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影華(えいか)の屋敷  作者: 沙波


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お茶会

「美味しいです。これは何と言う茶葉なのですか?」

 マックインの屋敷、自慢のサンルームで紅茶に口をつけたミーガンは、尋ねる。

「クイーンメリーと言います。昔は割と出回ってたそうなのですが、今はもうほとんど手に入らなくて、幻の茶葉と言われているのですよ」

 カリナの説明に頷きながらもう一口、紅茶をいただく。

 紅茶は紅茶なのだが、いつも飲んでいるものとは明らかに違っている。深みがあるというか、やわらかいというか。

「気に入っていただけて嬉しいわ」

 ふわりと笑みを浮かべ、紅茶を飲むカリナの姿に見惚れながら、もう一口紅茶を飲んだ。

 二人がいるのは、マックイン家のサンルーム。ガラス越しに侯爵家が誇る手入れの行き届いた庭が広がっている。その景色と紅茶の味に心奪われていたミーガンだったが、こちらへ近づく足音にふっと自然と視線がそちらへ向かった。

「カリナ。来客中だと聞いたが――」

 心配そうな表情と共に、姿を現したのは、アレンワーズ卿その人だ。目を奪われるような端正な顔立ちは、逆に怖くも見えた。

「ランス。どうしてここに?」

 ミーガンは自分よりも格上のランスに挨拶をするために、席を立ち上がろうとしたが、カリナの声に制される。

「ごめん。友人が来ているとは知らず。近くまで来たから立ち寄っただけなんだ」

 ランスの態度を見て、ほかの誰かが言ったように氷をイメージするような冷たさはない。むしろ、カリナのことを甲斐甲斐しく自ら進んで世話をしたい。そんな様子に見えるくらいだ。

「私はそろそろ……」

 二人の様子を見て、ミーガンは席を立ち上がろうと、ナプキンをテーブルに置いた。

「ミーガン、まだ話したりないわ。せっかく学園に戻ってきてくれたのに」

「ミーガン?」

 カリナの言葉にかぶさるようにランスもミーガンを見た。

「挨拶が遅くなりすみません、アレンワーズ様。座ったまま失礼致します」

「ああ、カンニガムさん。いつもカリナと仲良くしてくれてありがとう」

 ランスはようやく、警戒心をやわらげたようだった。

「ミーガンは私がお呼びしたの」

 カリナは少々強い口調で、ランスを見上げる。

「それは申し訳ない。でも、私も少しだけお邪魔をしていいかな?」

「もちろんです」

 ミーガンは即座に答える。

「ミーガンがそう言うなら構わないけれど」

 カリナの言葉とともに、ランスの椅子とティーセットが次々に用意された。

「これは――クイーンメリーですか?」

 一口飲んだだけでランスは紅茶を当てた。

「流石ですね、ランスは何でもわかってしまうのですね」

 褒め称える言葉を述べる割に、カリナはあまり驚いた様子はない。まるでいつものことだと言わんばかりに、それでもランスは嬉しそうに笑った。ミーガンは彼の博識さに驚きのあまり二人の様子を見つめることしかできなかった。

「買い被りすぎです。カリナの紅茶好きが伝染しただけですよ。それと、仕事柄、他国にも行くことが多いので、様々な種類の紅茶を口にする機会がある。ただ、それだけです」

 そう言えば、ランスは外交官であることを思い出した。元々、アレンワーズ家は外交官の一家であるとも言える。家柄として、他国との繋がりが様々あるのだろう。ミーガンには縁もゆかりもない世界であるが。

「この紅茶はどうしたのです?」

「お父様がお土産にと買ってきてくれたのです」

 カリナの父であるマックイン侯爵は、軍務の大臣の地位を確立しており、今回のカンニガム伯爵が出征した北の戦地に関しても、少なからず関与をしているはずだ。もちろん、目の前にいるランスも、今回のことで忙しいはずなのだが、カリナの元に来る時間はあるらしい。

「そうでしたね、本当に北部の奴らは……すみませんね、カンニガム家の方の前でこんなことを言うのは失礼かと思うのですが」

 しかし、ランスのその表情を見る限り、本当に申し訳ないとは思っていないだろう。むしろ煩わしいと思っていることがありありと感じられた。

「いえ」

 それしかミーガンは答えられない。すぐに紅茶を口にして、気にしないふりをしたが、紅茶の味がしなかった。

「そう言えば、ミーガン。ちょっと聞きたいことがあって」

「何かしら?」

 カリナの問いかけにティーカップを置いた。

「もしご存知でしたらという話なんですけれど」

「ええ。どうしたの? 改まって」

 カリナはとても言いにくそうにしていた。何が言いたいのかミーガンはさっぱり分からずに、首を傾げる。

「北部の戦線から戻ったお父様は難しい顔をなされていて」

「……何かあったのでしょうか? 我が家も何か関連しているのでしょうか?」

 そうは言ってみたもののミーガンは、ほとんど伯爵家の事情には関わっていないため全く予想がつかなかった。時折、王都の方で必要な手続きがある場合などは、ミーガンが代行して仕事を行うこともあるが、そのくらいのことで、詳しい内部事情について、ミーガンは知らないも同然だった。

 ランスが同席していることもあり、ミーガンは粗相が無いように冷静を装うが内心、冷や汗が止まらなくなっていた。

「いえ、そうじゃないの。ただ、うまく言えないのだけど……」

 カリナの言葉では要領を得ず、何を言わんとしているのか、その意味をつかむことができない。どんな言葉をかければカリナの気持ちを、紐解くことが出来るだろうかと考えていたところ、

「カリナは侯爵が北の戦地を話題にする度に、政治的な意味合いだけではなく、それ以上の何かを感じる。そう言いたいのだろう?」

 ランスがそう助け船を出すと、カリナはすぐにこくりこくりと頷く。

「そうです。私が言いたかったのはそこですわ。父は北部のことを話すとき、いつも妙な表情をするのです。それを見て、北部には公にはできないような何かがあるのかしらと――あの、ご家族の秘密だとか、秘匿にされているようなことだったのなら、もちろん仰る必要はないの。ただ、昔からちょっと気になっていて。もちろん。ミーガンの家が北部とも密接に関係しているから気になっていると言うこともあるのだけれど」

「ありがとう」

 その言葉からカリナなりに、ミーガンのことを心配してくれているのだろうと言う気持ちが伝わり、笑顔を向けた。それに対して、ランスは難しそうな表情を見せる。しかし、ほんの一瞬のことで、すぐにあの優しい笑みを浮かべるのでカリナは気づいていない様子だった。気がついたのはミーガンだけだったのだと思うが、ランスに対して底が見えないような怖さを感じていたこともあり、それ以上の追求はせず、少し考えるふりをして。

「北部ではありませんが、伯爵家には影華の君と言う植物に関しての逸話があります」

 ぽろりと言葉をこぼす。

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