悪役令嬢とヒロイン
「やっと、正体を表したわね」
「……バレてたみたいだし」
アイリス・フォン・エルディアの姿で、初めて出会ったこの場所で、リリエッタと言葉を交わせる。この奇跡を、無駄にはしない。
玉響の沈黙があり、先に口を開いたのはリリエッタだった。
「アイリたそとはどういう関係?」
「……身体を乗っ取られた。だから私は転生者が嫌い」
「だから殺したの?」
一瞬、言葉に詰まった。だが、意を決した。
「そう」
この話し合いが、本当にこの身体でできてよかった。元の体に戻った時、この身体の記憶も流れてきた記憶。星乃アイリが思ったこと、感じたことが全て流れ込んできた。
「星乃アイリは、私が思っていたより悪い人じゃなかった」
言葉を選ぶ。ここで間違えてはいけない。
「あの髪飾りに、もう一つの人格が入っていたの」
責任は全て、その謎の人格になすりつける。——その人格が本来の星乃アイリであり、配信モードの方が虚像だというのが真実だとしても。
「……私、リリエッタと仲直りしたい」
元々友達というわけではないけれど。シナリオを乗り越えて悪役令嬢とヒロインが手を取る瞬間があるなら、それはきっと最高の世界だろう。
「……無理だよ」
リリエッタが声を絞り出す。
「私、前世でも今世でも人を殺しちゃってるんだもん。そんな私と仲直りなんて……無理だよ」
その言葉に、胸が締めつけられる。
でも、逃げたくなかった。
「……リリエッタ」
そっと一歩近づく。
「私だって同じだよ。アイリを殺した。取り返しのつかないこともした。でも、それでも……“今の私”がどうしたいかは、私が決めていいはずだよね」
リリエッタの肩がわずかに揺れる。
「罪が消えるわけじゃない。でも、罪を抱えたままでも……誰かと手を取りたいって思っていい。少なくとも私は、リリエッタと敵のままでいたくない——罪人同盟、組んじゃおうよ⭐︎」
沈黙。
長い、けれど拒絶ではない沈黙。
やがて、リリエッタはぽつりと呟いた。
「……ずるいよ。そんな言い方されたら……私だって、仲直りしたくなるじゃん」
顔を上げた彼女の目は、泣きそうで、でもどこか救われたようでもあった。
「……じゃあさ。私たち、罪人同士でいいから……もう一回、やり直してみる?」
胸の奥が熱くなる。
「うん。私も、それがいい」
二人の間にあった重たい壁が、静かに崩れていく。




