"過去日記"Ⅰ
『そして、私は日記で見た未来を避けるため、"お告げ"に従った。今までもずっとお告げに従ってきて成功していた。お告げを疑っては碌なことがないこともお告げが教えてくれた。
だから私は夫を殺した。
あのとき私は、迷いながらも“線”を越えた。
手を汚したのは事実だ。
けれど、お告げは静かに告げた——「これで一つ、最悪は遠のいた」と。
問題は、その次だった。
ザレンの名が、お告げに浮かんだとき。
胸の奥で、何かがきしんだ。
あの子は、私のすべてだったはずなのに。
お告げは淡々としていた。
「このままでは、あの子が“鍵”になる」と。
“鍵”が何を意味するのか、最後まで教えてはくれなかった。
あの日のことを、私は細かく思い出したくない。
ただ、ひとつだけはっきりしているのは——
私は、お告げに逆らえなかった、ということ。
気づいたときには、もう戻れないところまで来ていた。
ザレンの部屋に残った静けさと、胸の奥に空いた穴だけが、
今も私の中で、形を変えずに居座っている。
それでも世界は、何事もなかったかのように回り続ける。
朝は来て、夜は来て、私は食事を作り、片づけ、眠れないまま目を閉じる。
そんな中で、またお告げが降りた。
今度は——ルーファスの名だった。
最初は聞き間違いだと思った。
何度も、何度も、心の中で問い直した。
けれど、お告げは揺らがない。
「次に動くのは彼だ」と、冷たい声で告げるだけ。
私は今日、台所のテーブルに肘をつきながら、
ルーファスの笑い声を遠くに聞いていた。
あの子は何も知らない。
ザレンのことも、本当のことは何ひとつ。
けれど、私はやる。それ以外の生き方を知らないから。
そして私は、包丁をまだ幼いルーファスへと振り翳し……』
そんな未来は、"吾"が起こさせない。そのために、吾はこの時代に来たのだ。
震える"彼女"は、急に雨が降り出したことにも気づかなかった。
「目的論的自然観」
能力を発動させる。
「何故雨が降るのか?——吾が降臨するためだ」
ルーファスを救うため、キノコは行動を開始した。




