第二章、訪れるは孤独な地底世界 ⑩
【第十話、深く暗い地底の二人は】
私は間違っていなかった。
鬼達からこいしを守るために里を離れたことの何がいけなかったの?
里に戻ったのは申し訳なさがあったから、
こいしを守るためとはいえ、里を見捨てたのは罪悪感があった。
だから里から人間の声が聞こえてきたときは私も嬉しかった。
なのに…人間たちは私たちを【鬼を連れてきた裏切り者】とした。
さとり妖怪は本当に弱い存在。
だから、一人の人間には負けないが、10数人の人間たちにはなすすべがなかった。
人間たちはまず私たちを罵倒し石を投げてきた。
並の妖怪なら石を投げても効果なんてないだろう、
でも私たちの体は人間と同等の耐久度しかない。
何度も投げられる石からこいしをかばいながら逃げることしかできなかった。
だけど、私が逃げると分かると、人間は足を狙ってきた。
その何個かが当たり、痛みで転んでしまった。
でも、せめてこいしだけは逃がしてあげたかった。
だから、私はこいしに私を置いて逃げるように伝え、
こいしも従ったが…人間たちは標的をこいしに変え石を投げ始めた。
こいしに投げた石が当たり血が出て傷が増えていくのが私は見てられなかった。
そして、こいしのサードアイが潰れたとき…私は人間に殴りかかった。
そのあとは人間たちが標的を私に戻し殴り、蹴り、
刃物を持ち出してきて全身を切られた
私は意識を失う前に自分は死ぬのだと悟り、
ただこいしだけは無事でいてと願った。
…あの大穴に落とされるまでは。
あの大穴に落とされたとき、私は一瞬で意識を取り戻した。
そして、見えたんだ…人間たちの心が。
人間たちの怒りや憎悪、嫌悪は私の中に入ってきた。
その瞬間、私は自分が自分じゃなくなるのを感じ、
…近くにこいしがいたのも気付かなかった。
…ずっと……ずっと後悔していた。
後悔を…していたのに……私は…口に出せなかった。
地底の妖怪たちにはもちろん…今の地霊殿の子たちにさえ……。
私は……どうしたらいいの?
だって、昔のことを忘れられるわけない!!
こいしを傷つけた人間たちを許すことはできない!!!
……でもこいしは…今の私を見たら……どう思うのだろうか?
「………………………え?」
鬼怒という男が倒れていく。
きっと私の黒い霧を吸いすぎたんだろう。
…私はどうすればいいの?
「……お姉ちゃん!!!!!!」
「え?」
いきなり現れたこいしが男を支えた。
「もうやめてよ!! 人間は私だって憎いんだよ!
だけど…そんな私だけど!! 変わったんだ!!!
もう私は人間を恨んでない!…憎んでないの!
それはこの人のおかげなの!
…鬼怒のおかげで私は変わることができたの!!
だからもう鬼怒を傷つけるのはやめて!!!
これ以上失いたくないの……ねぇ、お姉ちゃん。
なんでお姉ちゃんは人間を憎むの?」
「……こいし。……お姉ちゃんね、ずっと……ずっとね」
涙が出る。こいしがここにいることが何よりもうれしい。
だから、私は今変わろうとする。
こいしのためと、地底のためと……少しだけ鬼怒のために。
「…ずっと、自分を許せなかったの。
あの時、こいしを守れなかったことをずっと後悔してた。
…人間は確かに憎いし恨んでる。
でも、それよりもこいしがいないのが本当に辛かったの…」
「…お姉ちゃん」
こいしが私を抱きしめる。
暖かい……この数十年こいしはいなかったのに、
ずっと一緒にいた気分になる。
……そういえば昔は寝るとき同じベッドで寝てたっけ。
「…私はここにいるよ。
……ねぇ、お姉ちゃん。 さっき私に【笑って】って言ったでしょ?
…私もお願いしたいな」
こいしが私を離し向かい合う。
こいしの顔も私も涙で濡れている。
……涙なんて出なかったはずなのに止まらない。
「こいし! おかえりなさい!!」
「うん! ただいま!!!」
まだ完全には変われてない。
でも、もう大丈夫。
こいしがいるなら私は大丈夫。
……だってこんなにいい笑顔で笑うことができるのだから。




