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ラスボス令嬢はエキゾチックアニマルと女嫌いの辺境伯様に溺愛される~今世ではもふもふつるざらに囲まれます~  作者: 田中飛鳥
1章

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アイゼンハルト家の精霊 トルニトルス②

  そこに居たのは、月明かりに照らされ妖艶に輝く、ふちだけ白いグレーの羽毛を全身に纏った、ヨウムと呼ばれる35センチほどもある大型のインコだった。

正確には、アイゼンハルト家の精霊トルニトルスくんが、床にちょこんと立っていた。


「かわいいいいっ……!」


 安堵するより先に、あまりにも愛らしくて声が出る。

驚かせてしまわないようなんとか小さく抑えることはできたが2度も漏れてしまった。

しゃがみこんでじっと見つめる。

彼は首をかしげ、鳥らしくカクカクと動かしながら、鋭い黒と薄黄色の瞳でこちらを覗き込んでくる。


「ゴキゲンヨウッ」


「あっ、えっ、あ、ご、御機嫌よう」


 なんとインコより少し低めの可愛らしいお声で挨拶もしてくれた。

天才か?もしかしたら私より頭がいいかもしれないな。


「私はセレスティーヌ。あなたは?」


 なんてことを思いつつ、いきなり触るのも失礼だからおしゃべりする。

彼らは5歳児ほどの知性を有しており、言葉を真似るどころか意味さえ理解するらしいのだ。

しかも精霊という存在自体そもそも頭が良いので、ひょっとすると本当に私より賢いかもしれない。


「トルニトルスッ。ワタシ、トールッ」


「~~~!!!」


 い、一人称を理解してる!?それにこれ、自分の愛称も!?

すごい。もちろん原作で知ってはいたけど実際目にすると開いた口がふさがらない。

思わず声にならない声が出てしまった。

動いているのが本当に可愛い。

つぶらな瞳がじっとこちらを見つめてくる。


 あと、常にゆっくり動いている。

呼吸をしているのだ。

喋る時はくちばしと、中の舌も動く。


 生きてるんだ、この子。

ついに私、画面の向こうではなく、実際に動物と会えたんだ。

正確には精霊で、前世の「動物」とはちょっと違う存在ではあるんだけどね。


「トルニトルス、くん?す、すっごく可愛いね?」


「アリガトッ」


「う、うへへ……」


 感動のあまり明らかにニヤニヤした笑いが出てしまった。

すごく癒される。身体的な疲れだけじゃなく、精神的な疲れもどんどん無くなっていく。

初夜がどうのとかもう初めから無かったみたいに消え去っている。


 だから気が抜けてこんな気持ち悪い声になっちゃった。

でもしょうがない。だって彼が、トルニトルスくんが可愛すぎるのが悪い。

いや全く悪くない。むしろありがとう。生きていてくれてありがとう。


「あれっ?ん~……?」


 ひとしきりそんな風にじろじろ見てしまっていると、気になることが出てきた。

一体なぜ、この子はここへ来たのだろうか。

そもそもどこから来たのだろうか。


 一応アイゼンハルト家の精霊と言うぐらいだから、この家のどこかには居たのだろう。

しかし今日屋敷の中を移動した限りでは、それらしい場所は見つけられなかった。

緊張で探す余裕が無かっただけかもしれないけど。


 さらに確か、警戒心が強かったはずだ。

ギルバートルートでは彼の相棒として出てくるのだが、懐く相手は少ない。

同じ家族であるカタリナ、それと主人公ぐらいのものだ。

だというのに一人でここへ来るなんて――。


「それより、どうしたの?どうして私の所へ?」


 アレコレと考えた末、彼が喋れることを思い出す。

なのでおしゃべりも兼ねて質問してみた。


「セレスティーヌッ。キニナッタッ。バショッ。ワカッタッ。ワタシッ。キタ」


「へ」


 あまりにもわかりやすい説明で驚く。

やっぱり天才すぎるなこの子。

なぜここへやってきたのか、おおよそ理解することができた。


 つまりトルニトルスくんは、精霊の愛し子である私の何かを感じ取り、気になって訪ねて来てくれたのだろう。

一人で。飛びながらか、あるいはちっちゃな足でとてとて歩きながら。


「そうなんだ……。怖くなかった?夜で暗くて」


「コワクナイ」


「あははっ。そっかぁ。あ、私の事も怖くない?」


 また力のおかげか、第一印象もかなり良いらしい。

態度は柔らかい。訊ねれば頷きを返してくれる。

……というかボディランゲージまで分かるのかこの子。ほぼ人間じゃん。

いや、それはおこがましいか。人間より賢いよね。うんうん。


「じゃあ、えっと……。私とお友達になってくれたりする?」


「オトモダチッ。イイデショウッ」


「わぁっ……。よしっ……!ありがとうセレスティーヌ……!ありがとう私……!」


 そして嬉しさから暴走気味に問いかければ、彼も嬉しそうに羽根を広げつつ了承してくれた。

ありがとう能力。セレスもこんな体質で生まれてくれてありがとう。

まさか出会ってすぐ仲良くなれるなんて。

幸せを嚙みしめる。感動して涙が出そうだ。

ちょっとズルい気がしなくもないけど、前世頑張ったからチャラってことでここはひとつ。


 しかしそうなってくると、さらに欲望が湧いてくる。

人間って浅ましいね。

だけど耐えられないからもう一度聞く。


「とっ、トルニトルス、くんっ」


「……?」


「さ、さ、さ、さわっても、いいかな?」


「イイデショウッ」


 そうしたらなんとこれもOKを貰えた。

絶対いやらしい感じになってただろうに、どうぞとばかりにこちらへ飛び跳ねてもくる。

大理石と爪が当たり、音が鳴った。

彼が動物であることをより実感して、全身が温かくなる。


 手を伸ばし、優しく、一切力を入れないよう気を付けながら、ゆっくりと、指先だけでまずは触れた。


「わ、わっ、ふ、ふわふわ……ッ!」


 非常に滑らかで、上質な布のような感触が伝わってくる。

空気を含んでいるためかふんわりともしていた。

さらに彼らヨウムは、身体から油脂性の粉を出し羽根をコーティングするらしい。

そのため粉雪のようにしっとりしつつさらさらだ。


 でも、温かい。生物の体温を、彼は帯びている。

やっぱり生きているからだ。


「じょ、成仏しそう……」


 気持ちよさそうに擦り寄ってくるのがたまらない。

動物ちゃんを撫でたことなんて殆ど無いんだけど、もしかして私上手い?

くちばしをパクパクさせ、目をうっとりさせて相当ご満悦だ。


 あぁぁ~。このままずっと触ってたい。

あと、この子を幸せにするためにいくらでも働きたいような気がしてくる。

本当はもうちょっと休むつもりだったんだけどね。

前世の事を思い出してあんまり経ってないからか、つい最近まで社畜だった気がするので。


「ん……?」


 でも実際、これから私が彼と、好きに触れ合うことなんてできるのだろうか。

だって、流石にやってきた一日目で存在が秘匿されていた精霊と会うなんておかしい。

「動物だと思った」なんて言っても疑いは晴れない気がする。

やっぱり彼は警戒心が高いはずだし、よっぽどのことが無ければ会いになんて来ないだろうし。


 そしてよっぽどのことなんて、怪しまれないはずがない。

何か道具を使ったと勘繰られてしまいそうだ。

本当は精霊の愛し子だからなんだけど、そんなの今の私が知ってるわけがない。

精霊の存在さえ知らないはずなのに。


「あっ」


 というか、だとしたらこんなとこ見られたらマズイんじゃ?なら一旦お部屋に帰さないとだ。

でもこの子を一人で?そんなの寂しくない?いやまぁ私が寂しいだけなんだけどさ。

とはいえ彼の部屋がどこにあるか分からないし、それこそこんな時間に出歩いたら間違いなく誰かとすれ違――。


「奥様?」


「あ、は、はい……」


 なんて考えつつずっと撫でまわしてたら、騎士らしき方に見つかってしまった。

見回りでもしていたのだろう。


 その後ギルバートのお母様に報告が行き、もう遅いからという事で翌朝、彼女からこの件に関する事情聴取が行われることになった。


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