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ラスボス令嬢はエキゾチックアニマルと女嫌いの辺境伯様に溺愛される~今世ではもふもふつるざらに囲まれます~  作者: 田中飛鳥
2章

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領地視察兼買い物兼デート兼……⑤

「―――!」


「ん」


「これは……」


 外から悲鳴が、大きく聞こえてくる。次いでざわめきもだ。何か事件でもあったのだろうか。


 領地の治安維持は、主に領主の仕事だ。

実際には騎士団の方々が行うが、主体となるのはギルバートである。

近くに居る今、私たちがすぐ駆けつけるべきだろう。

何より彼が馬車に乗っていると、既に何十人かには知られてしまっているのだから、素通りしたらきっと心象も悪い。


「ギルバート様。行きましょう」


「っ!あ、あぁっ……」


「……?ギルバート様?」


 だが、当の彼の様子がおかしかった。

先ほどまでの姿はどこへやら、息さえしづらそうにしている。

拳は握られ、肩も力なく窄む。

声をかけることすらはばかられるような姿だ。

一体どうしてしまったのだろうか。じっと観察し、考える。


 やがて、一つの仮説が浮かんできた。

もしかすると、戦いになることを恐れているのかもしれない。

その可能性を前にして、動けなくなったのかもしれない。

何せ、戦争で、命の取り合いで家族を失っているのだ。

トラウマを抱えていてもおかしくはない。


 また、だからこそこれまでずっと、屋敷から出ていなかったのではないだろうか。

もし武力で鎮圧しなければならないような事件と遭遇すれば、こうなってしまうと分かっていたから。

戦う事こそ自分の生きる道だと思っていたのに、出来なくなってしまったから。

そんなのきっと、誰にも顔向けできないから。


「……」


 冷静さを取り戻した頭で思考する。

私はそんなギルバートに、一体何をすればいいのだろう。

無理矢理にでも向かわせるのは、駄目な気がしてならない。


 ちょっと違うけど、強引に仕事へ向かわせるようなものじゃないか。

辛さが分かるからこそ、口は動かない。言うべき言葉が思いつかない。


 変に発破をかけ彼がより深く傷ついたら、良くないことが待っている気がする。

背筋がぞわっと冷たくなった。

もしそうなれば、私に、それどころか誰にも責任なんて取れようはずがない。あまりに重すぎる。


 ならばと悩み、前世で激務の中、私が誰かにして欲しかったことを思い出す。

勇気を出して、実行する。


「ギルバート」


「へ?は、は――」


 そして、彼の手を握った。優しく、包み込むように。

先ほど上がった人肌の熱を伝えるように。


 じっと目を見つめ、名前を呼んだ。

一緒に居ると、精一杯伝えるために。心の奥底に、伝えたくて。


 同時にマルガレーテちゃんが私の腕を駆けのぼり、一緒に触れてくれる。

仄かにひんやりとしたつるつるの体は、繋いだ手と手を縛るように巻き付いた。


「今日はこのまま、帰っちゃいましょうか」


「えっ」


「雑貨を買うのはまた今度でも大丈夫ですし……。いいかな、マルガレーテちゃん?」


 私の言葉に彼女は、多分頷く。

待ってうちの子(?)天才すぎる。

しかもなんて優しい子なんだ。もっと勇気が湧いてきた。

より明確な意思を目に宿し、真っすぐ向ける。


「それにアレは、すぐに誰かが来てくれるはずです。優秀なあなたの部下ですからね」


「しかし……」


「もしくは心配なら、私が行ってきます」


「なっ……」


「きっとマルガレーテちゃんと、オロバリス様が守ってくれますから」


 強気な事も言っちゃう。

実際、マルガレーテちゃんは精霊の森の長老たるオロバリス様の盟友だ。

どれだけ力を持ってるかは知らないけど、まぁ人間一人二人ぐらいならたぶん余裕だろう。

確証はないけど。正直怖くないって言うと嘘になるけど。


「だから大丈夫ですよ、ギルバート。この場は、あなたがしたいようにしても」


「……はい」


「もしくは自分で選ぶのが嫌なら、どうするか、私が選んでも大丈夫ですし」


「……」


 でも、トラウマや恐怖で辛そうにしているギルバート見ると、やっぱり放っておけなかった。


 その理由は、彼が大好きな「きみたて」の登場人物だから、というだけではもうないかもしれない。


「私が……」


「はい」


「私が向かいます」


「……はい」


 やがて、旦那様は決意を固めたようだった。

天に輝く太陽のような瞳が、私の事をしっかりと見据え返す。手が力強く握られる。

気づけば背筋も真っすぐに伸びていた。

そこに恐怖は殆ど見られない。領民を想う強い意志が、ひしひしと感じられる。


 流石は乙女ゲームの攻略対象だなぁ。怖いだろうに勇気を出せちゃうなんて。

かっこいいね。また心臓が跳ねるけど、強い返事をする。


「ただ……。その……」


「なんですか?」


「付いてきて、くれますか?」


「ふふ。えぇ、もちろんです」


「ありがとうございます。セレスティーヌ」


 やや縋るように尋ねられ深く頷く。

こちらからも手を握り返し、決して離れないことを誓う。

なんだか、心も一緒に繋がっている気がした。

誰かとこんな風になるって温かい。嬉しい。幸せ、かも。

ことによると、相手が相手だから猶更。


 こんな満ち足りた気分になるなら、ちょっと怖いぐらいどうでもよかった。

むしろこうさせてくれる彼を失う方が怖い、気がする。


「――御者、止めてくれ」


 そうして私たちは、事件が起こっただろう場所へと共に向かった。ずっと手を繋いだままで。

……よくよく考えてみたら、なんかやたら人の視線感じるなと思ったんだよね。絶対これのせいだ。


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