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005_がれきの先

 左右の通路にはレーザータレットが残っていることが、3人の孤児の犠牲によって判明した。

 存在するのがわかっていれば、モドキの男達がそれを処理するのに苦労はなかった。

 エディ達残りの3人は、それを後ろから見守る。

 男達が背負っている背嚢の膨らみを見れば、さっきまでの部屋捜索で大した収穫が無かったことはエディにもわかる。つまり、まだ無理をする――いや、エディ達が無理を()()()()()のだということも……


「次だ」


 エディ達はやはり部屋に先に入れられ、内部の安全をその身で確認する作業にかり出される。

 だが、奥に行くにつれて崩壊の度合いはひどくなっていき――そのおかげで生きているレーザータレットはあれで最後だったが――大した収穫は上げられないままだった。


 そして今。


「完全に崩れてやがるな……」

「どうします? こんな稼ぎじゃ……」


 目の前にあるのは崩れ落ちた通路だ。

 完全に天井が崩れ、土砂が散らばっている。土砂を掘り返してみれば、崩れたコンクリート製の天井や壁のなれの果てを見ることが出来るだろうが、もちろんそれは何の稼ぎにもならない。

 そのとき、モドキの一人が声を上げる。


「ここ、隙間がありますぜ。なんとか無理をすればいけるかも」

「何っ?」

「どこだ?」


 それは、比較的無事だった右の壁の最下部。天井が斜めに崩壊したのか、そこにはちょっとした隙間があった。


「……ちくしょう、狭すぎる」

「装備全部外せ」

「いや、それでも無理です。肩が入らないです」

「そうか……なら」


 そこでリーダー格の男がエディ達に向き直る。


「お前達なら、ここから進めるかもしれねえ。なんか見つけて来い」


 なんか――と言われても、困ってしまう。大体さっきまではエディ達を追い出して探すところを見せてくれていなかったじゃないか。

 そのような意見は、3人で一致していたのだろう。その雰囲気を感じ取って、エディはリーダー格の男に問いかける。


「なんか、というのは機械か? 部品はだめ?」

「そうだな……部品は、構造が複雑そうなら持って帰れ。出来れば外装がちゃんとある機械単体があれば良い……ああ、外装は多少傷付いていても良いぞ」

「わかった……なあ、稼げるものを持って帰ったら俺たちを連れて帰ってくれないか? それならやる気が出る」

「は? あ、いや……まあ、考えておいてもいいぞ」


 返事の感じから、あんまり期待はできないな、とエディは思う。

 そもそもこうして誘拐されて帰ってきた孤児の噂なんて聞かないのだ。連れて帰るぐらいなら、現地に置き去りにするか殺してしまえば良い。そうすればその分荷台が空くし、フナ=バシの警備隊に告げ口されるリスクも減らせる。

 だからこの、モドキ達と離れることができるこのタイミングで何か突破口を見つけないと、エディ達の命はない事になる。


「ヤオ、先頭いける?」

「あ、はい」

「次が俺でアデルは後ろな」

「うん」


 女の子のお尻を眺めるのは無しとして、先頭は遺跡に詳しくて一番小さいヤオが適任だ。エディが進めなくなってもヤオならば抜けていけるかもしれない。

 そして三人、一列になって腹ばいで小さな隙間を進んでいく。先は暗くなっていて本当に広いところに出られるのかは不明。だけど少なくとも、がれきの隙間にいる状態だとレーザータレットも届かないだろうからその点は気が楽だった。

 アデルがエディに話しかけてくる。


「このまま向こうに抜けられて……」

「うん」

「外につながってたら良いんだけどね」

「うーん、そうなら良いけど、食料が……」

「ああ……それもそうね」


 三人とも、さらわれてから何も口にしていない。まだせいぜい昼過ぎだろうが、せめて水分ぐらいはとっておきたいし、何か食べ物が無いと夕方まで持つかどうかわからない。スラムの孤児はいつも飢えていてやせっぽちだから、皮下脂肪の貯蓄なんて贅沢なものはあてに出来ない。


「ああ、行き止まり……いえ、こっちの方に……」


 状況を口にしながら、ヤオは体を反転させて仰向けになる。後ろからエディが見ていると、どうやら上の方に隙間を見つけてそこから進んでいるようだ。


「あ、広いところに出られました」

「よし、じゃあ俺も続くよ」


 やがて、エディが苦労しながらヤオと同じように隙間をくぐり抜けて外に出る。最後のアデルはエディより細いし、女の子だから柔軟性は男より高い。さほど苦労すること無く出てきた。

 アデルに手を貸しながらエディは周囲を確認する。

 暗い。こちら側は通路の照明もダメになっていて、先には暗闇が続いているようだ。

 

 暗いところを進んできたのである程度目は慣れているが、それでも先は見通せない。だが、崩れ落ちた通路の先で電気も通ってない割には原型を止めている、とエディは思う。


「さすがに電気が来てないからレーザーは飛んでこないと思うけど、注意して進もう」

「了解。とりあえず何を探すの?」

「食料があればいいんですがねえ。大崩壊で放棄されたと考えても、まだ100年は経ってないから、長期保存のものなら可能性ありますよ」


 ヤオの言うことはもっともだ。今の時代、長期保存を目的とした食品の消費期限は100年が当たり前だ。期限切れのものがたまにスラムに放出されることもある。


「私は食べたこと無いなあ……」

「俺は一度だけあるな。仕事先で仲良くなったおっちゃんが一つ分けてくれた」

「どうだった?」

「まあ……うまかったよ。少なくとも標準食よりは、な」


 標準食は味も食感も投げ捨てて、必要栄養素が取れることだけが美点の底辺の食べ物だ。孤児には無償で配給されているので皆食べ慣れている。

 もちろん最低限の量だが、スラムの孤児の死因として餓死を聞いた事が無い程度には彼らも恩恵を受けている。


 言葉を交わしながらも、一同はゆっくりと暗い通路を進む。残念ながら、左右にあるはずの部屋はドアごと潰れていて、通路にがれきをまき散らしている。やはりここでも通路の方が頑丈だという法則は変わらない。


「……っ、伏せろ!」


 角を曲がるときに気配を察知し、エディは自身も体を低くしながら警告を発した。

 アデルは冷静にしゃがみ床に手をつき、ヤオは半ば尻餅をつくように倒れ込んだ。

 その上を何かが通過する。

 レーザー? いや、矢?

 カン、という音を立ててそれは背後の床に落ちる。


「避けられた? いや、そもそも背が低い……子供?」


 声のする方を確認すると、なんだか妙に小柄な影が少し先にあるのが、アデルとヤオにも感じられた。


「おーい、悪いな。危険生物かと思った。こっちに出てきてくれないか? 何もしない事は保証する」


 アデル、ヤオは、すがるようにエディの方を見る――だが、いつの間にか彼の姿はそこには無かった。


「本当だ。ほら、武器だってここに置くから……」


 人影は言葉を続けながら、床に何かを置くような仕草をした。

 そのとき、突然エディの声が予想外の場所から聞こえた。なんと人影の向こうだ。いつの間に?


「大丈夫そうだな。アデル、ヤオ、こっちへ来い」

「うえっ、どうやって背後に?」


 小柄な人影が驚いて飛び退くのが二人からも見えた。


「秘密の奥の手だからあんまり言いたくない……えっと、なんか明かりとか無い?」

「ああ、ちょっと待てよ……」


 そして人影は胸元を探り、そこからライトを取り出して点灯する。いきなり明るくなって、三人とも目がくらむが、やがて目が慣れて周囲の情景が見える。

 人影は――


「犬……の人?」

「まさか、コボルト族?」


 アデルとヤオは驚く。そこには戦闘服を着た小柄な体に犬の頭が乗った人物が立っていたのだった。


 ――コボルトか……初めて見た……現実だとこんな感じなんだな


「そうだ。俺はフール(FOOL)……いや、自治区の方が通りがいいか……自治区の軍に所属している。コボルト族のタマサブロウだ。お前さんらは?」

「フール? 自治区? まあともかく、こっちはフナ=バシのスラムの住人だ。モドキ共にさらわれて未踏遺跡に連れてこられた」


 ある程度物知りであるエディでも知らない単語があるが、まずは無法者じゃ無さそうなので、安心して彼は状況を明かした。


(むしろ、切り札を切る必要が無かったかもな……)


 ちょっとした後悔を感じながら、彼はタマサブロウとの情報交換に臨む。


「とりあえず座ろうぜ。立ち話だとなんか落ち着かないからな」


 タマサブロウはそう言って、武器を拾い上げて座れそうな場所を探す。彼の武器はクロスボウというのだろうか、引き金で矢が飛び出す弓だ。


「ヤオくん、こっち空いてるわよ」

「うん、ありがとう」


 ヤオとアデルが腰を下ろしたのを見て、その側にエディも腰を下ろす。簡単に名乗り合い、とりあえず話をする体勢にはなった。


「しかしやっぱり未踏遺跡だったか……荒らされた気配がなかったからそうだと思っていたが……」

「あ、タマサブロウさん。もしかして食料や水を持ってませんか? 私たち夜にさらわれてから飲まず食わずで……」


 アデルの言葉に、タマサブロウは背嚢を探る。


「わけはない。今はボトルと食料1パックしかないが、向こうに倉庫があってまだいくらでも残っているから、これは君たちで分けてくれ」


 言って、大きなペットボトルと保存食のパッケージを差し出す。


「あ、ありがとうございます」


 それらを受け取り、アデルは彼に頭を下げる。

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