第二章、訪れるは孤独な地底世界 ⑨
【第九話、黒い霧】
「…くそ」
こうすることしか出来なかったのか?
もっと方法があったんじゃないか?
でも……もう遅いな。
「うわ…ありゃあすげぇや」
さとりが強いということは紫からもパルスィからも言われていた。
だから、油断はしてない。
身体強化は今までで一番強いものをかけてるし、
今の僕なら山を吹き飛ばすこともできると思う。
だけど、さとりの力はものがまるで違った。
地霊殿から僕が出ると同時にさとりも飛び出してきたが、
さとりが出てきた瞬間、辺りの空気が酷く汚染されたみたいだった。
それにさっきから体の調子が悪い。
まるで何か悪いものが体の中に入ってこようとしてるみたいだ。
「お前ら人間のせいだ…お前ら人間のせいで!」
「!!」
さとりから黒い霧が放たれる。
あれがさとりの力なのだろう、
人間の負の心が生み出したもの。
寸前で回避する。
だが、辺りにはより濃く空気が汚染されて、
…まるで地獄だ。
…このままじゃ非常にまずい。
さとりの器の力はこの黒い霧を生み出している。
そんなものを取り込んだらどうなるかわからない、
だから、さとりから器の力を吸い取ることはできないんだ。
だが、このままだと僕はこの黒い霧を吸いすぎてしまう。
だから耐性を器の力で作らないといけないのだが、
後のことを考えるとなるべく温存したい。
だから…
この方法はなるべく使いたくなかったんだが仕方ない、
地底の全ての器の力をイメージする。
もちろん、さとりは除いて。
それを吸い取っていく。
なるべく気づかれないように。
…よし、これくらいあれば十分だろう。
集めた器の力でこの黒い霧の耐性を作る。
さて…もう甘い考えはやめよう。
さとりは間違ってない。
誰も間違ってないが…もう残された道は戦いしかない…
【そんなわけがないだろう】
…確かにさとりたちは酷く残酷なことを身に受けてきたんだろう。
だけど、さとりの体に巻き付いたひもがまるで鎖みたいになってる。
あれじゃあ、まるで心を縛ってるみたいだ。
さとりは自分の本当の気持ちを隠してると思う。
せっかくこいしが正直になったんだ、
この機会を逃すわけにはいかない。
「さとり! 正直になれ!
君は自分の本当の気持ちを隠してるんだ!」
「人間ごときが……お前に何が分かる!!
お前たちのせいで私たちは」
「それは本当の理由じゃないだろう!
さとりが許せないのは!」
黒い霧がまたさとりから僕の方に放たれる。
「…くそ…さとり!」
「な!? 当たったのに…何で!?」
…でも、今の僕なら受け止められる。
こいしは自分の過去を後悔していた。
だけど、さとりは…自分の過去を自分で縛り付けて、
心まで閉ざしてしまってる。
…でもさとりはいずれ、全てを失った後に後悔するだろう。
鬼たちが自分のしたことで後悔したように。
だから、僕はさとりを救うために真っ直ぐさとりへと向かう。
「さとり! 君が今も人間を憎んで一体何になるんだ!
何のためになるんだよ!!
この数十年で君が得たのは人間の憎しみだけだ。
こいしも、楽しいはずの日常も、今のさとりの仲間も君は失ってる!
君が変わらない限り今の地底を……こいしをいずれ失うぞ!!」
「…違う!!!!!
違う、違う、違う!!!
お前らのせいなんだ!
お前らのせい…」
「…くそ…まずいな」
さとりの黒い霧を吸いすぎたのか、耐性の力も徐々に侵されてる。
このままじゃ、本当にまずい。
…だけど、もうすこしなんだ…
もうすこしで…。
「…さ、さとり!!
こいしは言っていたぞ! もう人間は恨んでないって!
でもどうしたらいいかわからなかったんだって!
さとり! 君にとって人間を永遠に恨み続けるのと、
こいしとどっちが大切なんだ!?
…いい加減人間に囚われるのはやめろ!!
君が変われば過去がなくなるとは思ってない!
だけど、君が変わらないと、変わってほしいと君が望むことも、
ずっと永遠に変わらないんだぞ!!!!」
「…こいし……」
「さとり…君はこいしにどうしてほしいんだ?
君だってわがままを言っていいんだぞ。
過去の悲しく辛い時間をいつまでも恨むのはやめて、
元の優しく素敵なお姉さんに戻ったらどうだ?
…なぁ、さとり」
「…………………え?」
くそ!! だめだ!!
まださとりから答えを聞いてないのに、
まださとりを救えてないのに!!
くそ、くそ、くそ!!!
頼む、あとすこしなんだ!
あと……すこ…し……




