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018_黒幕

「おい、ジル」


 声をかけたエディの姿を探してきょろきょろと周りを確認する姿は、彼にとって見慣れたものだった。

 なんとなれば、エディがグループ内で一番話していたのは彼だったのだから。


「ここだよ」


 隠れていた場所からエディが姿を現す。


「エディ、無事だったのか……アルは? シンディは? みんなは無事なのか?」

「……生き残ったのは俺とダンだけだ。他は遺跡で……」

「……そうか……」


 ジルは肩を落とす。その姿をエディはじっと観察する。

 まだ、ジルがこの誘拐に関わっていないとは限らないのだ。


 この場所はジルの個室だ。

 コンテナで構成された寝床は、エディや年少の子供は共用の雑魚寝で、年長になってくると外での仕事で私物が増え、その分コンテナ一つ当たりの人数が減っていく。

 ジルの場合はまとめ役ということで、小さいコンテナを占有している。だが、それはグループ全体の共用物資の保管場所や、メンバー個別の相談、来客を出迎える場所としての意味合いがあるから、私利私欲からの占有ではない。


 エディも、ジルも昼間は外で働いているため、二人が話すときはこの場であることが多く、その意味でもかつての日常的な光景といえた。


「こっちとしては7人攫われて生き残りが2人、でそっちはどうなっている? 大騒ぎになっただろう?」

「そうだね……まず、朝起きて気づいてすぐにガルボさんに面会を申し込んだんだけど外出中だって取り巻きに追い返された。エディはやっぱり疑ってる?」

「上納金を取っている以上、あいつが見張りを配置してないとおかしいだろ? この山には子供だけじゃないんだから……」


 山に顔役はいても支配者はいない。そもそも顔役が山を所有しているわけではないのだ。

 元々の話は大爆発(Gd)まで遡る。フナ=バシも被害を受けたがダメージは少なく、都市機能を残していた。そこに、周囲の壊滅した都市や集落から避難民が集まってきたことで増加した人口を収容するために置かれた仮説住宅が元なのだ。


 このときの避難民受け入れで治安の悪化を懸念した都市上層部が下から三層を上層と隔離したのが今の『最下層』の始まりだ。

 必然的に最下層は無法地帯となり、その統治には都市上層部は関わらない、完全に放置の状態になっている。

 住民は自分で安全を確保する必要があり、そのために徒党を組んで山ごとに身を守るための仕組みを作ったのが今の体制で、その住民をまとめるのが顔役だ。


 当然、不義理なことをすれば他の住人から攻められ、地位を失うことになる。子供ならごまかしたり脅迫できるが、大人の住人はそうはいかないのだ。


「それで、その後はどうしたんだ?」

「他の山のグループと連携しようということで集まった。そこで他でも攫われていると初めて知ったんだ」

「そこで怪しい奴はいなかったか?」

「おい、エディ、お前まさか……」

「大人達が信用出来ないのは元からわかっている。だけどそれだけでこんな大規模な誘拐が可能だと思うか?」


 ここが分かれ道だ。

 エディはジルの反応を注意深く見守る。


 ジルは……何か言いかけて思いとどまる。拳を握ったり開いたりしながら、眉をひそめて、やがてひときわ強く拳を握って顔をあげる。


「実はな……何人かから近々卒業したいという話を聞いてたんだ。それも一度にだ。知ってるだろう? 探索戦士グループが見習いを受け入れるにしたって一人ずつだ。それにいつもあるわけじゃ無い。半年や一年待ちなんてざらだろ?」


 他ならぬジル自身がその順番待ち中だ。話をしているグループが、次に車両を大型のものに買い換えるタイミングでジルを見習いとして受け入れてくれる話がついている。

 だが、そんな順番待ちをしているジルより先に、しかも複数人が一度に加われるようなグループは、探索戦士の多いフナ=バシでも普通じゃないだろう。


「それと、他のグループと話したら、同じように近日中の卒業がいくつかあって、人数が減るという話になったんだ。今、いくつかのグループを合併しようかって話になっているんだよ」

「どこのグループに入るとか、抜ける奴から聞いた?」

「それが、どこか言わないんだよ。顔見知りの探索戦士に聞いてみたけど、そんな話は聞いたことが無いらしいんで、僕としては心配していたんだけどね」


 ここまでで、どうやらジルは関わっていないらしい、とエディは判断した。元からジルはちゃんと正規の探索戦士グループへの加入が決まっているのだから、このまま待っていればいいのだ。無理して犯罪の片棒を担いでまで誰かに気に入られる必要は無い。


「じゃあ、俺が知ってるのを話すから、黙って最後まで聞いてくれ」


 エディは、誘拐犯が複数のモドキ達の集団であったこと、彼らは子供達を置いて戻ってきていること、30人ちょっと連れ去られて生き残りが10人であること、今は安全な場所に隠れていることなどを伝えた。


「……それで、俺としてはこの件の黒幕を探ってこようと思うんだ。だから……」

「危ない、やめた方がいい」

「そうでもないさ……そうだな、よく見てろよ」


 そう言うとエディは、パチッと指を鳴らす。

 指先を、そしてエディを見ていたはずのジルは慌てて後ろを振り返り、荷物の影を探り、コンテナの入り口を開けて外を確認する。だが当然、そこにエディの姿は無かった。


「……とまあ、こんな風に消えることが出来るんだ」

「まさか……魔術? エディは帝国人だったのか?」

「そうかもしれねえが、魔術ってもっと呪文をうにゃうにゃ唱えてるから違う気もするんだよな……ともかく、こんな風に隠れられるから俺だったら危険はないんだ」

「そうか……でも気をつけてくれ」


 ジルはエディの「逃げ足が速い」という噂と今見た現象が照合する事でひとまず納得した。


「俺の方はそういう風に動くけど、ジルは今の計画を進めておいてくれ。20……21人死んでしまったから、恐らく誘拐に関わってる連中を追い出したら人数が少なすぎる。被害に遭ったグループ同士で合併ってのは……悔しいけど唯一の生き残る道だと思う」

「あ、ああ……」


 ジルはふと何が「悔しい」のかと気になったが、エディがすでに誘拐の協力者の話を盗み聞きしているとは想像できなかった。だから、元々そのつもりであった合併計画を進めることに異存は無い。


「じゃあな、2・3日中に連絡する」

「ああ……あ、お前とダンが生き残ったってことは……」

「まだ黙っておいてくれ、今はその方がいい」


 言い残すとエディは外に出て、すぐに見えなくなった。

 残されたジルは、グループの行き先をあれこれ考えて、結局その日は遅くまで眠りにつけなかった。



 ********



「おう、戻ってたか……」


 夜、テントに入ってくるタマサブロウはちょっと酒臭い。

 たちまち子供達が遠ざかる。

 実は眠っている最中の彼は、結構子供達の人気者で、深く寝入っているのを良いことに触ったり撫でたりされていたのだが、さすがに酔っ払いで酒臭いのでは魅力半減だ。

 

 声をかけられたエディは臭いに顔をしかめながら返事をする。


「おかえり、そっちはどうだった?」

「オークラ」

「やっぱりか……俺の方でも怪しいのをたどっていったらそこだった」


 オークラ・ギルドはブラジルで5本の指に入る犯罪組織だ。麻薬や盗品の売買、娼館や賭場など一通りの犯罪行為を網羅している。ただ、その出自は探索戦士のグループだったはずで、今でもそちらとのつながりは強い。


 タマサブロウが聞いた範囲では、オークラ・ギルドから闇市場に多量の遺物が出品されたそうで、探索関連が調子よいか、何か大きな発見をしたのだと噂になっていた。


 あのとき、遺跡から逃げ帰ったモドキたちは、ちゃっかり遺物を確保していた。脅威が巨大なドールであり、天井の高い倉庫から動くことが出来ないと見抜いていたため、通路は安全地帯だと判断したためである。

 帰り道でエディ達のようにブライトサイドに襲われることも無く、彼らは無事フナ=バシにたどり着いていた。そして彼らの遺跡探索の成果が早速ブラジルの闇市場に出品されていたということになる。


「俺の方は……」


 エディは誘拐に関わっていると漏らした同じグループ所属の三人を隠れて追跡した。その結果、酒場でやたら上機嫌で大騒ぎをしているグループと合流していた。

 遠くから見た感じであの遺跡にいたモドキで間違いないと確信した。

 そこから、モドキ達が店を出るまで待ち、後をつけた結果、連中が南東に向かうのを確認し、そこで追跡を打ち切った。

 ブラジル南東側の一角は、オークラ・ギルドの縄張りで、その中に入っていく以上は他組織とのつながりがあるモドキではあり得ない。


「で……どうする?」


 タマサブロウは一通り話し終えたエディに問いかける。


「……うん……優先順位」

「何?」

「優先順位を整理しよう。誘拐に関わった連中に仕返しするのは優先順位が低い。一番は、外に出る以外の、スラムに戻る子達の安全だな。それが得られるなら別に誘拐した連中と和解したっていい」

「極端だな……やられたらやり返す、そんなの当たり前だろう?」

「最後まで面倒を見れるならそれでいいけど、スラム孤児のグループなんて所詮は生き残るための一時的な集まりでしか無い。誰もが入れ替わって、それでも必要だから群れるんだ。そんな状況を壊さず、今後も続けていくことが第一目的じゃないか?」

「ふむぅ……」


 テントの中を見渡すと、子供達のほとんどは寄り集まったまま眠っている。明日は彼らとも話をしないとな……とエディは考えながら、こちらを見つめているアデル、ヤオ、ミリィに気づく。そうだ、まずはこの三人と、だな。

 エディは黙り込んだタマサブロウを残して、彼らの元に移動する。


 

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