"過去日記"Ⅱ
彼女は、目の前に現れたキノコの異形に言葉を失っているようだった。ルーファスは、自分に何が起きているのかよくわかっていないようだった。すまない、と心の中で謝る。家族全員を救うことは可能だが、そうすれば現代で奴に立ち向かう仲間が消えてしまうのだ。ルーファスがいなければ奴を倒せない。
彼女の表情が変わった。なにか奴に吹き込まれたのか、と思った一弾指の間に、彼女はその包丁で自らの首を掻き切った。能力を発動する隙すらなかった。しまった、と思う。幼いルーファスの瞳には恐らく吾は敵に見えているだろう。このまま帰れば、ルーファスが味方になるという事実すら無かったことになりかねない。
加えて、こちらもいくつかの綱渡りをして過去まできている。過去に戻って、それでも起きたことはもう過去改変できないのだ。
考えたな、と思う。奴が体に乗り移れるのは、奴の眷属が殺した相手の肉体のみ。そしてまだ未熟だったアルフレッド王子ですらルーファスと一時でも互角で戦える実力を得たのだ——眷属に乗り移れば、奴の力の何%解放できるかなど未知数——。
「この身体は、よく馴染む——」
ルーファスの母親に受肉したジュリニールの突き刺すような殺意に、吾は同じく殺意を以って返す。
「吾思う故に吾あり」
——その能力は、"内"と"外"の境界の画定。乃至は、"内"と"外"の隔離。
"内"と"外"の隔離——そう、有り体に言えば、"無敵"だ。




