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ラスボス令嬢はエキゾチックアニマルと女嫌いの辺境伯様に溺愛される~今世ではもふもふつるざらに囲まれます~  作者: 田中飛鳥
2章

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領地視察兼買い物兼デート兼……④

「すみません。怖かったでしょう」


「あ、いえ。そんなことは」


 馬車が緩やかに走り始めると、ギルバートが何事も無かったかのように話しかけてくる。


 しかし私はまだ、心臓の高鳴りが治まらないでいた。

だって、さっきのことがまだ心に残っていたから。

というか!何あれ!守ってくれた挙句しっかりエスコートも!?


 なんだかお姫様みたいな扱いだった。

前世普通のOLだった私に。

正直、未だにあれが現実だったのかあやふやだ。

ただ、これまで何度か握られたはずの手には、これまでと違い温もりが残っている気がした。

思わず何度か握って開いてを繰り返す。


「むしろとてもよく分かりました。ギルバート様が、彼らからすごく愛されていると」


「そう、ですかね?」


 ちゃんと喋れてるか不安ながら、なんとか思った事を口に出していく。

すると段々落ち着いてくる。

というか、あれぐらいこの時代の夫婦ならきっと当然だよね。

きっと。たぶん。恐らく。自信は無いけど。


 ……だとしても、守ってくれたのを思い出せばまた顔が熱くなる。

やたらかっこよく見えて、あんまり視線を合わせれない。

こんなにイケメンだったっけ?しかも性格までイケメンだなんて。


「えぇ。なんだか、そうですね。みなさん、私が、マルガレーテが可愛すぎて我を忘れてる時みたいだったので」


「む。ふ、ふふっ。あぁ。なるほど。確かに」


 私の冗談に噴き出す姿から、なんだか可愛げを感じるのもずるい。

見惚れて、ドキドキする。ホント何しても絵になるなコイツめ!ムカつくぜ!


 見ているとあることに気づく。領民について話してるのに、これまでと違ってとても緩んだ顔をしている。

どうやら少しぐらいは恐怖を取り除けたのかもしれない。

行動した甲斐があった。

嬉しい。ちょっと、今までの嬉しさとは違う気がするけど。

なんだか、感情が近いような。


「……納得されるとそれはそれでちょっと嫌かもです」


「あぁすみませんセレスティーヌ」


「いえ。怒ってはいませんよ。というか、随分私の事を見ているんですね?」


 というか!なんだか私ばっかり意識してるみたいでムカつくのでからかってやる!

ギルバートもそうだけど私だって相当顔が良いのだ。

ちょっとあざとめに彼の顔を覗き込み、いたずらっぽく笑う。

ぐいっと前のめりになる。


「へっ。あ、あぁ。いえ。あなたは一応私の妻、ですからね。きちんとしているか監視するのも、その、私の役目、かと」


「あ、は、はい……」


 すると返ってきた反応は、想像以上だった。

視線を逸らされる。言葉がしどろもどろになり、そしてどことなく顔が、赤らんでいるように見えた。

あまり経験が無いから確証は無いんだけど、照れているのかもしれない。

急に近づかれて、びっくりしているというより。


 なんだか、こっちも照れてしまう。

顔が熱い。彼と同じように赤くなっている気がする。

目もやっぱり、恥ずかしくて合わせられない。

さっきは自分から合わせに行ったはずなのに。


「……」


「……」


 な、なに?この空気は。

馬車の中がおかしい。しっとりとした、なんだか甘いような雰囲気が漂っている。

しかもこんなタイミングでいらんことを思い出す。


 そういえばギルバート、さっき私の事呼び捨てにしてなかった?

今までだったら全然気にならなかったはずなんだけど、なんだかすごく理由を知りたくなってしまう。

でも、嫌だからじゃない。

嬉しい、ような気がするからだ。慣れない気持ちで、分かんないんだけど。


「ま、マルガレーテちゃ~ん……」


 やがてこの場に耐えられなくなってきて、腕を持ち上げマルガレーテちゃんを呼び出す。

ひとまず彼女を可愛がり、冷静にならせてもらう作戦だ。


「あ、あれ?ま、マルガレーテちゃん……?」


 しかし応えてくれる気配は無い。

それどころかむしろ、袖の奥の方へと引っ込んでいく感触がある。

つるつる最高……。とか思ってる場合じゃない。

まさかこの場の状況を察しているのだろうか。

もしくはオロバリス様が見てたりするのか?

それで空気を(悪い方に)読んだとか。


 なんだかすごくあり得そうだ。そういうお茶目さが、あの方にはある。

でもだからって今じゃないでしょ!しばらく会いに行ってあげないんだから!

嘘ですまたしばらくしたら行きます。それはそれで可愛すぎるので。


「……」


「……」


 とはいえ、どうしようこの空気。どうすればいいんだ?経験が無いから分かんないよ。


 と、とりあえず違う話をしたらいいかな?そうすれば多少変わる、んじゃないか?うん。そうだ。そうしよう。咄嗟に思い付いたことを口に出す。


「えっと、ギルバート、様」


「は、はい。どうしました?」


「先ほどは、その、守って頂きありがとう、ございました」


「へっ」


 さっき、馬車に戻る前のことだ。感謝ぐらい、伝えるべきだろう。


 でも、明らかに話題選びを間違えていた。

やたら心に残っていたから出てきてしまったけど、どうにもしおらしくなってしまう。

だって、嬉しくて、ドキドキするから。

先ほどの状況が否応なく鮮明に思い出され、動悸が始まり、頭が真っ白になる。

とはいえ止まるわけにもいかず、次々と言葉を吐き出していく。


「その、正直、申し訳ないのですが、領民の方々に迫られるのはやはり怖くて……」


「……はい」


「ですがその、ギルバート様が私の前に出てくださって、そうしたら、その、怖くなくなった、と言いますか……」


「……えぇ」


「あの、大変落ち着きました」


「はい」


「だから、あの、ありがとうございます。ありがとう、ございました」


「っ……。は、はい」


 最後にはやっぱりちゃんと伝えなきゃと思い、真っすぐに見つめて言い放つ。ちょっとスッキリした。


「……」


「……」


 だけど、案の定空気は元に戻らない。

むしろ甘さが増しているような気さえする。相手の顔が見れない。

馬が石畳を蹴る音と、外の喧騒、自分の心臓の音だけが聞こえてくる。

この空気を、結局どうすればいいのだろうか。

次の目的地へ着くまで、あるいは着いてからもこのままかもしれない。まずい気がする。


 そう、ぐるぐる考えている時だった。急激に場の空気を変える出来事が起こったのは。

明日は土曜なのでお昼、12時10分に投稿します。

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