領地視察兼買い物兼デート兼……①
一帯を治めるアイゼンハルト家の屋敷が置かれた街、ヴェルドナは、王都ほどではないにしろかなり栄えていた。
活気も十分だ。
人々は楽しそうに行き交い、そこかしこから朗らかな声が聞こえる。
私たちが移動しているのは、最も大きい通りなのだから猶更だった。
荷馬車も多く、経済が盛んだと一目で分かる。
同じく質素なデザインの馬車に乗っているので、これまで目立たず来られているのもありがたい。
商家の夫婦っぽく変装もしておいたので完璧だろう。
これで誰かにバレて、ギルバートが詰め寄られるなんてこと無いはず。
お尻がちょっと痛いけどね。
ちなみにマルガレーテちゃんが私の腕に巻き付いて同行している。
感触はあるけど、透明化の魔法を使えるらしく見えない。
「それにしても、いい街ですね」
「……む?え、えぇ」
そしてギルバートはと言えば、緊張しているようだった。
先ほどから話しかけても生返事をされる。
やはり領民にどう思われているのか気になるのかもしれない。
「あの、ギルバート様」
「なんでしょうか」
「本当に見ておられますか?」
「へっ。な、何を、ですか?」
でも、一度外の活気を見れば分かるはずだ。
この街が失意に沈んでいないことを。
日々精一杯でありつつも、楽しく暮らしていることを。
以前の様子を良く知らない私でさえ分かるのだから、民衆への愛が深いなら当然だ。
どうすれば話をちゃんと聞いてくれるかと思い、少し顔を近づけて訊ねる。
なにやら驚いて身を引かれるが逃がさない。
「街の様子を、です。お忘れですか?私の買い物もそうですが、領地の視察に来たことを」
「あ、あぁ。そちらですか」
「そちら?」
「あぁいえ。こちらの話です」
もっともらしい事を言いつつ外を指させば、何やら安堵した様子だった。
……ん?まぁいいや。
とにかく外を見ろ外を!
「それで?」
「あ、えぇ。は――」
促すとついに、彼は窓から街の様子を覗く。
言葉を失う。
「いかがですか?ご自分が治める街の様子は」
「え、えぇ……。とても、賑わっ、て、いますね」
なんだか、精霊の森に行った時のヒルデガルド様みたいな姿だ。
やっぱり親子だからかなんとなく似てる。
先ほどまでの緊張はどこへやら、ただじっと周囲を見回していた。
心なしか表情も緩んでいる。
「そうでしょう?それにこれから、もっと間近で見ることができますよ」
「それはどういう……」
でもこれだけじゃない。
準備の時間に思ったんだけど、もっと詳細に領民の様子を見ることだってできるのだ。
「あ。着いたみたいですね」
「あぁ。なるほど」
私の目的地。
服屋さんで。
「いらっしゃいませ。ギルバート様。奥様」
「あぁ。出迎え感謝――。む。何故私が来ることを?」
「私が」
広めの店内に入ると、トルソーに着せられた煌びやかなドレスやチュニック、平民たちが着るワンピース等々の他、品の良い店主らしき老女が出迎えてくれる。
「急に訪ねるのは失礼かと思い、先触れを出しておきました」
「なるほど」
事前に伝えておいたため貸し切り状態だ。
この街に住む誰もが利用する場所なのだろうが、今は落ち着いた空気が流れている。
もちろんびっくりされたりすることもない。
「……久しいな。マルタ」
「えぇ。とはいえ1年ほどですが」
「……そうか。最後に仕立ててもらってから、まだその程度しか経っていないのだな」
「はい」
そして何よりここは、アイゼンハルト家御用達の店でもあるそうだ。
貴族だし実際にここへ足を運んだことは無いかもだけど、彼女とは結構会っているのだろう。
ギルバートもどこか安心した様子となる。
「辺境伯様」とか「領主様」ではなく名前で呼ばれるあたり、だいぶ仲が良いのかもしれない。
「紹介しよう。我が妻のセレスティーヌ嬢だ」
「よろしくお願いしま……。よろしくね。マルタさん」
「はい。こちらこそよろしくお願いいたします。奥様」
紹介されて、自然と敬語で喋ろうとしてしまう。
前世の記憶を思い出してから半月ぐらいだけど、まだ貴族という身分には慣れない。
侍女さんたちになら敬語無しが板についてきたんだけどね。
相手は家の外の人だし、年上だ。
でも、マルタさんは全く気にすること無く挨拶を返してくれる。
馬鹿にとかされない。
「それで、ご用件というのは……」
「あっ。えぇ」
話題もすぐに変え、用事を聞いてくれる。
良い人だ。
正直、街ならもっと「私」の噂が広がってて眉を顰められたりするかとちょっぴり思ってた。
むしろ対応は真逆だ。
ギルバートの、アイゼンハルト辺境伯の夫人としてちゃんと扱ってくれている。
なら、遠慮することは無いだろう。
存分に頼らせてもらう。
「実はその……」
そう思ってすぐ詰まる。
マルタさんにどこまで精霊の事って言っていいんだろう?あまり濁して伝えても、目的に沿った服を作って、あるいは紹介してもらえない気がする。




