プロローグ③
「っ!」
「は、はいっ!」
話し込んでしまっていると、気づけば彼女の背後にはすらりとした長身の人物が立っていた。
間で小動物みたいに縮こまった侍女さんが身を引くと、男性はもう一歩こちらへと近づく。
「お手を」
「……えぇ。ありがとうございます。閣下」
滑らかに伸びてくる、純白の手袋をつけたとても大きい手。
その主こそが、私の結婚相手にしてここアイゼンハルト領を治める辺境伯、そして、「きみたて」のいち攻略対象であるギルバート・フォン・アイゼンハルトだ。
気を引き締め直すと、力強いエスコートに従って馬車を降りる。
「……」
彼の顔を見上げた私は、絶句した。
確かに、相手は乙女ゲームで主人公と恋愛する相手だ。
かっこよくないわけがない。
もちろん理解していたし、身構えてもいた。
それに画面越しで何回も何回も見たから、大丈夫だと思ってた。
でも、生で見る彼は驚くほどかっこいい。
深い青の短髪は、陽光を浴びてどこかセクシーに艶めく。
瞳は黄金色に輝いて太陽みたいだ。
厳めしい表情も、怜悧だがどこか甘さのある「王子様」な顔立ちに合っている。
今確か22歳なはずなのに、大人びた雰囲気を醸し出しているのも最高です。
この感じでとっても愛情深くて、どんどんデレていくのがいいんだよな……、と思わず過去の記憶に浸ってしまう。
「何か?」
「い、いえっ!」
ギルバートの声が私を現実に引き戻した。
いけないいけない。愛想よくしないと。
ここでエキゾチックアニマルちゃんたちに囲まれた生活をするなら、少なからず気に入られておかないとだからね。
だからせいぜい嫌われて追い出されたりしないように頑張ろう。
政略結婚とはいえ、この人は女嫌いで有名だし。
主人公以外の女の子には心を開かないし。
最悪女避けの役目を頑張ったって事で、原作主人公と彼が出会った後、精霊の森近くに家でももらえるようにしよう。
お金も。あわよくば人も。
「そうですか?では、こちらへ」
というわけで私はできる限りすましながら、彼に連れられて屋敷へと入っていった。
「では、申し訳ないのですがこれにて失礼します」
「……?」
「私は今政務で手一杯なので、これ以上あなたの相手をして差し上げられるような余裕はありませんから」
「へ?」
「ただその代わり、この家での自由と生活は保障します。もし必要なら、常識的な範囲内であれば金も出しましょう」
「は、はぁ……」
「だから、アイゼンハルト家の辺境伯夫人としてせめて恥ずかしくない行いをしてください。そうすれば私も、あなたに口出ししないと約束しますので」
「分かり、ました」
自分の部屋へと案内された私へ有無を言わさず告げられたのは、ギルバートのそんな言葉だった。
原作の事を思い出す。
そういえば彼は、今から2か月前に終わった戦争で父と兄を亡くしている。
そして、間違いなく爵位を継承するだろうと目されていた亡き兄に代わり、アイゼンハルト辺境伯を継がなければならなかったのだ。
彼の剣となるべく戦いの訓練に明け暮れ、結果得た武技によって自分だけが生き残ったことで。
「理解いただき感謝します。では政務があるのでこれにて」
「あっ。……はい」
もちろん、思いやりにやや欠けた突っぱねる言い方だった。
もしこれが以前のセレスティーヌだったら。
せっかくのイケメンから拒否されたと落ち込み、自分をこんな風に扱うなんて、と憤ったことだろう。
でも、まぁ、さ。
「よしっ!」
いいんじゃない?自由にしていいって言ってくれたし。
というわけで、私のもふもふつるざら堪能生活スタートだ!これからいっぱい!
……いっぱいはダメか。
だって私、今まで動物と暮らしたことなんてないもんね。
急に増やしたらお世話しきれなくなっちゃうよ。
まぁ精霊は空気中の魔力を吸って生き排泄しないから、必要なお世話が少ないんだけど。
じゃあたっぷり?たくさんの時間彼らと暮らすぞ!嫌がられない範囲でね。




