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影華(えいか)の屋敷  作者: 沙波


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38/39

真相

 目を覚ますと、見慣れた自室のベッドにすっぽりとミーガンは収まっていた。心なしか体がだるい。

 喉が渇いた。

 体を起こし、水を飲みたいと思ったのだが、あまりの体のだるさに耐えきれず、また目を閉じた。

 そんなことを二、三回。繰り返し、次に目を開けた時、ベッドサイドにケナードが立っていた。

「ケナード……?」

 か細く掠れた声で呼びかけると、大きく目を見開いてこちらを見る。

「水を…………何か飲み物はないかしら」

「こちらを」

 ケナードはすぐにサッとグラスを差し出す。やっぱり、彼は冷静そのものだった。受け取ろうと手を伸ばすのだが、体がうまく動かない。そんなミーガンの状況を見かねて、体を起こすのに手を貸してくれた。

 ゆっくりとグラスに口を近づけるのだが、一瞬、どうやって飲むのだっけとわからなくなってしまった。それでも実際に唇に水分が触れると、本能で水を飲む感覚を理解して、少しむせたけれども、問題なく水を飲むことが出来た。

「目を覚まされて安心しました。三日、寝たきりでしたので」

「三日も?」

 驚いたのはミーガンの方だ。

「意識を失う前のことは覚えていらっしゃいますか?」

 ケナードの慎重な問いかけにミーガンは頷く。

「私の部屋にミゲルが来たわ。エイブリルが忙しいからと、代わりに彼が持ってきたアイスティーを飲まされて、影華の君の香りが…………あれから、一体何がどうなったの? ミゲルは?」

 ミーガンは、ハッとしてケナードを見た。

「亡くなりました」

「え?」

「全ての罪をお認めになって、庭の水盤の上で一人、静かに」

「え?」

 声こそ驚いて見せたが、だんだんと意識が現実に戻ってくる。そうすると、うすうすそうではないかと感じていた自分もどこかにいて、驚きはほとんどなくなっていた。

「ミゲル様は自らの責任であることをお認めになって、自殺を図られました」

「……」

 ミーガンは、そこまでの事実を飲み込めるだけの許容量はなく、ただ首を傾げるしかなかった。

「つまりは、貴方の読み通り犯人が動いたという訳ね」

 ケナードの作戦では、犯人の狙いは伯爵の地位であり、ミーガンがその地位に近づけば、きっと犯人は動く。確かに影華の君の毒を用いるなど、狡猾で頭の良い面も窺えるが、殺害された人物を見ると、感情で動く短絡的な部分がありそうだとケナードは考え、カンニガム伯爵にも協力を要請し、ミーガンが次期伯爵候補になるという一芝居を打ったのだ。

「ミゲル様お一人の犯行ではありません。エイブリルが共犯でした」

 ミーガンが驚く言葉を発する前に、ケナードはそのまま話を続ける。

「それはそうですが、結局お嬢様を危険な目に……ずっと謝りたいと思っていました。本当にこのまま目を覚まさなかったらと思うと、悔やんでも悔やみきれず……」

 ケナードの手に自分の手を重ねた。

「もし、私がどうにかなっていたとしても貴方のせいではないわ。私の意志でやったことなのだから」

 ミーガンの言葉に呼応し、ケナードはミゲルが毒の精製に成功したことや、エイブリルの罪と死について話した。

「エイブリルはどうして、ユーラ様を殺害したのかしら?」

 話を聞いて、その疑問が生まれたのは当然だったと思う。しかし、ケナードは少々、視線を外した。

「ユーラ様は――お嬢様が見ている聡明な世界を壊してしまうようで申し訳ないのですが、私の目から見て言えるのは、見た目以上に狡猾な側面を持ち合わせた女だったということです」

「あ――ミゲルにしつこく付き纏っていたと言う話?」

「ご存知でしたか?」

「噂になっているみたいだったから、少し聞いたわ。ケナード、貴方も被害者だって」

「彼女は突然この屋敷に入ってきた異分子のような存在ですからね、私を自分の味方に引き入れようと誘いの手を向けてきました。けれど上手くいかないことがわかると、すぐに別の方向に――ミゲル様に近づいた。ミゲル様に心酔しているエイブリルがよく思わないのは当然のこと。犯行は簡単。幸か不幸か当初、ユーラ様付きの侍女として選ばれたのがエイブリルでした。自身が運んでいく飲み物に少々混ぜるだけですから。もちろん、最初はエイブリルが、疑われますが、犯行に使われた影華の君について、自分が精製できるとはきっと思われないだろうから、一気に疑いは晴れます」

「でも、ミゲルは気づくわよね?」

「そこは一蓮托生ですから。暴露すれば、自分も疑われますからね。逆にこれを利用したのでしょう」


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