魔王 前半
瓦礫の山と化した古戦場。空は裂け、黒い稲妻が走る。
魔王は荒い息を吐きながら立っていた。
ついさっきまで、五人の精鋭で挑んだ。それでようやく互角――いや、押されていた。だが今、戦場に立つのは魔王とルーファスだけ。白髪の老騎士は、血に濡れた剣を静かに下げていた。その瞳は深い闇を宿し、何も語らない。
「……化け物め。なぜ老いてなお、その強さを保てる」
魔王の問いに、ルーファスは答えない。ただ、ゆっくりと歩み寄る。
——その歩みは、まるで死神。
魔王は歯を食いしばり、黒炎を噴き上げる。空気が震え、地面が溶けるほどの魔力。黒炎の槍が十本、ルーファスへと飛ぶ。
轟音と爆発。炎の渦が老騎士を飲み込む。だが、炎の中からルーファスが歩み出た。
肩が裂け、血が滴っている。それでも、歩みは止まらない。
「……足りん」
低く、かすれた声。その声には怒りも誇りもない。ただ、虚無だけがあった。
魔王は一瞬、息を呑む。この男は、もう“勇者”ではない。世界の不条理に呑まれ、闇に片足を突っ込んだ怪物だ。
ルーファスの剣が黒く染まり始める。まるで世界の理そのものを否定するような、禍々しい気配。
「その力……貴様、闇に呑まれかけているのか」
「上司から……使えるものは全て使ってでも魔王を倒せと言われているのでな」
一閃。
魔王の腕が吹き飛んだ。
「ぐっ……!」
痛みよりも恐怖が勝った。魔王は後退しながら、残った腕で魔界の根源を呼び出す。黒い魔力が竜巻となり、ルーファスを押し返す。
「2度も負けて……たまるか!」
魔王は自らの命を削り、魔力を凝縮させる。と同時に、上位次元からの干渉を感じた。不気味なほどに神々しい光によって、強化される。胸の中心に黒い核が形成され、世界が震えた。
「《魔核解放・終焉》!」
それは、魔王の想像すらも軽く超えた威力だった。。爆発が荒野を飲み込み、ルーファスの身体が吹き飛ぶ。老いた身体は悲鳴を上げ、骨が砕ける音が響く。地面に叩きつけられたルーファスは動かない。魔王は膝をつきながらも、勝利を確信した。
「……終わりだ、ルーファス」
その瞬間、ルーファスの指がわずかに動いた。魔王の顔から血の気が引く。老騎士はゆっくりと立ち上がる。骨が砕け、筋肉が裂けても、立ち上がる。
「……やはり魔王を殺されたくないのか!ジュリニール……っ!」
老人が初めて感情を露わにする。初めて笑う。
「俺の全てをかけてでも、お前を殺す!」
「やってみろ勇者!」
二人は再び激突した。
互いの血が飛び散り、荒野が砕ける。
そして――魔王の拳が、ついにルーファスの胸を貫いた。
老騎士の身体が揺らぐ。
「これで終わ『させない!』」
魔王の台詞を遮るは、ラトソル。
「決着をつけるのは私たち勇者パーティよ!……今となっちゃ勇者バディだけど⭐︎」
顔を上げると、天まで届く光の剣を振り翳した少年の姿が目に映った。
「これで終わりだああああああああ!」
死を悟る。これはもう、どうしようもない。
『ルーファスだけでも殺せ!』
声が、頭の中へ駆け巡る。魔王の身体はなぜかその言葉通りに動いていた。
ルーファスの胸を抉り、心臓を握りつぶした。
「パーフェクトヒール!」
それも、治された。義理の娘、オークルマーサ。神聖魔術に身を焦がしながら、ルーファスを治した。
「何故……」
「今まで気づかなくてごめん……お兄ちゃん!」
マーサは魔王へ抱きつく。
「ずっと、こうしたかった……!」
まさか。もう会えないと思っていた。この世界へ転生したのが自分だけじゃないなんて考えもしなかった。
「リリィ……?」
そして、正義の剣が振り下ろされ、魔王親子は死んだ。
【3章完結】……最終章構想中。




