属の侍女ぐらいのものね」
「そうなのですね」
なんて現実逃避気味に考えていると、ヒルデガルド様がトルニトルスくんを撫でつつ言う。
羨ましいとチラ見してしまいつつ観念して向き直る。
彼女、目だけこちらを向いているんだけどかなり鋭い。怖いです。
聞くところによるとやっぱりあのヨウムくんは警戒心高めなようだ。
そしてそんな警戒心を解きほぐすぐらい私の力は強いらしい。
「えぇ。それを一晩でなんて、一体あなたに何を感じたのかしら」
「……」
もちろんなぜこうなったのか、理由は分かっていた。
だが、今の私はその理由を知らないはずだから、ボロが出ないよう黙っておく。
視線を逸らし、首を傾げてすっとぼける。これしか思いつかなかった。
また、ヒルデガルド様の信じられないという様子から自分の力の強さをひしひしと感じる。
やっぱり感情を捻じ曲げてるみたいで気が引けるけど、その分色々気を付けようと思う。
力を持つ責任として出来る限り幸せにしなければならないと、改めて決意する。
身勝手に利用したりしないと気を引き締める。
彼らはすごく魔法が上手くて、兵器みたいに扱えてしまうからね。
だからセレスティーヌは、戦争を起こし、王国全土を侵略できたんだ。
「なんて、醜い嫉妬はこれくらいにしておきましょうか」
「え」
「セレスティーヌさん。これから言う事は他言無用にして欲しいのだけれど、大丈夫かしら」
「あ、はい。……ちなみにもし他言したら、どうなるのですか?」
「あまりひどい事はしないわ。ただ少し『口封じ』をさせてもらうだけ。そうするのが、私たちが王家に賜ったお役目だからね」
「……はい」
するとついに、話は「精霊」についての諸々へ移るようだった。
っていうか本当に口封じされることあるんだ……。怖いやつじゃないよね?まぁ他言しなければいいんだろうけどさ。
「では、なのだけど。実はトールは、普通の動物ではないの」
そして、彼女の口からアイゼンハルト家と、領地に隣接する広大な森の真実が語られ始める。
「というわけ。分かったかしら?」
「……なるほど。はい」
とはいえ、申し訳ない!知っているんですよね。きみたては全部のルートやったので。
実はこの世界には動物に似た姿をした「精霊」が存在して、彼らはこの街ヴェルドナと隣接する広大な森に棲んでいる。
アイゼンハルト家は彼らの存在が世間にバレないよう代々管理している。
語られたのは、そんなところだった。
たぶんもう少し色々と細かい事実はあるんだろうけど、流石にまだ彼女の口から教えては貰えないだろう。
「あまり驚いていないわね」
「い、いえ。驚いています。そういうのがあまり表に出ないというだけでして……」
「ふぅん……」
きっと驚く真似でもすれば猶更ボロが出てしまう。
代わりに緊張したような面持ちでいれば、ヒルデガルド様は訝しむ。
やっぱり鋭い。これはいつか、本当の事を話した方がいいかもしれない。
ただたぶん今では無い。もう少し信頼を得てからの方がいい気がする。
視線を合わせないようにしつつまた顔を逸らしてごまかす。
なんとかなってくれという気持ちを込めながら。
「まぁいいわ。それでねセレスティーヌさん。これは、もう少しあなたがこの家に慣れてからにしようと思っていたのだけど」
「は、はいっ」
願いが届いたのか、話は変わる。
「私たちの家の者はみんな、人生で少なくとも一度は精霊の森の奥に居る長老様と会うの」
「へ……。ということは……」
「えぇ。その長老様と会ってもらおうと思っています。ギルバートの結婚相手であることを報告するために。何より、あなたがなぜトールから好かれるのか、確認するためにね」
次いで告げられたのは、一気にストーリーが進みそうな話だった。
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