兄と妹
「ここは100年前の勇者パーティ2人のペアと魔王と勇者のペアに分断した方が綺麗じゃなくて?」
レオンは答えず、ただ彼女の瞳を見つめる。
その奥に、戦意とは別の“何か”が渦巻いているのを感じた。
「君……泣いてるのか」
「は?なにを……」
「何十年、何百年、ずっと泣いてるんだろ?」
「泣いてないっ!」
マーサは叫ぶ。だが頬を伝う一筋の涙が、彼女自身を裏切る。
レオンはゆっくりと一歩踏み出した。マーサは反射的に魔力を構えるが、レオンは剣を投げ捨てるように床へ落とした。金属音が響く。
「戦う気はない。君を殺す理由も、殺したい理由も……俺にはない」
「私は魔王の娘よ。あなたの敵でしょう」
マーサは自嘲気味に笑う。その笑みは、どこか壊れかけていた。レオンは首を振る。
「敵かどうかなんて、今はどうでもいい。君は……ずっと誰かを探してる顔をしていた」
——僕もずっと父親を探していたから。今も探しているから、分かる。
マーサの表情が凍る。
「……どうして、それを」
「さっき戦ってる間、ずっと感じてた。 君の攻撃は鋭いのに、どこか“迷ってる”。誰かを失った動きだ」
マーサの魔力が揺らぎ、指先から光が消える。
「私は……兄を探してる。数百年も。でも、見つからない。見つけられないのは、私が弱いから……」
声が途切れ、膝が崩れそうになる。レオンは慌てて駆け寄り、倒れ込む彼女を支えた。
「弱い? 違う」
レオンは静かに言う。
「数百年も探し続けられる人間が、弱いわけない」
マーサの瞳が揺れる。
その言葉は、彼女がずっと欲しかったものだった。
「でも……私はもう、どうしたらいいの……?兄を探して世界中を旅した。身を焦がしながら聖女の真似事をして神聖魔術まで会得した……でも、だめだった……」
「なら、俺が一緒に探す」
レオンは迷いなく言った。
「君が兄さんを見つけるまで、俺が隣にいる。戦うためじゃない。君が……ひとりで泣かなくていいように」
マーサは息を呑む。その胸の奥で、長い間凍りついていた何かが、音を立てて溶けていく。
「どうして……そこまで……」
レオンは少しだけ笑った。
「さっきまで戦ってた相手が、こんな顔で泣いてたら……放っておけるわけないだろ」
マーサは初めて、戦いの中では見せなかった表情をした。それは、救われたいと願う、人間の顔だった。
「……レオン。私を……助けてくれるの?」
「助けるよ。君が望むなら、何度でも」
その瞬間、マーサの魔力は完全に消えた。
戦いは終わり、彼女の心は初めて“救われる方”へと傾いた。




