次期伯爵候補
「次期伯爵の第一候補として、私はミーガン・カンニガムを指名する」
伯爵のその言葉を聞いて、ミーガンは自分の右手をもう片方の手でぎゅっと握りしめた。
カンニガム家の全員を集めた執務室で、伯爵の言葉に、誰もが青天の霹靂。伯爵とミーガンに戸惑う視線を交互に向ける。
「しかし、……伯爵。ミーガンは学園にいるばかりで、伯爵家の経営については何も」
ランディが情けない声でそういった。
年の離れた兄で、ランディのことを無条件に信頼していたし、頼っていたのだが、そのわずかながらも敵意を含んだ言葉を聞いたミーガンは頭を項垂れる。「これは決定事項だ。話は以上」
カンニガム伯爵はそう言って立ち上がると、部屋を出ていった。そこに残されたミーガンは一人、いたたまれない空気に包まれる。
「一介のしがないメイドである私がこんなことを言うのはお門違いかもしれませんけれど、お嬢様は伯爵様にどうやって、自分を次期伯爵にと売り込んだのでしょうか」
エイブリルはミーガンに対して痛烈な批判を浴びせた。何も答えずにいると、
「答えられないようなことでもなされていたのでしょうか」
と、エイブリルの言葉がヒートアップしていくので、
「私は何も」
と、だけ答える。
「そうですか。まあ、何をせずともお嬢様が女性であると言う事実は変わりませんものね」
「一体何が言いたいの?」
いちいち棘のあるエイブリルの言葉にミーガンは思わず、乗せられてしまう。
「お嬢様が女性であるだけで武器になるということです。伯爵様とは幸いなことに血筋としては繋がっていらっしゃいませんものね。ユーラ様が亡くなられ、傷心のご様子。その隙をお嬢様が見逃さなかったのだと思いましてね」
「いい加減にして」
ミーガンは言葉でエイブリルを跳ね除けた。
「今のは、さすがに言い過ぎではないか? エイブリル」
助け舟を出したのは、ギャレットだ。
今の今までリディアの肩を持ち、ミーガンのことなんて眼中にもなかった様子だったのに。エイブリルもそこに気がついたようでニヤリと笑みをこぼした。
「あら、またリディア様を置いてけぼりにして、ミーガンお嬢様につくんですか?」
「つくも何も僕はずっとミーガンに配慮してきた。今までもこれからも」
言葉だけ聞けば、さぞ優しい男のセリフに聞こえるが、そんな言葉を吐く一秒前まで、リディアと体を寄せ合っていたのだ。説得力はない。
「あら、本当ですか? 風の噂ですがね、リディア様とはジブソン領時代からの付き合いだと伺ってますけれど?」
「そりゃあ、同郷だから。ジブソン領は他国からの侵攻を許し、悲しみで溢れているんだ。そんな時に手と手を取り合って何の問題がある?」
開き直ったギャレットのセリフにミーガンは呆れることしかできない。
「まあ、美談ですこと。ですが――私が聞いた情報によると、他国の侵攻の前から、ギャレット様には懇意にしている相手がいたけれどその方とは、今は亡きご両親からは付き合いを認めてもらえなかったとか。その方は一体どなたなんでしょうかね……」
ミーガンはもうそれ以上は付き合っていられないと思い、静かに部屋を出た。
扉をパタリと閉めると、どっと疲れが押し寄せる。
エイブリルの言葉は、彼女だけの意見かと思ったが、ミーガンを見る屋敷の人々の視線を思い返すと、誰もがきっとそう思っていたに違いないと感じられ、涙が出そうになった。
一人になりたかった。でも、こんな姿をリベカに見られたなら、叱責されるだろうと思うと少しだけ笑顔をのぞかせる。せめて部屋の中に入るまではしゃんとしなければと、大きく息を吐くと背筋を伸ばした。




