34話 星の輝きⅩ
刃をラトソルの肌に触れさせるほど近づけ——
そのまま、動かなくなった。
刃先が震えている。
リリエッタの肩も、わずかに震えている。
「……っ……」
声にならない息が漏れた。
短剣を握る手に力が入らない。
押し込めば終わるはずなのに、ほんの数ミリがどうしても進まない。
ラトソルは目を閉じたまま、かすかに呟いた。
「……リリエッタ……」
その名を呼ばれた瞬間、リリエッタの全身がびくりと震えた。
「……っ……やめて……」
短剣が、ほんの少しだけ離れる。
それでも、彼女はまだラトソルの上に覆いかぶさるようにして動かない。
レオンは息を呑んだ。
殺す気だったはずなのに、リリエッタの刃は落ちない。
「……殺せばいいのに……どうして……」
リリエッタの声は、誰に向けたものでもなかった。
自分自身に言い聞かせるようで、責めるようで、泣き出しそうでもあった。
それでも、刃は下りない。
ラトソルは動けない。
レオンも動けない。
ただ、リリエッタだけが震えていた。
そして——短剣が、ぽとりと地面に落ちた。
乾いた音が、戦場に響いた。
リリエッタはそのまま、ラトソルの胸元に手を置き、俯いた。
顔は見えない。
何を思っているのかも分からない。
ただひとつだけ確かなのは——彼女は、ラトソルを殺せなかった。




