004_遺跡探索
ロビーの埃が舞い上がる。大股で男達とエディ達の前にやってきたのだ。
気になってエディが入り口を振り返ると、二人が残って小銃を構えている。銃口は油断なく孤児の集団を狙っており、これでは外に走って逃げる事も出来ない。
「――これから、おまえらは分かれてこの先に行って貰う。後ろから俺たちが銃を構えて着いていくからおかしな真似をするんじゃねえぞ」
予想していたとはいえ、そういうことになった。
このロビーはとりあえず安全そうだ。だけど、この先は遺跡の防衛機構が生きているということだ。そうじゃなければ、わざわざ孤児をさらってくる意味も無く、そのまま遺跡荒らしをすれば良いということになる。
だから確実に、致死性の罠や防衛機構が存在している。
「おまえらはこっちだ」
最初にひとまとめ、6人が連れて行かれた中にエディ達も含まれていた。先頭で固まっていたからわざわざ引き離されることが無かったのは彼らに取って幸運だった。
連れて行かれた先は右奥にある閉まったドアの前。ドアはこの遺跡の設備らしく鉄製の自動ドアだった。さすがに気密扉のような大がかりなものでは無いが、ドアの上に赤いライトがついているのにエディは不吉なものを感じた。
普通に考えれば、この先は立ち入り禁止エリアだ。一歩入った瞬間に遺跡の防衛機構が作動して彼らを排除しようとしてくるだろう。
付いてくるモドキは3人。全員小銃を構えている。いい加減そうな連中なのに、そこは真面目だ。とはいえ、銃を持っていなかったとしても成人男子に対して痩せた孤児達が何か出来るわけでもないのだ。こちらには女子もいるしひときわ体の小さなヤオもいる。
「さっさと入れ」
モドキが言うが、自動ドアなどは見たことがないのが孤児達だ。スズキやデス=リバーならともかく、普段ブラジルのコンテナ山周囲をうろうろしている彼らにとって、このドアがどうやって開くのか――いや、そもそもこれがドアなのかどうかわかっていない。
――なるほどなあ、だったら率先して動きべきだろうな……
エディは意を決して、ドアの前に立つ。果たして重量感知か赤外線感知か、ともかくドアはちょっとがたつきながら左右に開く。
(まあ、何が来ても切り札はあるし、なんとかなるだろう)
もちろん、他の孤児とは一線を画す知識(自動ドアを知っている)なども助けになっている。だが、切り札も知識も、フナ=バシで目立たず生きていく為に隠している。果たしてそれを表にする場面があるのかどうか、今の段階の彼には想像がつかない。
ドアの先は、暗くは無かったが、通路を照らしているのは赤い照明。それは死を連想させ、踏み入れる事をためらわせるものだった。
が、当然モドキ達にそんな事は関係ない。所詮孤児達は『鉱山のカナリア』、ただの消耗品なのだ。カチャという音は銃の安全装置を外した音か……エディはその音に急かされるように、赤い照明の中に足を踏み入れる。
「アデル、ヤオ、俺が先頭だ。ついてこい……」
「う、うん」「大丈夫ですか?」
さしあたって動く物は見当たらない。ややロビーより崩壊の度合いがひどいように見えるが、歩くのに不自由は無い。
通路はまっすぐ先に続いていて、途中に扉などはなさそうだ。
通路はしばらく進むと先で左折しているのが見えた。
壁は赤い光に照らされているが、見た感じ元は白く塗られているようで、崩れ落ちたところはコンクリートの素地が出ている。
床はがれきや、何をぶちまけたのか何かの箱、プラスチック片などが散らばっており、エディは再度ボロ靴が無事だったことに感謝した。
曲がり角が近づいて来る。
エディは二人に待っているようにジェスチャーをして、角に取り付いて曲がった先を確認する。
先の通路も似たような荒廃具合だったが、扉や横道がある事がわかる。
視界で何かが動くのを感じ、エディは慌てて頭を引っ込める。
「やばっ」
一瞬、恐らく0コンマ何秒というタイミングの差で、飛来した光線からエディは逃れることが出来た。
天井のタレットから発射されたレーザーは、何本かの光条となって、床に、そして壁に焦げ跡を作っていく。
勢いが付いて尻餅をついたエディは、その光条に一番近い位置で、通路の建材、あるいは塗料が焼け焦げる嫌な臭いを感じて顔をしかめる。
「どけっ!」
エディは肩を掴んで後ろに引っ張られる。いつの間にか、モドキ二人が近づいていたのだ。かなり後ろから銃を構えて付いてきていたのは知っていたが……
「レーザーか、天井だな」
「そこのそいつを放り出しておとりにすりゃ良いんじゃねえか?」
「いや、今の動きは良かった。早々に使い潰すのはもったいねえ」
「それもそうだな……」
今の短い会話でエディは自分の生死の天秤が揺らいだと感じた。結果良い方に傾いたのは幸運だったが、エディは恐ろしさを感じてちょっと身震いした。
――わかってたけど、ひどいな。昔の奴隷制度もびっくりじゃねえか……
「エディ?」
「ああ……うん、大丈夫」
手を貸して立ち上がらせてくれるのはアデルだった。繋いだ手の冷たさは、彼女も怖がっているんだろう。
「よく……気づけたね」
「まあ、予想していたから……」エディはあえて強がって見せた。
とはいえ、それでもギリギリだった。
ヤオはどうか、と見ると、彼は壁に張り付いて縮こまっている。この通路は安全だから、その位置取りに意味は無さそうだが、そうしたくなる気もエディにはわかる。
「大丈夫?」
「え……ええ、はい」
アデルはヤオの肩を抱いて手を握ってあげている。そうなると、男の子のヤオとしては無理矢理にでも『男の子』を演じる動機が生まれる。カラ元気だろうがなんだろうが、ともかくこの場では生きる気力が必要だ。
やっぱり、アデルは頼りになる。度胸もあるようだし、仲間にしたのは正解だと、エディは思った。
「いくぞ」
モドキ達二人はそこらに転がっているがれきを角の向こうに投げる。たちまちそれを捕捉したレーザーが飛んでくる。何本もの光条が先ほどと同じように床に焦げ跡を作り出す。
「今だ!」
途切れる時間を計っていたのだろう。二人が上下で角から銃を突き出し、連写し、爆発音とともにレーザー砲の破片が飛ばされてくる。
それを見て、エディはここまでのがれきのいくらかは、すでに処理されたレーザータレットのものだったと気づく。
「ばか、一基とは限らねえぞ!」
後ろの男――一人だけ一行の最後尾から指示を出していたリーダー格の男の声が飛ぶより早く、前に出た二人にレーザーが降り注ぐ。
「ぐわあっ」
一人、被弾した。もう一人はたまたま、恐らく狙いからはずれていたために無傷だったが、一人が腕を押さえ、倒れ込む。
「全く、そんなだから……」
そんなだから、モドキのままなんだ。という言葉を考えると、このリーダー格はまだ向上心がある方なのだろう。だが、上手くいかないからといって子供をさらって遺跡のカナリアにするんだからモドキはモドキでしか無い、ということだ。
「大丈夫っす、かすっただけっすから」
「そうか、ならまだいけるか? さっさと進むぞ。他の連中に先を越されるのもしゃくだ」
モドキ達、車両に残った面々を合わせて総勢15人は、実際には3つのグループの合同だ。この通路を進んでいるグループは普段は4人で活動しており、一人が車両の見張りに残っている。
そういうわけで、3人のチームワークという点では心配いらなかったのだが、人数の点では他のグループに遅れをとっている。遺物は見つけたグループの物になるから、後れをとるのは避けたいのだ。
「チビを放り出すか?」
「それほどでもねえだろ。さっきと同じように処理しろ」
危うく、犠牲を強要されそうになったが、リーダーの男は冷静で、このグループの孤児6名は一人も欠けること無く、曲がり角を制圧した。
全員で角を曲がり、次の通路に移動する。
タレット2基が爆発した焦げ跡が天井にあり、通路は先に長く続いているようだ。突き当たりはここからでは見えないが、途中に左右に続く通路が見える。そして、この通路には左右に等間隔に扉があって、部屋になっているとわかる。
「よし、手前の部屋から確認していけ」
どうやらモドキ達はこの角で待機するらしく、危ない探索は孤児達の仕事というわけだ。
エディは皆が動き出す様子が無いのを確認し、ため息をついて仲間二人の手を取った。
「いくよ」
こういう地下施設にありがちなのだが、通路は避難経路なので丈夫に出来ている。それに対して部屋というのは空間が広いので強度が低い。
その様子はエディ達が入った部屋の様子で見て取れる。
デスクが倒れ、壁が崩れて棚ががれきに埋もれている。
元は研究室だったのかオフィスだったのか、よくわからない部屋に入り、危険が無いとわかれば、すぐに廊下に追い出される。
代わりに入ったモドキ達が中でごそごそやっているのは、遺物や使えるものをあさっているのだろう。その間、エディ達は待機を命じられていた。自分たちが探索中に他の部屋の防衛設備に引っかかっては対応不能、ということなのだろう。
暇になったエディ達は状況の認識合わせと今後の事について話し合っていた。
「こいつらを部屋に閉じ込めたらどうかな?」
アデルが小声で言う。それに対してエディは冷静だ。
「うーん……無理だな。どうせロビーにまだ何人か残ってるし、閉じ込めるにしたって部屋に鍵なんてなかったよな?」
「PLAIS系、いわゆる科学遺跡なんで、電子ロックは基本あるはずなんですけどね……非常事態モードになっていてロックは全部無効のはずです」
ヤオはさすがに遺跡の知識が豊富だ。通路の照明が赤いのが、非常事態モードの特徴で、人員待避が最優先の状態らしい。
「でもこんな位置に科学系ってどうなんだ? 大崩壊以前ってここは帝国だろ?」
「そうなんですけどね。僕が連れて行ってもらった遺跡には科学系の施設も多かったですよ。それに、他ならぬフナ=バシだって科学系施設でしょう?」
「ああ、そういえば……あれが魔法至上主義の帝国の都市というのがすでに変だよな」
「ねえ、魔法なんて私は見たことないけど、本当にあるの?」
アデルが口を挟む。
フナ=バシではテクノロジーの産物はいたるところで見られる。そもそも全13層、最上層で400mを超え、一層が縦横500mを超える巨大な構造物が100年以上も崩れず存在すること自体が最先端科学の産物なのだ。
それに対して魔法、すなわち異世界から持ち込まれた、科学で説明できない別体系の法則は、日常フナ=バシで見ることは無い。
「僕はありますよ。探索戦士が瞬間移動していくのを見ましたから」
「瞬間移動、そんなのがあるのか?」「本当?」
エディとアデルは驚く。
ヤオの説明によれば、その探索戦士はフナ=バシでもトップの一角で、ドールも車両も使わずに遠方の遺跡を探索しているらしい。
ドールが無いと、荒野の大型モンスターに対処できない。車両が無いと移動速度や輸送量が限られる。常識的な探索戦士ならどちらも必須だ。その常識外れを可能にするのが瞬間移動能力という別の常識外れだ、ということなのだろう。
「他にも……」
ヤオが続けようとしたとき、突然子供の悲鳴が聞こえる。見ると、同じように待機を命じられていた子供達が、いつの間にか廊下の先に進んでいて、横の通路からのレーザーに体を貫かれている瞬間だった。彼らは折り重なって倒れ、そしてピクリとも動かない。
「勝手なことしやがって……」
部屋の中を探っていたモドキ達が銃を構えながら出てきていた。
彼らに取っては、自分たちに分配された探索『資源』が無駄になったというだけのことだ。舌打ちをしながら部屋の捜索に戻る。
だが、エディ達3人にとっては、それが自分たちの近い未来の姿であり、今の状況が素早い死か緩慢なる死かの二択であることを思い出させるのに十分な恐ろしさを伴っていた。
ぎゅっとエディの手を握ってくるアデル。そこまではしないものの距離を詰めてくるヤオ。
エディは二人より、少なくとも精神的にはしっかりしている。それは精神年齢が高いことと、そして切り札を持っているからだが、それは彼の命綱である秘密でもある。
(どうしたもんだろうな……)
他人に知られるのは避ける。その方針は変わらない。
だが、もしかするとこの遺跡で、エディは切り札を切らなくてはいけなくなるかもしれない。
そのとき、アデルとヤオを巻き込むべきかどうか……エディにはまだ決心が付いていない。




