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006_第三探索隊

「食べながらでいい。こっちの状況を説明するから聞いてくれ」


 そこから、タマサブロウはなぜこんな未踏遺跡の奥にいるのかを話して聞かせた。三人は、ブロック状の保存食を分け合い、ペットボトルの水を回し飲みしながらその話を聞く。


「大まかに言えば、俺たちはFOOLの命令で旧PLAIS領域の調査に派遣されているんだ。で、とある帝国系遺跡を探索中に転移罠を踏んで、この奥に飛ばされたって訳だ」


 転移罠、というのがよくわからなかった三人だが、帝国の施設の防衛装置にはそういうものがあるらしい。

 エディはそれより、彼が口にしたある単語が気になった。


「というか帝国系遺跡って? 帝国は今も続いているよな? もしかして滅んだ?」

「それがこっちの事情とも絡むんだ。大爆発以降、帝国は自国を守るために環境制御の範囲を狭めたんだ」


 現在の地球はかなり荒れた環境で、大半が荒野で乾燥地帯となっている。昔の、それこそ第一紀の気候が戻るのは1000年かかると言われており、それまでの間各勢力はそれぞれの環境調整法を使って領土を維持している。

 だがGreat Detonation(大爆発)、略してGdと呼ばれる最新の大崩壊(グレイト)が起こったことで旧PLAISの支配下にあった環境制御が消滅、それは全地球環境に影響を与えて他勢力の環境制御が不安定になった。


 ――『グレイト』が『大崩壊』って意味に変わってしまうぐらい何回も崩壊してるんだよなあ……よく俺たち生きられているよな……


「その影響で、外辺の領域が異常気象に見舞われて、荒れ果てていった。帝国民はもっと内地に避難して、残った建物が遺跡になったんだ。俺たちが探索していたのはそういう場所だな」


 自分の分を食べ終わったアデルが手を挙げる。


「質問なんだけど、フナ=バシも昔は荒れ地じゃなかったの?」

「フナ=バシか……あそこは元から環境制御の外だな。一応国境は荒野のど真ん中に引かれているが、国境近くはどの勢力も環境制御の外だ。フナ=バシみたいな都市は他勢力との交通や外交の拠点として作られたんだろう」

「直接Gdの被害があったぐらいですものね」


 もちろんヤオもその時代のことを知るわけが無いが、周りの大人から聞いていたのだろう。フナ=バシはGd時に構造体以外ほぼ壊滅してから再建している。


「話が逸れたな。で、俺たちの住処っていうのは自治区という帝国の端っこなんだが、そこが環境制御縮小の影響を受けてしまってな。このまま住み続けるのが難しくなったんだ。それで、移住可能な場所を見つけるために探索隊が出ることになった。俺たちは第三探索隊だな」


 エディは現代が相当な紆余曲折を経てこの形になったのだ、ということを、恐らく今を生きる誰よりも実感している。

 ヤオは、フナ=バシ周辺の探索戦士達の活動や動向については、モドキ達などよりよほど熟知している。

 だが、タマサブロウの言葉に違和感を持ったのはアデルだった。


「ねえ、帝国内に別の場所を貰うわけにはいかなかったの?」

「それか……ちょっと長い話になるが……」


 そこからのタマサブロウの話はエディには初耳のことも多かった。

 俗に言う帝国、すなわちSAGEは構成員の全てが異世界人だ。それはエルフ、ドワーフなどの異種族のことだけではなく、人間も同様だ。

 異世界由来の魔法を使うためには異世界人の純血である必要がある。

 例えば、異世界の人類と地球人が混血した場合、ほとんど魔法を使う能力を失う。

 その事がわかった結果、今の帝国は純血主義を国是とし、外部からの人の流入を制限し、混血や地球人からは国民の資格を剥奪した。


 それでも人間はまだマシだ。他勢力で生活すればいいのだから。

 だが、この世には地球土着の異種族というものが実は存在する。

 彼らは、ずっと人から隠れて存在し続けていられるぐらい少数だ。同族が異世界から現れたことで、いくつかの絶滅寸前の種族は喜んで合流しようとした。

 だが、先述のような魔法行使能力の問題が発覚し、帝国は即座に地球出身の異種族を隔離した。外で居場所を得られる確証のない彼らは人類とは状況が違う。見捨てる事が出来なかった帝国は、帝国の端に居住地を用意してそこに地球出身の異種族と混血した異種族のものとした。これが自治区の始まりである。


「そんなわけで、帝国に混じるわけにもいかない。すでに住んでいる帝国の同族がいる以上、土地を簡単に譲ってもらえるわけでもねえ。だから自治区のまとめ役はこの際帝国から独立して外に出るという方針を選択したんだ」


 自治区、でなく独立勢力となることで名前が必要になった。Federation of Occult Origin Lives(幻想由来種族連盟)――略してFOOLという名称は、

帝国の略称であるSAGEとの対比として自ら『愚者』を名乗る皮肉でもある。


 ――SAGEの正式名称、俺は最初冗談かと思ったぜ……それに比べればこっちはずいぶんセンスがあるな……


 そういう内なる声を聞き流し、エディは彼らの望みが叶うかどうか考える。異種族であるからにはAURA領域は絶対に無理だ。旧PLAIS領域を探るという方針は正しいように思える。

 問題は、旧PLAIS領域がどうなっているのか誰も知らないのだ。はたして生き残っている都市国家はあるのか? 漏れ出てくる分だけで大変なのに、領域内にはどれほどのブライトサイドが出現するのか?

 簡単な道では無いだろう。


「さて、俺たちの方はこんなところだ。お前達は? もう戻るつもりは無いんだろう?」

「そうですね。戻って助けたい友人がいるわけでも無いし、戻っても僕たちがまとめて殺されるだけです」

「逆にみんなをこっちに引き込むというのは、出来ませんか?」

「やめた方が良いだろうな。全員が全員あの隙間を通れるほどじゃないんだろう? それに待ち伏せだってあるだろう」


 ヤオはドライだが、友人がいなければそんなものだろう。

 アデルの意見は即座にタマサブロウに却下された。現状、あの隙間はこの3人がギリギリで、タマサブロウでも無理だ。だから、待たされて気の立ったモドキ達の銃口に3人がさらされるだけの結果になりかねない。

 そうなると、このままこちら側にとどまり、モドキ達がいなくなった後に脱出するのが最善だろう。そのとき、まだ孤児達が殺されずに置き去りにされただけなら、余裕があれば助けてもいい。

 そんな感じで身の振り方が決まったのだが、ここで問題がある。


「結局、他の出口を探さないと出られないということか……」

「ああ、見回ってみたが、他はこの程度の隙間も無い。最悪はここを広げるしか無いが……もう一人の仲間は無理だろうな」


 なんでも、タマサブロウの仲間がまだ奥の倉庫に残っているらしい。彼は、狭い隙間をすり抜けるのに最も不適な種族、成人のドワーフらしい。


「センゴクのおやっさんを見捨てたとあっちゃ俺も仲間の元に戻ってただで済むとは思えねえ。なんとかおやっさんも一緒に脱出する方法を見つけないと……」


 そのセンゴクというドワーフは一人娘が本隊に同行しているそうだ。父を見捨てて帰っては顔向けが出来ない、とタマサブロウはこぼす。


「その転移罠から向こうに帰れないのか?」

「それは最初に確かめたさ。無理だな。向こうには魔法陣があって、それを調べている最中だったが、こっちにはそんなものかけらも無い。後に隊の連中が続いてこないということは、一回っきりの罠だったんだろうぜ」


 ともかく、この暗い通路にいてもしょうがないので、彼らが見つけたという奥の倉庫に移動することにした。相変わらず床は荒れているが、ライトで照らしてくれているので三人でも問題無かった。

 何度か角を曲がる。こうしてみると、当初エディが想像していたよりもずっとこの施設は大きい。


「何の施設だったんだろう?」


 思わず口をついて出たその言葉に先を行くタマサブロウが反応した。


「見た感じPLAISのどこかの国家の秘密研究所だな。あそこはほら、一枚岩じゃ無いから、他国に秘密の施設はありうるだろう」

「構造からしてそんな気はしてましたが、やっぱり秘密施設だったんですね」

「たしかヤオは他の遺跡も行ったことがあるんだっけか……」

「ええ、フナ=バシ周辺だとやはりいかにも帝国系の遺跡は少ないですね。僕の行ったことがあるのも全部PLAIS系です」


 PLAISというのは同盟とも呼ばれる都市国家群だ。第一紀から続く国家はほとんどここに属する。AURAはアラブ系が多いが、それ以外のヨーロッパ、アメリカ大陸、あるいはアジア、アフリカに存在した国家群は大半PLAISに属している。

 当然古くからの国家間の軋轢を大部分引きずっている。アメリカ系都市国家が秘密裏に研究した内容を中国後継の都市国家のスパイが盗み出し、それが発覚して戦争になったこともあった。


 Gdで何が爆発したかは、付近が全部灰燼に化したので不明だが、位置からするとヨーロッパ系都市国家が爆心地だ。秘密裏に研究されていた爆弾兵器か新型動力炉が原因だと考えられている。


「他国の土地の地下に秘密施設か……なんかすごいものが残っていそうなものだけど……」

「ああ、すごいのといえば……まあ、直接見てもらった方が早いか」

 

 先が明るくなっている。どうやら倉庫の扉は開放され、中の明かりが漏れているようだ。

 今になってエディは気づいたが、タマサブロウの戦闘服の尻から尻尾が外に出ていて、それが左右にふりふりされている。

 さっきからアデルが妙におとなしかったが、ずっとその尻尾を凝視している。こんな状況じゃなかったら存分にモフモフしたい。その欲望を我慢していたのだ。


 ――頭といい尻尾といい、柴犬っぽいよな……


 エディとしてはそんなアデルの様子を微笑ましいと感じながら、そんな心の声が湧き上がってきた。もちろん現代のフナ=バシに柴犬を見たことがあるわけではなかったが……


「おーい、おやっさん。お客さんだ」

「大声を出すな……ふむ、これはまた小さい客だな。近所の子供か?」


 そこは大空間の倉庫だった。やはり半ば崩れているが、元は車両でも重機でも、何十機か保管できそうな大きさだったのだろう。手前の一部が明るくなっているが、奥は暗くなっていてよく見えない。だが空気や足音の響く感じからして相当広いのは間違いない。

 入ってすぐの明るいところ、棚がたくさんあって荷物が散乱しているあたりで、何やら箱から部品をより分けているドワーフがいた。

 エディ達のことを「小さい」と言ったが、背を伸ばしてこちらに近づいてくる彼の身長も同じぐらいだ。ただ、その各部のパーツはたくましい。

 がれきの隙間を通るのに障害になりそうな腹回りだけではなく、腕も足も、肩の盛り上がりも筋肉が詰まっている。

 頭はゴーグルつきのヘルメットを被っており、顔はヒゲを長く伸ばしており、まさに典型的なドワーフという容姿をしている。


「そうじゃないんだが、場所がわかったぞ。フナ=バシから車で2時間ぐらいだそうだ。こいつらは『モドキ』に誘拐されて……」

「モドキ?」


 おやっさん――センゴクはモドキについて知らなかった。これはしょうがない。機械技師である彼が、荒野地帯での探索戦士の仕組みに不案内なのは当たり前だ。むしろ、タマサブロウがそのことに詳しい事が異常なのだが、彼は若い頃荒野で活動していたのだ。

 三人のこと、外の状況や今後の方針について確認した後、センゴクの作業についてタマサブロウが確認する。


「そっちはどうにかなりそうか?」

「難しい……電動ドリルぐらいなら組み上がるだろうが、肝心の刃に使えそうな部品がねえんだ。せめて爆発物が無事なら良かったんだが、さすがにな……」

「そうか……ところで、そっちの出口は望み無しか?」

「そっちの出口?」


 何か聞き捨てならない単語を聞いて、エディは会話に割り込む。


「ああ、見てわかるだろう? こんなでかい倉庫だ。デカブツを搬入する為の大型の扉があったはずなんだが……」


 顎をしゃくって背後を指し示すセンゴク。彼の指した方を見ると、そこには派手に天井から崩れた倉庫があった。仮に扉があったとしても、あのがれきをどかさないとたどり着くことすら出来ない。


「おやっさん、アレはどうなんだ?」

「アレか……見てわかるだろう。ただの残骸だ。それに、儂だってドールは専門外だ。特にあんな古いのは……」

「ドール⁈」


 子供達三人の声が重なる。

 もちろんドールは三人とも知っている。

 フナ=バシでも最下層から斜路を下りて外に出て行くドール――巨大人型ロボットを見かけることがある。

 荒野をうろつく巨大な生物の襲撃を撃破しうる唯一の存在で、これを持っている探索戦士はそれほど多くない。


「お、おまえらそういうの好きか? 奥にあるから見てこい」


 言われて三人は、脱出方法について議論する大人二人を残して倉庫の先に進む。やがて棚が並んでいる区画を越えて、その場所にたどり着く。

 入り口からだと薄暗くなっていて見えなかったが、近寄ってみれば薄明かりでその偉容が浮かび上がる。


「うわ……」


 声を出したのはヤオ。アデルとエディは声も出なかった。

 そこには全高8mの巨大な人型が立っていた。


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