作戦決行!③
「……はい」
「父上と兄上を守れなかったことで、落胆させてしまったんじゃないか。あれだけ好きでいてくれていたのに、嫌われてしまったんじゃないか、とな」
旦那様は兄として、自らを責めかける愛する家族のために、己が弱さを吐露する。
「それにだ。私が剣を磨き続けたのは、幼少期私に懐いてくれていたお前を守りたいと思ったのがきっかけでな」
「えっ」
「その相手から嫌われてしまったら、私の根幹を否定される気がして恐ろしかった」
「……なるほど」
本当は守りたい相手に弱い所を見せるなんて、怖いだろうに。
「そう思って、これまで避けていた。顔を突き合わせなければ、まだお前が私を大切に想ってくれていると、そのことに賭けられるからな」
「……えぇ」
彼にとってカタリナとは、希望だったのだ。
父と兄を死なせてしまった罪悪感に苛まれながらも、昔から懐いてくれていた彼女だけはきっと見捨てないでくれるかもしれない、という。
「ですがそんなことは絶対に――」
「あぁ。私もそう何度も思った。でも、どうやら私は、随分弱くなってしまったようなんだ。だから、その考えを消すことが出来なくてな」
「……」
「そしてもし会って、本当に嫌われていると分かってしまったら、きっと、私は……」
そんな相手に見捨てられたらと思い、確認するのが恐ろしくてギルバートは今まで特に妹を遠ざけていたのである。
続かなかった言葉の先は、この場に居る全員が分かったことだろう。
私も、カタリナ様も、ぴくりと身じろぎする。
恐怖で鳥肌を立てる。
「しかし、戦争が終わってからこれまでなんとかやってこれたのは、領民たちと、家族もそうだが、何よりカタリナ。お前のおかげなんだ」
「……」
「避けていたとはいえ、そのおかげで少しだけだが希望を持てたからこそ、慣れない領主の仕事をこなしてこれた」
続いた言葉で、今度は肩を撫で降ろす。
自らの存在で兄を繋ぎ留められたと知った彼女はさらに、少しだけ目を潤ませているようだった。
「だが、すまなかった。何も言わず、遠ざけてしまって」
「……えぇ」
「だから、お前は悪者なんかじゃない。悪いのは――」
「それは違います。お兄様」
そのまま、ギルバートと同じ黄金の瞳に強い意志を宿し、反論をし返してくる。
きっぱりと、有無を言わせないような力強さで。
兄妹だからか、二人はやっぱりすごく似てる。
頑固だけど、とっても家族思いだから。
「このお話に、悪者なんて一人も居ませんわ。すみません。軽率でした」
「カタリナっ――」
謝罪は決して、後ろ向きなものではない。
むしろ後ろ向きだったことを反省するみたいだ。
「別に、落ち込んでいるわけではないわよ」
「……」
「ただ分かっただけ。すれ違ってしまっていただけだってね」
「……あぁ」
「だからそんなに慌てなくて大丈夫よ、お兄様」
やや力のない、自嘲気味の表情は、今までの弱かった自分を捨てる、という覚悟を持っているようにも見える。
笑顔は次第に明るさを増し、視線は過去ではなく未来を見据えつつある。
これまで自分を避けていた兄への深い理解と、許容を感じる。
「そして、今お兄様から話を聞いてもう一つ分かったの。これから十分取り戻せる、ってね」
「っ……。あぁっ……!」
確信で満ち満ちた言葉に、ギルバートもまた、深い頷きを返した。
彼の声色に、これまで持っていただろう恐怖は微塵も無い。
強固な希望が宿っている。
「それが分かったから、もう全く気にしていないわ。……だから、お兄様も気にしないでいいのよ?嫌ってなど、いないから」
「……分かった。分かったよ、カタリナ」
二人の間で温かい視線が交わされた。
共に優しい表情となる。
見ているこちらまで、心がぽかぽかとしてくる。
「むしろ、その、まだちゃんと大好きだから……」
「あぁ」
「だから一度、昔みたいに抱きしめて、安心させてもらっても、いい、かしら?」
「~~~ッ!」
そうして、ちょっと照れながらも幼気な「お願い」を、お兄様へとするカタリナ様。
ちらりちらりと様子を窺う控えめな視線は、傍から見ていた私の、安堵で緩みきった心をぶっ刺した。
かッ!可愛すぎるッ!
尊すぎて頭が爆発してしまいそうです。
キリっとした普段の様子からこんなにデレるギャップがたまらない。
なんならギルバートより彼女を好きになりそうだ。
「……あ、あぁ。そ、そうだな」
彼もそんな妹に射貫かれてしまったらしい。
ちょっとドギマギする。
あと、流石に恥ずかしくもあるのだろう。
もうちゃんと大人って年齢だし、そうそうスキンシップをとる事なんて無かっただろうから。
あと、私っていう部外者の前だし。
「……何よお兄様。今更照れてるわけ?」
「い、いや。そうだな。久しぶりにそうしよう。仲直り、したことだしな」
「ふ~ん……。そんなに照れてるのね。さっきからずっと、その女とは熱~く手をお握りになっていらっしゃるのに」




