第二十六話 返らなかった声
榊原道隆は語った。
カヨが守ったのは、アラムだけではない。
アラムが母を呼ぶ名、リクの名だったのだと。
そして翌日。
三上怜司、十和田澪、久我透は、大学の研究室で悠一の録音テープを聞く。
四十年前に止まった声。
雪と沢に消されたはずの歌。
そこには、何が残されているのか。
※本作は、青森県に伝わる「キリストの墓」伝承を題材にしたフィクションです。
※実在の宗教、信仰、団体、地域、人物を否定・揶揄する意図はありません。
※作中の歴史解釈、文書、事件、人物関係は物語上の創作です。
青森市の空は、薄く晴れていた。
前日の雨で雪はさらに溶け、道路脇には汚れた白い塊が低く残っているだけだった。水たまりには雲が映り、車が通るたびに小さく揺れた。
三上怜司は、大学の駐車場で車を降りた。
今日は、鞄が軽い。
録音テープの原本は、すでに相馬由紀准教授の研究室にある。怜司が持っているのは、手帳と録音許可書の控えだけだった。
それなのに、肩は重かった。
隣で十和田澪が車のドアを閉める。
彼女は昨日よりも落ち着いて見えた。だが、目元には眠れなかった跡がある。
久我透は、後部座席から無言で降りた。
三人とも、あまり話さなかった。
昨日、榊原道隆の言葉を聞いたばかりだった。
帰る場所のある子は、村のものにはできない。
その言葉が、怜司の中に残っていた。
アラムは、村の伝承ではなかった。
誰かの子だった。
母の名を呼ぶ子だった。
リクと聞き取られた声を持つ子だった。
そして、カヨはその名を守ろうとした。
今日は、そのことを歌ったかもしれない悠一の声を聞く。
研究室へ向かう階段を上がる途中、澪が立ち止まった。
「少しだけ」
怜司と透も足を止める。
澪は手すりを握り、深く息を吸った。
「大丈夫です」
そう言ったが、自分に言っているようだった。
怜司は頷いた。
「急がなくて大丈夫です」
透は何も言わなかった。
ただ、少しだけ視線を逸らして待っていた。
相馬の研究室には、すでに準備が整っていた。
机の上にはノートパソコン、小型スピーカー、音声編集ソフトの画面。横には、保護ケースに入ったカセットテープの原本が置かれている。
相馬は立ち上がり、三人を迎えた。
「来てくださってありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうございます」
怜司が頭を下げる。
相馬は椅子を示した。
「まず、確認事項をお伝えします。音声は一次デジタル化したものです。ノイズがかなりあります。全体で約十八分。歌唱部分と思われる箇所は三か所あります」
澪の肩が少し動いた。
「悠一の声かどうかは、分かりますか」
相馬は慎重に答えた。
「断定はできません。ただ、ラベル、内容、声の年齢感、大学資料の聞き取りメモとの一致から、十和田悠一氏の歌唱である可能性は高いです」
透が低く言った。
「父の声は入っていますか」
相馬は透を見る。
「一部、男性の話し声があります。久我玲一氏かどうかは、現時点では分かりません」
怜司の胸が強く打った。
久我玲一の声。
もしかすると、入っている。
四十年前、沢へ向かう前の声が。
「父……三上宗一郎の声は?」
怜司が尋ねると、相馬は首を横に振った。
「今のところ、明確には確認できていません。ただ、録音状態が悪く、聞き取りは今後も必要です」
怜司は頷いた。
少し安堵し、少し落胆した。
父の声を聞きたいのか、聞きたくないのか、自分でも分からなかった。
相馬は紙を一枚配った。
「今日の試聴範囲です。すべてを聞く必要はありません。途中で止められます。録音内容の持ち出し、複製、引用は、現時点では行いません」
怜司は目を通し、署名した。
澪も署名する。
透は少し遅れて、強い筆圧で名前を書いた。
相馬はパソコンの前に座った。
「では、最初の一分ほどから再生します。音量は低めにします」
誰も返事をしなかった。
再生ボタンが押された。
最初に聞こえたのは、ノイズだった。
ざあ、という低い音。
雨にも似ていた。
沢にも似ていた。
古い紙を擦る音にも似ていた。
その奥で、何かが動く。
かすかな息。
遠い声。
マイクに触れたような小さな衝撃音。
――入ってますか。
若い男の声だった。
澪の手が膝の上で固まった。
透が顔を上げる。
相馬が音量を少し調整した。
別の男の声がした。
――大丈夫です。少し、歌ってもらえますか。
怜司は息を止めた。
この声が久我玲一なのか。
はっきりとは分からない。
だが、外から来た者の丁寧な言い方だった。
若い声が、少し笑う。
――人前で歌う歌じゃないんですけどね。
澪の目が揺れた。
悠一。
断定はできない。
それでも、そこにいた。
若い男が、少し照れたように笑っている。
死者ではない。
記録の中の名前でもない。
その時、その場で息をしている青年だった。
音声が揺れる。
そして、歌が始まった。
低い声だった。
澪の歌よりも少し荒く、節回しは素朴だった。祭りの明るさはない。家の奥で、小さく確かめるように歌う声だった。
――かよは手を引く
――雪は道を消す
――子は泣かず
――母が泣く
そこで、ノイズが大きくなる。
ざざ、と音が割れる。
だが、歌は続いた。
――りくの名呼べど
――沢は返さず
――水は覚えて
――石は黙る
澪の目から涙が落ちた。
怜司はペンを握れなかった。
透は椅子の背にもたれたまま、動かない。
水は覚えて。
石は黙る。
沢の水。
二つの岩。
祠の板。
歌は、場所を覚えていた。
紙よりも先に。
記事よりも先に。
父の手紙よりも先に。
相馬はそこで一度停止した。
部屋に沈黙が戻る。
しかし、さっきまでの沈黙とは違っていた。
もう、声を聞く前の沈黙ではない。
声が入ってしまった後の沈黙だった。
澪が、手で口元を押さえた。
「本当に……歌っていた」
誰もすぐには答えられなかった。
透が低く言った。
「父は、これを聞いたのか」
相馬は静かに答える。
「この録音に同席していたかは不明です。ただ、後半に聞き手の声があります。追加で分析します」
怜司はようやくペンを動かした。
かよは手を引く。
雪は道を消す。
子は泣かず。
母が泣く。
りくの名呼べど。
沢は返さず。
水は覚えて。
石は黙る。
書きながら、手が震えた。
これは歌詞だ。
だが、証拠として乱暴に扱ってはいけない。
相馬が言った。
「続けますか」
澪は涙を拭った。
「はい」
透も頷いた。
怜司も、小さく頷いた。
相馬が再生を再開する。
ノイズのあと、会話が入った。
――そのリクというのは?
聞き手の声。
若い男が答える。
――母の名前だって、聞いてます。
――誰の母ですか。
少し間があった。
――アラムの。
部屋の空気が止まる。
録音の中の悠一は、続けた。
――本当の名前かどうかは分からないです。あの子がそう呼んだ音を、こっちの人がそう聞いただけかもしれない。でも、呼んだなら、残さないと。
澪が静かに泣いていた。
声を殺して。
悠一の言葉が、澄江の記憶と重なる。
リクと呼ぶしかなかった。
呼ばなければ、完全に消えてしまうから。
録音の中で、聞き手が言う。
――なぜ本帳にはないんですか。
悠一の声が、少し硬くなった。
――本帳は、男の人が書いたから。
透が目を閉じた。
怜司の胸に、その言葉が刺さった。
本帳は、男の人が書いたから。
それだけで、すべてを説明しているわけではない。
だが、あまりにも鋭かった。
悠一は続ける。
――いや、それだけじゃないけど。座で決めたことを書くから。歌っていた人のことまでは、書かない。カヨも、リクも、書くと都合が悪いんです。
――都合が悪い?
――清之進が悪い、で終わらなくなるから。
榊原と同じ言葉。
父の手紙と同じ意味。
だが、悠一の声で聞くと、重さが違った。
悠一は、誰かを責めるためではなく、淡々と仕組みを見ていた。
――カヨは、アラムを逃がそうとした。いい人だった、って言えば簡単です。でも、逃げ道を知っていたのはカヨだけじゃない。止められた人もいた。見ていた人もいた。行かせた人もいた。
聞き手が何かを言う。
ノイズで聞こえない。
悠一が続ける。
――だから、カヨだけをきれいにしても駄目です。あの人は守ろうとした。でも、守れなかった。それを歌にしたんだと思います。
相馬が、再び停止した。
怜司は、息を吐けなかった。
榊原が言った「カヨを美談にするな」。
その言葉は、悠一のこの言葉を歪めたものだったのかもしれない。
カヨだけをきれいにしても駄目。
悠一はそう言っていた。
それを榊原は、カヨを美談にするな、という刃に変えた。
半分だけ正しい言葉。
その元の声は、もっと慎重で、もっと優しかった。
澪が言った。
「悠一は、分かっていたんですね」
「はい」
怜司は答えた。
「たぶん、僕たちよりずっと前に」
透が低く言った。
「父は、これを聞いて、沢へ行ったのか」
怜司は何も言えなかった。
もし久我玲一がこの声を聞いたなら、止まれなかったかもしれない。
それほどの声だった。
だが、止まるべきだった。
一度立ち止まり、十和田家と話し、宗一郎と話し、葛原と話し、公開の順番を作るべきだった。
久我は急いだ。
悠一は、案内した。
宗一郎は止めきれなかった。
すべてが、また沢へ向かっていく。
「最後の歌唱部分があります」
相馬が言った。
「聞きますか」
三人は、しばらく黙っていた。
澪が頷いた。
「聞きます」
透も言った。
「聞く」
怜司も頷いた。
再生。
ノイズ。
遠くで、水の音のようなものが聞こえる。
室内録音ではないのかもしれない。
あるいは、窓の外の水音が入ったのか。
若い声が、前よりも低く歌い始めた。
――ナニャドヤラ
――ナニャドナサレノ
――アラ、ムナシヤ
――ナニャドヤラ
ここまでは、澪が歌った節と同じだった。
だが、その後が違った。
――かよの手は冷たく
――りくの名は遠く
――帰る道なく
――雪は降る
澪が両手で顔を覆った。
透は肩を震わせた。
怜司は、目の奥が熱くなるのを感じた。
帰る道なく。
それが、アラムだった。
帰る場所はあった。
だが、帰る道はなくなった。
村は、その帰る場所を消し、伝承の中に閉じ込めた。
神にした。
謎にした。
観光にした。
祈りにした。
記事にしようとしている。
怜司は、自分自身の立場の危うさを改めて感じた。
この歌を、どう書くのか。
書けば、届く。
だが、書けば、消費される。
書かなければ、また閉じ込める。
どちらかではない。
順番を作るしかない。
歌はさらに続いた。
――水は覚えて
――石は黙る
――人は忘れて
――歌が呼ぶ
そこで、音が大きく揺れた。
声が遠くなる。
最後に、悠一らしき声がぽつりと言った。
――これ、人前では歌えないです。
聞き手が何かを尋ねる。
ノイズ。
そして、悠一の声。
――でも、忘れたら駄目です。
そこで音声は切れた。
相馬が再生を止めた。
誰も動かなかった。
十八分の音源のうち、聞いたのは全部ではない。
それでも、十分だった。
部屋の中に、悠一がいた。
若く、迷い、照れ、慎重で、そして歌を忘れてはいけないと思っていた青年がいた。
透が、突然立ち上がった。
怜司が身構える。
だが、透は窓の方へ歩いただけだった。
背を向けたまま、肩を震わせている。
「父は」
透の声が掠れていた。
「父は、これを聞いて、何をしたかったんだ」
誰も答えられなかった。
透は続けた。
「こんな声を聞いたら、行くなと言われても行くだろ。俺でも行く。行くなって方が無理だ」
怜司は静かに言った。
「それでも、行き方を考えるべきでした」
透は振り返った。
目が赤かった。
「分かってる」
その声は怒りではなかった。
「分かってる。でも、初めて父が急いだ理由が分かった」
怜司は頷いた。
「はい」
「許すわけじゃない」
「はい」
「でも、分かった」
その言葉は、透にとって大きな一歩だった。
許すことではなく、分かること。
澪は椅子に座ったまま、涙を拭いていた。
「祖母に、どう伝えたらいいんでしょう」
怜司は答えられなかった。
相馬が静かに言った。
「全部をそのまま伝える必要はないと思います」
澪は相馬を見る。
相馬は続けた。
「澄江さんが今聞ける形で、と言っていたのですよね」
「はい」
「なら、まず伝えるのは、悠一さんが歌っていたこと。そして、忘れたら駄目だと言っていたこと。それだけでもいいと思います」
澪はゆっくり頷いた。
「はい」
怜司は手帳に書いた。
悠一は歌っていた。
忘れたら駄目だと言った。
それが、最初に伝えるべきことだった。
全部を知らせることが誠実とは限らない。
相手が受け取れる形にする。
それは隠すことではない。
人の顔を見ることだった。
相馬は音源ファイルの管理について説明した。
原本は大学で一時保管。
デジタルデータは複製を二つ作成。
一つは研究室保管。
一つは三上怜司へ、ただし暗号化して渡す。
十和田家の同意なしに公開しない。
記事で歌詞を引用する場合は、短い断片でも事前確認。
音声そのものの公開は現段階では行わない。
怜司はすべて確認し、同意した。
透も、何も言わずに頷いた。
澪は最後に言った。
「音声を、祖母に聞かせる日は、まだ決めません」
相馬は頷いた。
「それがいいと思います」
研究室を出る前、怜司は相馬に尋ねた。
「先生。この音源は、資料としてどれくらい重要ですか」
相馬は少し考えた。
「非常に重要です」
そして、すぐに付け加えた。
「ただし、重要だからといって、すぐ公開すべきという意味ではありません」
「はい」
「この音源は、学術資料であり、家族の記憶であり、地域の痛みでもあります。どれか一つにすると、壊れます」
怜司は深く頷いた。
どれか一つにすると、壊れる。
その言葉は、記事にもそのまま当てはまった。
大学を出ると、夕方の空が広がっていた。
雲の隙間から、薄い光が差している。
駐車場まで歩く途中、澪が立ち止まった。
「三上さん」
「はい」
「私、祖母に言います。悠一は歌っていた。忘れたら駄目だと言っていたって」
「はい」
「それから、いつか一緒に聞こうって」
怜司は頷いた。
「それがいいと思います」
透が少し離れたところで言った。
「俺も、もう一度聞く」
怜司は彼を見る。
「はい」
「今度は、父の手記と一緒に聞く」
透は空を見上げた。
「父が何に急いだのか、ちゃんと考える」
怜司は静かに頷いた。
車に乗る前、怜司はスマートフォンを取り出した。
編集デスクに短く報告する。
――一次試聴終了。
――歌唱部分確認。
――カヨ、リク、アラムの関係に関わる内容あり。
――音源公開は不可。歌詞引用も保留。
――まず関係者説明を優先。
――記事化は慎重に設計します。
返信はすぐに来た。
――了解。
――第四回、急ぐな。
――ただし、読者には進展を伝える必要がある。
――「音源が確認された」事実までに留める案を考えろ。
怜司は画面を見つめた。
音源が確認された。
それだけでも、十分に強い。
だが、今はそこまでかもしれない。
帰りの車の中、三人はまた黙っていた。
行きの沈黙とは違う。
今度は、声を聞いた後の沈黙だった。
怜司の耳には、悠一の歌が残っている。
――人は忘れて
――歌が呼ぶ
その一節が、何度も戻ってくる。
人は忘れる。
忘れようとする。
忘れたふりをする。
忘れたことにして生きる。
だが、歌が呼ぶ。
名前を。
母を。
帰る道を。
守れなかった手を。
聞こえていた声を。
資料館へ戻ると、澪はすぐ十和田家へ向かった。
一人で行きたいと言った。
怜司は止めなかった。
透も、しばらく資料館の前に立っていたが、やがて言った。
「俺は帰る」
「大丈夫ですか」
「大丈夫じゃない」
透は正直に言った。
「でも、今日は一人で考える」
怜司は頷いた。
「何かあれば連絡してください」
透は短く頷き、車へ向かった。
怜司は資料館の一室へ戻った。
机の上に、父の手紙のコピーがある。
声は聞こえていた。
父の一文。
今日、怜司も声を聞いた。
だが、父とは違う形で聞いた。
一人ではなかった。
専門家がいた。
澪がいた。
透がいた。
記録が残された。
公開しない判断も共有された。
それでも、声の重さは消えない。
怜司はノートパソコンを開いた。
第四回の原稿には、まだ入れない。
まず、メモを書く。
――悠一の声は、事実を証明するためだけのものではない。
――それは、誰かが忘れることに抗った痕跡である。
――歌は、帰る場所を失った子を、村の中に閉じ込めないために呼び続けていた。
ここまで書いて、手を止める。
強い。
強すぎる。
記事にするには、まだ整える必要がある。
怜司は別の文を書いた。
――関係者立ち会いのもとで、古い録音テープに歌唱部分が残っていることが確認された。内容の詳細や音声の公開については、関係者の意向と資料保全の観点から慎重に検討する。
これは記事の文だ。
淡々としている。
だが、その奥に悠一の声がある。
夜になって、澪からメッセージが来た。
――祖母に伝えました。
――悠一は歌っていた。
――忘れたら駄目だと言っていた。
――祖母は泣きました。
――でも、「ありがとう」と言いました。
怜司は、その画面を長く見つめた。
ありがとう。
誰に向けた言葉なのか。
悠一に。
澪に。
声を壊さなかった人たちに。
あるいは、四十年越しに戻ってきた歌に。
怜司は短く返信した。
――伝えてくれてありがとうございます。今日は休んでください。
送信してから、椅子にもたれた。
外は静かだった。
雪解け水の音は、もうあまり聞こえない。
春が近づいている。
だが、物語はまだ終わらない。
音源が確認されたことで、次に書くべきことがさらに難しくなった。
榊原の言葉。
悠一の声。
女名控。
カヨ。
リク。
父の手紙。
すべてが繋がったようで、まだ記事にはできない。
怜司は手帳の最後に、一文を書いた。
――声は戻った。だが、戻った声をどう迎えるかは、まだ決まっていない。
それが、今の正直な状態だった。
明日、編集部と第四回の方針を決める。
音源確認の事実だけを書くのか。
外控文書と結びつけるのか。
榊原の証言をどこまで使うのか。
かよ節の存在を示すのか。
カヨやリクの名をいつ出すのか。
慎重に。
だが、止まらずに。
悠一は言った。
忘れたら駄目だ。
それは、急げという意味ではない。
丁寧に覚えろ、という意味だ。
怜司はパソコンを閉じた。
窓の外には、月が出ていた。
薄い雲の向こうに、ぼんやりと光っている。
雪の下から戻ってきた声は、まだ小さい。
けれど、確かに聞こえていた。
お読みいただきありがとうございます。
第26話では、悠一の録音テープが試聴され、「かよ節」とリクの名を含む歌が確認されました。
悠一は、カヨを美談にするのではなく、守ろうとして守れなかった人として歌に残していました。
また、アラムには「帰る場所」があり、村の伝承に閉じ込められる存在ではなかったことが、歌を通じて強く示されます。
次回は、悠一の声を受けて、連載第四回をどう書くか。
そして、カヨとリクの名をいつ、どのように公表するのかをめぐる判断へ進みます。




