お義母様襲来①
姑や小姑との付き合い。
それは結婚生活において大きな問題だと言っていい。
前世ほど時代が進んでいれば避けることだってできたかもしれないが、ここは中世だ。
文化や慣習も、当時に似たものとなっている。
さらに我々は血を重んじる貴族であり、何より私は人の家に嫁いでいる身だ。
結婚相手の家族とは否が応でも交流しなければならない。
お金や時間の心配が無くなったので、一緒にそういう面倒も無くなるかな~なんて、浅ましい私は期待してしまっていた。
「ふ~っ……」
でもまさか、嫁いだ初日にトルニトルスくんと何故か出会った、という弱点のある状態で交流しなければならないとは思わなかったなぁ……。
私は今、自分の部屋で身支度をして、義母と義妹が訪れるのを待っていた。
相手がどんな人か知っていたら対策も出来たんだけど、原作にギルバートの母親は出てこないんだよね。
彼から思い出を聞くぐらいなので、どんな人なのか正確には分からない。
だって彼女、セレスティーヌの最初の犠牲者だから。
ストーリーが始まった時点で、既に故人だから。
たぶん、ここまではほぼほぼ原作通りに進んでいることだろう。
だからもしかすると「私」はここで何かを言われ、恨みでも持ったのかもしれない。
そうなると、中々に詰められることが予想される。
怖いなぁ。いくら溜息をついても落ち着かない。
自室で事情聴取してくれるとはいえ、その自室が慣れないのだから当たり前だ。
前世でワンルームに住んでいた私がこんな豪華なとこ、一回寝ただけで慣れたりなんてできなかった。
(まさか私、追い返されたりしないよね?)
ぐるぐる思考が巡っていれば、ふと思いつく。
ギルバートの妻とはつまり、彼の母にとっては一人になってしまった息子の大事な結婚相手だ。
そしてアイゼンハルト辺境伯家とは、国内有数の実力者として名高い家である。
経済軍事両面で、先の戦争のずっと前から王家を支え続けている。
婚約が了承されたのは、前当主と戦場にて絆を深めた我が父の顔を立ててだろう。
あるいはやっぱり世継ぎのためか。
女嫌いの噂があるから、彼にはあんまり縁談が来ないだろうし。
しかし、不適格と判断されればもしかするかもしれない。
今の厳しい状態で不良債権を抱えておくなんてしたくないよね。
あれこれ理由をつけてこの話は無かったことに、なんてなりかねない気がする。
(いやむしろ……)
さらにあり得るのは、精霊の存在を知ってしまった事による「口封じ」だろう。
侯爵家の娘が嫁ぎ先で消息を絶つ、なんてスキャンダルすぎるから流石にありえないだろうけど。
……あり得ないよね?
ここには有能な領主を支える有能な夫人が居る、という話もどこかで耳にしたし、もしかして彼女が諜報機関みたいなのを束ねてたりとか、ないよね?
「だ、大丈夫っ。大丈夫だよ詩織……!セレス……っ!」
もしどちらかになれば、私の望みである精霊ちゃんたちに囲まれた生活はきっと叶わない。
薔薇色だと思っていた生活へ、一気に暗雲が立ち込めてきた。
自分を鼓舞するけどやっぱり効果は薄い。
ただ、上司をやり過ごすのは不本意ながら多少自信がある。
前世でいくらでもやってきたことだからね。
……まぁ成功率はあんまり高くなかったけど。
ダメだ。考えれば考えるほど緊張してくる。
とりあえず、一旦ここに置いてもらうことだけ考えよう。
うん。それぐらいならきっとできるはず!
やがて、重厚なドアからノックの音が聞こえた。
「奥様。ヒルデガルド様とカタリナ様がいらっしゃいました」
「……えぇ。お通しして」
再度気を引き締め、入室の許可を出して立ち上がる。
「あら~!アナタがセレスティーヌさんね?私はヒルデガルド・フォン・アイゼンハルト。アナタの義理の母になる者よ」
「へっ」
「そしてこっちが娘のカタリナ。親子共々、これからよろしくね?」
「は、はい……」
だが扉が開き開口一番告げられたのは、そんな緊張を吹き飛ばすほど軽い挨拶だった。
「それにしてもごめんなさいね。こんな早くから訪ねたりして」
「へっ。い、いえ。お気になさらないでください」
私の部屋には、ギルバートの母であるヒルデガルド様、妹であるカタリナ様、トルニトルスくん、昨夜遭遇した騎士の方と、侍女数人が入室していた。
そして始まったのは事情聴取や面接ではなく、単なるお茶会だ。
テーブルにはお茶菓子や紅茶が並べられている。
ふんわりと香るいい匂いとこれまでのおしゃべりで、私の緊張は気づけばかなり軽い。
まだ完全に解れたわけじゃないけど。
「あらそう?うふふ。あなた、聞いていたよりもずっと良い子ね。それなら息子とも仲良くやっていけそうだわ」
「……恐縮です」
ヒルデガルド様は、第一印象そのままのとても明るい人だ。
会話も上手い。
良い感じに話を振ってくれるし、どちらかが喋りすぎになるということも無い。
あんまりマナーを気にしないのもありがたい。
「私」、これまで勉強してこなかったからか全然分からないんだよね。
前世で学んだ最低限でなんとかなってくれてよかった。
また、彼女は旦那様の親なだけあってか容姿も非常に整っている。
彼の深い青髪はこちらから遺伝したのだろう。
同じく艶めいていて高貴だ。
暗めの碧眼も気品があって美しい。
でも顔の輪郭はやや丸めで愛らしいのが、彼女の明るさによく合っていた。
「でも」




