36話 ジュリニール
——ソレは、白い空間にただ静かに佇んでいた。
境界も影も存在しない、どこまでも続く無垢な白。その中心にぽつりと立つソレは、まるでこの世界における唯一の“色”であるかのように、異質な存在感を放っていた。
人間のものとは明らかに異なる耳が、頭の上でぴくりと揺れる。
その形状から、リリエッタは思わず猫の獣人なのだろうかと考えた。けれど、よく目を凝らしてみると、猫と断じるにはどこか違和感がある。耳の角度、毛並みの質感、そしてソレの纏う空気――どれもが、彼女の知る獣人とは微妙に異なっていた。
そして、違和感は自身の体にもあった。さっきまでリリエッタの体だったはずなのに、前世での姿になっていたのだ。一糸纏わぬ、"佐伯莉里"の姿がそこにはあった。
「君をここに呼んだのは、君はラトソルを殺さないといけないからだ」
「もうやめて…!」
リリエッタは混乱していた。今までずっと自分を助けてくれた予言の主に、初めて敵意を抱いた。
「でも実際、僕の助言がないと君の存在は消えていただろう?」
魔王を倒したらリリエッタという存在は消える。それは、本能が正しいと言っている事実だった。
「それでも…!人間を殺して良いわけないじゃない」
その言葉に、猫は嗤笑して言った。
「それを君が言うのかい?——アルフレッド王子を殺したくせに」




