お義母様襲来③
「それではセレスティーヌさん。ここからが本題なのだけど」
「は、はい……」
「……でしたらお母様? 私はそろそろお暇しますわ」
「えぇ。あなた達も、カタリナと一緒に下がってちょうだい」
そしてついに顔合わせは終わり、事情聴取が始まるようだった。
残ったのはヒルデガルド様とトルニトルスくん、あと騎士の方だ。
「そうしたらまずは、昨日の事について教えて頂けるかしら?」
「……はい。ゆうべは、湯浴みを終えて自室へ戻った所、部屋のドアがノックされました。そして何だろうと思い開けてみたところ、そちらの方がいらっしゃったわけです」
「ふむ……」
私は促されるまま、正直に事の始まりを話していく。
ただ侍女が不在だったことは隠した。
初夜だったし気を使って下がったんだと思うからね。
むしろ居なかったからこそあの超絶プリティーなヨウムちゃんと出会えたとも言えるし。
ちなみに彼はやや空気が冷たいのを察しているのか、ソファの背もたれに留まって私たちの様子を交互に窺いつつも、静かに佇んでいた。お利口さんだ。
「それで?」
「えぇ。最初は驚いたのですが、その……。あまりに可愛くて……」
「へぇ?」
「挨拶していただいたので、思わずおしゃべりして、それで、許可を取ってお触りを……」
そして、続きも伝えた。
ただ喋っていると、自分の行動が如何に軽率だったか分かる。
だってこんなことがあったら誰かを呼ぶべきだ。
近くに使用人などが詰めている部屋があり、何かあれば声をかけてくれと言われてもいた。
喋る動物というのも、やっぱり普通じゃないと誰しもが思うはずだろう。
「喋れることに違和感は持たなかったの?」
「あ、えっと、それはその、やっぱりあまりに可愛くて……。何も考えられなかったと言いますか……」
「なるほどね」
案の定詰められる。
でも、可愛かったからさぁ……。骨抜きにされちゃったよね。
なので頭が全然働かなかった。トルニトルスくん、恐るべし。
とはいえ悪いのは全て私です。彼はただ、可愛すぎるだけ。
「トール。彼女の言ってることに嘘は無いわね?」
「ナイッ!ワタシッ。セレスティーヌッ。オトモダチッ」
「ありがとう。うん。なるほどね……」
「……」
ヒルデガルド様に話を振られておしゃべりするのもたまらない。
オトモダチという言葉に、こんな状況だけど少しニヤけてしまう。
というかもう名前を覚えてくれたのか。やっぱり賢い。IQ5億ぐらいかな?
思わず小さく手を振ったら、軽くだけど羽根を振り返してくれた。
真っすぐな瞳もこちらを見ている。少しまぶたが閉じていて優しい目つきだ。
あまりに懐いてるし、これなら怒られたりとかしないだろうか。
むしろ懐きすぎでやっぱり怪しいとか思われないことを祈る。
「ルパート。あなたはどう思う?」
「はい。率直に申し上げて、嘘をついているとか、トルニトルス様へ何か危害を加えようとしていた可能性は低いと思われますね」
「そう?」
傍らに立つ騎士へと質問が飛んだ。
ゴールデン・レトリバーのような金色の髪を短く揃えた男性は、ルパート・ベッカーと言うらしい。
まさしくゴールデン・レトリバーさながらに、先ほどからずっと柔和な笑みを浮かべている。
声色もトゲが全く無くてちょっと和む。
「えぇ。少なくとも私には、悪意は全く感じられませんでした」
「続けて」
「むしろ奥様はトール様を、大変その……。とても愛おしそうに撫でていらしたので、邪な気持ちがあったとは、私には思えません」
彼は纏う雰囲気や顔立ちも優しげだが、アイゼンハルト家騎士団の副団長だそうだ。
一見抜けていそうだが、言葉にはどこか説得力がある。
きっぱりとした言い方もあって猶更だ。
あと、とても素直かつ正直らしい。言葉を濁しつつも、ゆうべの私の様子を大変正確に喋った。
笑みを隠しきれない顔つきから私がトルニトルス君を、貴族の女性としては考えられないぐらいの様子で可愛がっていたと分かる。
これなら、本当にたまたま彼と会い、本当にただ可愛くて触れ合っていたと思ってもらえるかもしれない。
……というかすいませんねオブラートに包ませて。
やっと会えた感動と興奮で我を忘れてしまいましてね。
一応は隠そうとしてくれてありがとうございます。全然隠れてないけどね!
「ふむ……。ありがとうルパート。では、先ほど伝えたことの準備をお願いね」
「かしこまりました。では失礼いたします。ヒルデガルド様。奥様」
「えぇ」
ルパートさんが部屋の外へ出て行くのを見送る。
会釈すると、相変わらずのにこやかな笑顔で返してくれた。
それにしても騎士団のナンバー2なのか。
ああ見えて相当な実力者なのかもしれない。信頼もされているみたいだし。
もしくはコミュニケーション担当とかかな。
団長は真っすぐ武力担当で、副団長は諸々の調整役とか。
「それにしても驚いたわ。トールがこんなにもあなたに懐くなんてね」




