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ラスボス令嬢はエキゾチックアニマルと女嫌いの辺境伯様に溺愛される~今世ではもふもふつるざらに囲まれます~  作者: 田中飛鳥
2章

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アイゼンハルト家当主 ギルバート

「それにしても、ギルバート様が外出するなんて久しぶりですな」


「……そうだな」


 外出のため身支度を整えていると、アイゼンハルト家筆頭家令であり、剣の師匠でもある家臣、レイハルト・カーマンが話しかけてくる。

暗い赤髪にごつごつとした精悍な顔立ちの彼はしかし、随分と楽しげな表情を浮かべていた。


 反面、ギルバートの内心はあまり落ち着いていない。

これから、罪の意識からずっと避けていた領民たちの姿を、見なければならないからだ。

そしてあるいは、遭遇してしまうかもしれないからだ。

果たしてもし会えば、どんな言葉が向けられてしまうのだろうか。

彼らの愛する我が父と兄を守れなかった、自分のような存在に。


 恐ろしくて未だに気が引ける。

妻の提案を了承したのは自分であるはずだが、どんどんと気が滅入っていく。


 我ながら弱くなったものだと思う。

あるいは、元から弱かったのだ。

だから彼らを無残な姿で故郷に帰してしまった。


「しかもその理由が、奥様とのデートとはね。へへっ」


「え?」


 そうして沈む意識を引き戻す、聞き慣れない言葉。

再びレイハルトを見れば、笑みはより深まっている。

50前半の老人らしくどこか孫を見るような、ただなんとも腹の立つ食えない笑顔だ。


「い、いや。そういったものでは――」


「いやぁ、そんな『閣下』を送り出せるとは。このレイハルト・カーマン、恐悦至極に存じますな。全く全く」


 確かに今からセレスティーヌと出かけるが、目的は全く違う。

単に、彼女の買い物に付き合うだけである。

付き合うのだって二人で何かを楽しむためでもない。

これも仕事の一環だ。

そのはずである。


 咄嗟に否定しようとするが、遮られる。

さらにニタニタとした目を向けられる。

最早気になるどころか憎たらしい。


「……からかっているな?」


「おっと。分かりましたかね?」


「はぁ……。全く」


「失礼いたしました。閣下」


「分かったからもうよせレイハルト……」


 からかわれているのだとすぐ気づき、相手にしないことを決める。

彼は幼少期からずっと自分を見てきた男だ。

さらにギルバートは今まで殆ど鍛錬しかしてこなかった。

剣術でこそ上回っていても、言い合いでは分が悪い。

家令として父に付き従い、貴族の腹の探り合いも経験している相手なのだから。


「ただ、少し気を付けなされ」


「……というと?」


「私もこの婚約にあたって多少彼女の事を調べましたが、ギルバート様のような美男子には目が無いと、かなり聞きました」


「む。そうなのか?」


「えぇ」


 だがだからこそ信用できると知っている。

忠誠と情報網は確かだ。

間違った事を、何の懸念も無く伝えるような男ではない。

レイハルトが言うのであれば、セレスティーヌの「評判」は正しいのだろう。


 ただ、そこには一つだけ大きな但し書きがつく。


「……しかし私には、彼女は今までの令嬢たちとは違うように思える」


「ほう?」


「少なくとも、私の都合を優先してくださる。それに何度も言おうとしたが、今回はその、それ……」


「デート?」


「あぁ。それではなく、単なる領地の視察が目的だ。だからどちらにせよ、彼女がどんなことを思っているにしろ、全くの無駄になるという事は無い」


彼は政務補助のため執務室に籠りきりで、未だ妻と顔を合わせてはいないのだ。

一度会えば、そんな下世話な人間では無いと分かるだろう。


 また、顔や立場、兄との関係構築目当てで半ば無理矢理近づいてきた、これまでの令嬢たちとは違うということもだ。

それぐらい彼女は、嫁いできてからの1週間大人しかった。

それどころか度々部屋へ訪ねることも、嫌な顔一つせず了承してくれた。


 自分たちが婚姻関係にあるとはいえである。


「それに私は、彼女に好かれるような男ではないし、美男子などでもない」


「ふむ。まぁいいですがね」


 ましてや、ソレに誘われるほど好意を持たれているとも思えなかった。

何せこの家へ来た時、仕方がないとはいえ突き放すことを言ったのだ。

恨まれこそすれ、好かれるなどありえない。


 さらにギルバートは自分の顔が整っているなど、考えたことも無かった。

むしろ表情が硬く可愛げが無いとさえ感じている。

であれば猶更、ただ二人でどこかへ出かけたいなど思われないはずだ。


「とはいえせっかくのデートだ。存分に楽しんでくるのが宜しいでしょう」


「はぁ……。分かった分かった。そうさせてもらう」


「宜しければ、私が妻とよく行くいい店もご紹介しましょうか?」


「……」


「もしくは子供たちか、孫たちと行く賑やかな場所でも?」


「もう行く。留守は任せた」


「えぇ。楽しんで」


 支度が終わったため、未だうるさいレイハルトから逃げるように部屋を出て行く。

愛妻家かつ親バカで、さらに孫にも恵まれるのは大変良い事だが、毎日のように聞かされる側としてはうんざりしなくもない。


 それにだ。

自分は平民である彼とは違い貴族である。

恋愛や、ましてやデートなど縁遠い話だろう。


 両親があまりに仲睦まじく、密かに憧れを抱いてこそいたが。

この結婚だって、アイゼンハルト家存続に急を要する事態だ、という母の強い勧めに応じ受け容れたという部分が大きい。

政務がある程度ひと段落すれば「夫婦としての務め」も行うつもりだった。

少し気後れしてしまう心がないわけではないが。


(私に、そんなものを楽しむ資格などない。一生かけて罪を償わなければならないのだ。この家の剣として父と兄を守れず、皆を落胆させた罪を)


一人になるとまた暗い思考を巡らせるギルバートの心のどこかでは、しかしデートという言葉が確かに残っていた。

少し、意識してしまいそうなほどに。


 それが、あるいはセレスティーヌへの好意から来るものかはまだ、判然としなかった。


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